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この盗っ人拳法を牛(美少女怪盗)に捧ぐ  作者: 左内
最終章 大怪盗メリー&コースケ
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エピローグ

 月がきれいな夜だった。

 空気は透き通り、夜のしじまに犬の遠吠えが聞こえる。

 家々は夜の眠りについて通りには人の姿はない。

 その中を。


「ひーんっ……!」


 メリーは半泣きで走っていた。

 後ろからは人の声と警笛の音が聞こえる。


「どっちに行った!?」

「こっちにはいない――」


 孝介がいなくなって半年ほど。

 メリーは相変わらず大トビの下っ端構成員だった。

 今夜も与えられた任務の途中で警察に見つかり、こうして追われているわけだが……


「絶対に……絶対に捕まるもんか。コースケと約束したもん。立派な怪盗になるって!」

「いたぞー!」

「うわあああああん!」


 あっけなく見つかって路地の奥に追い詰められる。

 壁に張り付くようにメリーは体をこわばらせた。


「やっぱりわたし一人じゃだめだよぉ……」

「まあ……お前にしてはよくやったんじゃないか?」


 苦笑いしながら言ったのは正面に立つダグズだ。


「天国のあのガキも許してくれるだろうさ」

「死んでないし……」


 涙をふきながらメリーはつぶやく。


「まあ何にしろここでゲームセットだ。おとなしく捕まるんだな」


 距離を詰めてくるダグズを前に。

 メリーはひたすら奇跡を願った。


「コースケ……!」


 ――ゴッ!!

 その時妙な音がした。

 はっと見上げると夜なのに空が明るい。


「なんだ……!?」


 警官たちも異変を察してざわめいた。


「あれを見ろ!」


 一人が気づいて指をさす。

 続いて皆がそれに気づいた。

 大きな光の球が降ってきていた。


「あれは……」


 次の瞬間、轟音が路地に響き渡った。


「……っ」


 目を開けると土埃が視界を遮っていた。

 何も見えない。

 だが、その代わりに声が聞こえた。


「――チッ、くそ」


 いかにもガラが悪いといった調子の声。

 でも本当は優しい人。

 懐かしい響きだった。


「またなんか降ってきたと思ったら……」

「コースケ……?」

「ん?」


 その時風が路地を吹き抜けた。

 土埃が晴れて、月明かりの下に見覚えのある少年の顔が浮かび上がった。

 仏頂面のその顔は、こちらをしばらく眺めてため息をつき。

 それからニッと笑った。


「よ。久しぶり、メリー」

「コースケ!」


 飛びつくこちらを受け止めて、孝介は頬をかいた。


「やーれやれ。また戻ってきちまうとはな」

「おかえり!」

「いやこっちホームグラウンドじゃねえし」

「会いたかった……」

「ん。俺も」


 頭を撫でられながらメリーはそのぬくもりに身を任せた。

 突然のことに呆気にとられていた警察たちはそろそろ立ち直り始めたようだった。

 こちらを遠巻きながらも囲み始めている。


「よお。久しぶりだな小僧」

「お久しぶりですダグズさん」

「会えてうれしいな。今度こそ逮捕できる」

「俺はあんまり会いたくなかったですかねえ……」


 と、そこでムッとした顔のこちらに気づいて訂正した。


「まあ、あっちを立てればこっちが立たずってところですか。またしばらく厄介になります」

「ようこそ。歓迎する」

「ということで、メリー」


 並んで身構えながら孝介が言った。


「まずはこの包囲を突破するぞ!」

「了解!」


 二人の怪盗は、夜の街へと駆け出した。



(終わり)

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