おまけのお話
広い広い宇宙のとあるところに、一人の地味な星がいました。
彼にはまだ名前はありません。
彼には友達もいなければ家族もいません。
唯一の楽しみは双眼鏡で他の星ウォッチングをすること。
おそらくどこか未知の星の未知の生命体が落していったと思われるその双眼鏡が、彼の唯一の宝物でした。
友達のいない彼にとって、この二つの穴から見える様々なものがすべてでした。
ああ、今日もあの星は何てまぶしく光り輝いているんだろう!
あの星とあの星はまた喧嘩をしてぶつかり合っている・・・。
彼は毎日毎日マイペースにくるくると回りながら色々な世界を見ています。
そんな彼には、とても気になる存在の星がいました。
今日もその星が見える時間になると、彼はすかさず双眼鏡で二つの穴をのぞきこみました。
彼の見る先には、一人の小さな小さな星がいました。
その星は青く、ところどころ緑色で、それはそれは美しい星でした。
なんて美しいんだ・・・。
彼はため息をつきました。
そう、彼はその小さな星に恋をしてしまったのです。
しかし、彼女は彼の存在に気がついてはいません。
なぜなら、彼が双眼鏡をのぞいてやっと見えるくらいに彼と彼女の距離は離れているのです。
双眼鏡をもたない彼女が彼の存在に気がつかないことは当然のことでした。
でもあいにく、それは彼にとって幸いなことでもありました。
彼はとても汗っかきで、最近では熱が出たように体温が高く、表面はいつも蒸れたようにじめじめとしていました。
こんな姿を見られてしまうくらいなら、いっそ自分の存在に気付かないでいてくれた方がいいんだろう。
彼はそんなふうに思っていました。
そんなある日。
今日も恋する相手を拝見しようと双眼鏡をのぞきこんだ彼の眼に、みなれない何かが飛び込んできました。
何か、青くて小さな石のようなものが、その星のさらにさらにはるか遠くからこちらの方へむかって飛んでくるではありませんか!
「あれは一体なにものだ??」
彼が必死に目をこらして見ていると、ついにその青い石は彼女にぶつかってしまいました。
彼は驚きました。
驚きすぎて声もでません。
なんてことだ!
大丈夫なのか?
するとその小さな美しい星の青いところ、おそらくそこには水と呼ばれる液体がおおっている、にぶつかった青い石ははじけて一瞬大きく盛り上がったように見えました。
それはまるで突然そこに大きな滝が生まれたようなかんじでした。
しかし、しばらくするとそれはまた盛り下がり、何事もなかったかのように落ち着きました。
彼はもんもんとしました。
今のヤツは一体何者なのか?
彼女の身はは安全なのか?
考えると心配で心配で仕方がありません。
ところが。
そんな心配をしていたのもつかの間、またしてもその青い石が彼女をめがけて飛んでくるのが見えたのです。
「!!」
彼は青い石の再びの襲来に声もでないほどショックを受けました。
しかも、今度はなんと次から次へと何個も飛んでくるではありませんか。
彼女を助けたい・・・。
しかしあそこまで行くことは自分には出来ない・・・。
彼は心配で身もよじれんばかりです。
すると、飛んできた石は今度は彼女には当たらずにそのまま素通りしました。
良かった。
これで彼女の身に危険が及ぶことはない。
心から安心した彼ですが、事態は思ったよりも深刻です。
なぜなら。
その青い石は、今度はそのまま彼のほうをめがけて飛んできたのです。
彼とその星の距離は遠くても、その間をさえぎる星は一人もいません。
ということは、このまま石が飛んでくれば今度は彼にぶつかることは必至でした。
しかし彼は、あの小さな美しい星にぶつかるよりは自分にぶつかる方が数百倍もましだ、そう思いました。
自分が彼女を守るんだ。
石くらい何個だって受け止めてみせる。
その青い石は時間差で全部で7個飛んできていました。
もうじき最初の1個目が彼にぶつかります。
しかも彼は少しづつ回っているので、
彼女を見守ることができる時間はあとわずかです。
もうじき彼女が見えなくなってしまうその時、1個目の青い石は彼に激突する寸前でした。
3、2、1・・・
その瞬間、まるでみぞおちに強烈なボディブローをくらったような激しい衝撃が彼の体に走りました。
しかし次の瞬間、今まで感じたことのないものすごい清涼感が広がりました。
「なんだ、このすがすがしさは!」
それは高熱でひどい風邪をひいたようになっている彼の体を、
一瞬で冷やすようなすがすがしさでした。
一体何が起こったのでしょう?
しかし彼には何が起こったのかわかるはずもありませんでした。
なぜなら、彼はびっくりしすぎて気絶してしまっていたのです。
次に目覚めたとき、彼は自分の体の異変に気がつきました。
何だかとてもすがすがしい、この感じはなんだろう?
昨日までのむれた感じはなく、熱がでたように熱くほてっていた体がすがすがしく冷えてる・・・。
彼はおそるおそる自分の体を、と言ってもほんの一部ですが、のぞきこむようにして見てみました。
すると・・・。
彼の体をおおっていたむれた蒸気はなくなり、かわりに青い青い水がおおっていました。
彼は感激しました。
あの小さな美しい星と同じ、青い水が自分の体をおおっている!
なんという奇跡でしょう。
彼は思いました。
きっとこれは恋をした自分に、どこかの誰かがくれた素敵なプレゼントに違いない。
そして嬉しさのあまりに涙をポロポロとこぼしました。
その涙は彼をおおう青い水に静かに溶けていきました。
それからずっとずっと後のこと。
広い広い宇宙にとある一人の星がいました。
彼は緑色で、七つの青い海をもつ、とても美しく生命力に満ちあふれた星でした。
その星を見つめて今日もため息をついている小さな星が一人。
「ああ、あの星。なんて大きくて青くて素敵なんだろう。」
その小さな星はつぶやきました。
手には眼鏡、おそらく近視用、を持ち、それをつけたり外したりしながらお目当てのかっこいい星を見ています。
「ぼくもあんなふうに大きくてきれいでかっこいい星になれたらなあ。よし。こうなったら、この星一番の発明家にお願いでもしてみるか!」
こうして、長い年月を経てとうとう彼と彼(!)は両想いになりました。
二人はその姿が実はひどく似ているということに気がつかず、今日もお互いにあこがれながらくるくるとマイペースに回り続けるのでした。
―おしまい―
海の水がしょっぱいのはそういうことだったのです(笑)
最後までお付き合い下さいました皆様、ありがとうございます。
まだまだ完成度の低い未熟なお話だったと思いますが、ご意見やご感想を頂ければ嬉しいです。
今後も頑張っていきたいと思いますので、ぜひぜひよろしくお願いします。
追伸:私にこのお話を投稿しようと思わせてくれた友人Aに感謝します。おかげで何とか完結させることが出来ました。ありがとう!




