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この盗っ人拳法を牛(美少女怪盗)に捧ぐ  作者: 左内
第二章 歌姫アイラ
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突破

 通りのあちこちにいくつもの人影が現れた。

 こちらの逃げ道をふさぐように隙なく無駄なく配置されている。まるでここから出てくるのが分かっていたかのような見事な待ち伏せだった。

 そして。


「きゃっ……!?」


 はっと視線を移すと物陰から伸びた腕がアイラを掴んで引き寄せようとしているところだった。


「せッ――!」


 その手首に貫手を叩き込んで解放する。ついでにメリーの腕を取りに来ていた手の肘を極めて関節を破壊した。


「走れ!」


 状況が動き出す。周りの影も一斉にこちらに向かって押し寄せて来る。

 孝介は近くの店の陳列台を蹴り上げて敵の一人に投げつけた。痛みに速度の鈍った敵の肩を蹴ってアイラが飛びあがる。よろめいたところにメリーが体当たりを食らわせて吹き飛ばした。敵の包囲網に穴が開く。


(よし……)


 三人で駆け抜けながら孝介は胸中でつぶやく。

 このまま逃げ切ることは、おそらく不可能ではない。


(まあそう簡単でもねえだろうけど)


 脇道からどんどん湧き出てくる敵を目の端に捉えながら孝介は顔をしかめた。

 敵の手をかいくぐり、捌き、押し飛ばししながら可能な限り急いで進む。夜の街に静かに激しい息遣いが交錯する。

 敵の数は減らない。それどころかさらに増えているように感じる。


「くっ……」


 アイラが悔しそうな声を上げる。道の先で敵の集団が壁となって待ち構えていた。さすがにこれだけ密集されていると無理やりの突破も難しい。

 足が止まり、敵も包囲網を詰めてくる。

 ぐるりと囲まれ手も足も出なくなった。


「コ、コースケ……どうしよう」


 メリーが震え声を上げる。


「……」


 呼ばれた孝介は、無言でじりじりと彼女の後ろへと移動した。

 死角から忍び込み大きく息を吸って――


「わッ!!!!」

「ふびゃっ!?」


 跳びあがったメリーがそのままの勢いで敵をはね飛ばしていく。

 呆然と見送った敵の間を孝介とアイラは全速力で駆け抜けた。


「このまま行くぞ!」

「うん!」


 へたり込んだメリーに追いついて立たせる。


「ひどいよコースケぇ……」

「詫びは後だ」


 その時見覚えのある人物が目に入った。


「つぅ……」

「……ダグズ?」


 地面に尻餅をついた制服の狼。どうやら彼もメリーに轢かれたらしい。

 こちらに気づくと目を向いて吠えかかってきた。


「き、貴様ら! 一体ここで何をしている!?」

「あー……」


 面倒くさいことになったなと思いながら。


「……あ」


 ふと閃いた。

 背後を指し示す。当然追ってくる敵らがいる。


「あれ、俺の仲間です」

「なにィ?」

「これから大規模な窃盗を行います。嫌だったら防いでください」

「嫌だったらって……おい、待て!」


 後は返事も聞かずに連れ立って走り出す。後ろからは一瞬遅れて呼び子の音と、それから人がもみ合う騒動の音が聞こえた。


「コースケってほんとにひどい……」

「うるせえ手段選んでられっか!」


 やけくそに叫ぶ。もう祖父の教えなどどこへやらだ。


「あれ見て!」


 アイラが空を指さした。

 月明かりの下、見覚えのある巨大な影が近づいてくるのが見える。

 浮き蟲。


「これでまた屋根の上は封じられたな」


 苦味をかみしめる。また一つ逃げ切るのが難しくなった。

 それからもう一つ懸案事項があった。

 足を止める。


「……」


 目の前は広場になっていた。ここを抜けなければ目的地にはたどり着けないが、ここを越えるのが最も難しかった。

 ゆっくりと足を踏み入れる。それに合わせて建物の陰、細い通り、ありとあらゆる場所から敵が姿を現した。


「さすがに……これは抜けられないな」


 先ほどよりさらに多い数で囲んでくる敵を見ながら静かに認める。

 それを聞いてメリーが慌てた。


「そんな! それじゃあどうするの……?」


 孝介は急いで視線を巡らせた。打開策はない……と思った目が一点で止まる。


「アイラ、まだやる気はあるか?」

「え?」

「俺たちに迷惑をかけてでも逃げ切る気はあるかって聞いてるんだ」


 アイラは戸惑ったようだが、返事に時間はかけなかった。


「いまさら、迷う資格はないかな」


 孝介はその言葉に満足して広場の鐘楼を指さした。


「あそこに走れ!」


 頑丈そうな扉の前まで行くとこれまた重厚な錠前が取り付けられている。普通にやっても開きそうにはないので正攻法は真っ先に切って捨てた。

 呼吸を練る。


「はッ――!」


 蹴破られて扉が開いた。


「よし入れ!」


 二人の背中を突き飛ばすようにして押し込んでからすぐに扉を閉める。


「ちょ、コースケ!?」

「しっかり閉め切っておけよ!」


 中に叫んで反転する。

 ズラリとこちらを取り囲む敵の群れ。

 隙なく端から端へと睨みをきかせて……


「――来やがれッ!!」


 孝介が一喝すると同時、包囲網が形を変じて一気になだれこんできた。

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