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4話

 俺にはもう何もない。

 家族すらも無くなった。

 幻獣には見捨てられた。

 残ったものはこの、非凡な力だけだ。



 俺の居場所など、どこにも存在しない。

 ならいっその事。

 全てを忘れられるくらいどこまでも堕ちてやろう。

 狂ってやろう。



 早鐘のように高鳴るこの鼓動が止むその瞬間までーーー



「ふふふっ、あははははッ!!」



 俺の思考に応えるよう、右手に風が集まり始め、剣のような形を型取り始める。

 


 魔法師とは、魔法という極めて危険な物を扱い、時には危険な場に駆り出される事だってある危険な職業だ。

 しかし、魔法師が武器を携帯するケースは極めて低い。



 それは何故か。

 理由は至って簡単、

 彼らは武器を携帯しないんじゃない。

 彼らは、武器を携帯する必要がないのだ。



『……チッ』



 舌を鳴らし、白銀の何かが風で形成された武器を振るう俺を睥睨しながらも、後方へと飛び退き、距離を作る。



 刹那、耳をつんざくような爆音が周囲に響き渡り、白銀の何かがいた場所にはぽっかりと地面が抉れ、小規模のクレーターが出来上がっていた。



「あははははッ!! どうしてだろ、何もかも割り切ったからかな……どうしようもないくらい楽しいんだ! ふふはっ、あははははっ!」

『頭のネジが些か、吹っ飛び過ぎだろう!!』



 白銀の何かは焦燥感に顔を歪め、縦横無尽に襲い掛かってくる刃の連撃を躱す。



 その表情から顕著に窺える様子に冗談めいたものは存在しない。

 つまり、完全に押されるカタチとなっていた。



 本来ならば、俺如きではマトモな戦いにすらならない筈なのだが、白銀の何かからしてみれば場所(ステージ)があまりにも悪過ぎたのだ。



『瘴気が濃過ぎるっ……!』



 忌々しそうに吐き捨てる。

 そう、俺達が今いるのは“餓鬼界”。

 人は愚か、生物ならば誰しもが生きていられない筈の場所である。



 それは白銀の何かにも当てはまり、明らかに戦闘能力がガクンと落ち込んでいた。



 だが、何事にも例外は存在する。

 “餓鬼界”においても、“餓鬼界”に住まう者。

 そして、“餓鬼界”を顕現させる事が可能な禁術ーーー《夢見た理想郷(ディストピア)》と異様なまでに相性が良い者はその例外に当てはめられる。



 そして、俺はその例外と呼ばれる類の者であった。

 だからだろう。

 “餓鬼界”を顕現させてからというもの、異様なまでに調子が良い。



 身体も自分の物でないと錯覚する程に軽く感じる。

 まるで、ここが自分の本来いるべき居場所だと言われているような感じだった。



「ほらほらほら! 躱してばかりじゃ楽しくないよッ!!」



 袈裟斬り一閃。

 そして逆袈裟。

 翻って続けざまに横薙ぎ。



 俺とは相反して、刻々と息が上がり始めていた白銀の何かには、避けきれなかった剣線がくっきりとその身体へ痕を刻んでいた。



 5分。

 10分。

 15分と凄絶な戦闘は続く。



 予備動作のない攻撃は未だ止む事なく続けられており、誰がどうみても俺が優勢だと言うだろう。

 故の慢心。

 故に気づかなかった。



 白銀の何かが力を取り戻しーーー否、瘴気に慣れ始めていた事に。



 普通ならば、瘴気に慣れる事などない。

 そもそも、瘴気を浴び続ければ徐々に身体が弱り始め、果てに死ぬと文献などでは書かれている。



 しかし、白銀の何かはそんな普通の尺度で測れる存在では無かった。

 彼女は。



 白銀の何かは、9もの存在する神獣の一柱を担う氷の守護者。

 名をーーヴァルティア。



 出会ったが最後。

 何をされたのか感知する間も無く、出くわした者は生き絶えるだろう。



 そこまで言わせしめる破壊の化身なのだから。

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