第13話:最後のきぼう
リドの工房に入ると、そこはバグの工房よりもずっとせまくて助手は一人しかいませんでした。
「ぼくにはこれで十分。満足しているんだ。」
というと、リドは奥の部屋にバグを案内しました。
そこには、深い緑色の布がかぶせられたちょうどバグほどの大きさの何かがありました。
まさかこれが?
バグのいぶかしそうな顔を見て、リドは布を取りました。
するとそこには、見たことも聞いたこともない、卵を大きく大きくしたような真っ白な球状の物体が現れました。
その物体は、リドが長年かけて発明した時間をさかのぼることのできる装置だったのです。
「これが・・・」
バグは言葉を失いました。
リドの提案は、バグの思いもつかなかった驚くべきものでした。
それは、リドが発明したこの装置で過去に戻ってもう一度やりなおしてどうか、というものでした。
「バグ。よく聞いてくれ。」
言葉を失っているバグに、リドは真剣な顔つきで言いました。
「この装置で時間をさかのぼることができるのはたったの一回だけだ。この装置は一回しか耐えることはできない。つまり、時間をさかのぼったらもうここに戻ってくることはできないし、またやり直すことはできないんだ。」
バグはリドの目をまっすぐに見つめました。
「もちろん。覚悟はできている。」
リドは少し肩の力をぬくと、
「そうか。その覚悟があるならいいんだ。」
とめがねを指で少し持ち上げました。
「ただ・・・。」
バグは少し下をむくと、小さな声でリドに聞きました。
「この発明品を世に発表すれば、きみは大変な有名人になる。きっと大きな賞だってもらえる。なのに僕が使ってしまって本当にいいのかな。」
するとリドはきっぱりとこう言い放ちました。
「かまわない。僕は賞を取りたくて発明をしているわけではない。そんなものより、今きみを助けることの方がずっと大事なことなんだ。」
バグはリドのその言葉にショックを受けました。
リドは昔から少しも変わっていない。
いや、こんなに立派な発明家に成長していたんだ。
いつのまにか夢を忘れて変わってしまったのは僕だけだった・・・。
そのことに気がついたバグに、もう迷いはひとかけらもありませんでした。
このリドの発明品は、バグと星にとってもはや残された最後の希望でした。