任務通達
酒場を出たところで紙切れが落ちていることに気が付いた。
簡単な地図と共に「集合よろしく」との文言が添えられており、恐らくは大トビからの指令なのだろう。
指示された隠れ家に踏み入ると先にいたリタが機嫌よさそうに振り向いた。
「あら早かったのね」
「急いできました! なでなでします?」
「また今度にしておくわ」
突き出した頭を口惜しそうにひっこめる部下を気にする様子もなく、リタは手元に一枚の紙を取り出した。
「今日呼んだのは他でもない。他でもないけど、なんだと思う?」
「次のお仕事ですか?」
「ヒントは楽しいことよ」
「社員旅行ですか!?」
「……そんなものあんのか?」
「ないわ。一度も。正解は仕事よ」
「やっぱりお仕事じゃないですかー……」
「楽しいお仕事よ。そこんところしっかりね」
彼女はざっと紙に目を通してからこちらに手渡しする。
「物品の受け渡し?」
「ええ」
読み上げるとリタがうなずいた。
「あなたたちには依頼人が指定する場所に赴いてブツを受け取った後、それを護送する役目を負ってもらいたいの」
「受け取りと、護送ねえ……」
「そんなに警戒しないでよ、言ってみればただのお使いじゃない。そんなに怖がることはないわ」
「怖いわけじゃない。あんまり前科のつくようなことはしたくないってだけだ」
一応そこだけは訂正する。
「まあ確かに運ぶだけならそんな大悪事でもなさそうだけど」
「その昔ヤッバい薬の運び屋が一斉摘発されたことがあったわねえ」
「おい」
「冗談よ。それじゃあよろしくね」
リタはこちらに背を向けた。
しかしそれとほぼ同時、すぐ横からメリーの悲鳴が上がった。
「あああああああ!?」
驚くこちらから紙を奪い、彼女はリタに走り寄る。
「リーダー、ちょっとこれ……任務の実行日!」
「ええ五日後ね。それが?」
「歌姫の来訪日じゃないですか。しかも時間までぴったり!」
「あー……」
理解した様子でうなずく。
「そうね。歌姫が歌う時間にはあなたたちはお仕事してないといけないわね」
「そんな! わたしたち歌聴きに行くつもりだったのに!」
「でも安心して。よく見て。ここ。お仕事の場所」
「?」
「舞台が設営される会場のすぐそばよ。ということは――」
「あっ」
「お仕事しながらでも歌が聴ける!」
「わーい!」
小躍りし始めるメリー。
彼女から離れてリタはこちらに耳打ちした。
「多分会場には入れないからそこんとこ上手くなだめといて」
「あんたなあ……」
「それじゃあよろしく」
顔をしかめるこちらを無視して彼女は指を鳴らした。
その瞬間任務情報が記載されていた紙が燃え上がって完全になくなる。
はっとして目を戻すと、リタの姿はもうどこにもなかった。
「ふふふーん」
ただ一人メリーだけが全く気付かず踊り続けていた。




