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1話


「お前みたいな無能は俺の弟じゃない」



 仲の良かった兄貴はそう言って俺を蔑んだ。



「貴方ような恥晒し、視界にも映したくない……本当に、産まなければ良かったわ」



 優しかった母さんはそう言って俺を突き放し、背を向けた。

 まるで、もう2度と私の前に現れるな。

 そう言わんばかりに。



「……お前のような者はこの風宮家にはいらん」



 厳格な父親だった。

 息子として俺に愛情を注いでくれていた親父は俺から家名を奪い、追い出した。



「今直ぐに、ここから失せろ」



 そう言って親父は兄貴と母さん同様、俺から離れていく。



「……飛鳥」



 呆然と立ち尽くす俺に対し、唯一姉さんだけが心配するような声音で話し掛けてきた。

 姉さんが優しい人だという事は俺が一番知ってる。

 知っているのだが、今の俺には姉さんのその態度が同情にも思えてしまった。



 だからだろうかーーー



「……ははっ」



 無様だなぁ…



 自嘲気味に頰を引きつらせながら笑みを浮かべ、姉さんに向かって。

 いや、姉さんだった人(、、、、)に向かって俺は言葉を掛ける。

 


「姉さん……いや、風宮夕里さん。貴女が俺みたいな無能を気にかける必要なんてない。だから、当主様達の下へーーー」

「飛鳥ッ!!」



 姉さんが堪らず怒鳴り上げ、俺の発言を遮った。

 それもそのはず。

 俺が姉さんの神経を逆撫でるような発言をしたのだから。



 姉さんは優しい。

 それこそ、家名を奪われ、勘当された俺を捜そうとするかもしれない程に。



 だが、それでは姉さんに不利益が生じる。

 元弟として、出来る事。



 それは、喧嘩別れでもして、俺に関する綺麗な思い出に人生を左右されないようにする事くらいだろう。

 ここで今はもう他人だと公言していれば。

 風宮に未練は無いという態度を俺が貫けば、姉さんに迷惑は掛けないで済む筈だ。



「俺はもう、風宮の人間じゃない。だから、貴女が気にかける必要も無いよ」



 そう言って俺は扉に手を掛けた。

 口では気丈に振る舞って居るが、俺はそんなに神経は図太く無い。



 ガラスのように脆く、今だってこの不条理な現実に泣き出したいくらいだ。



 でも、姉さんの前でそんな弱いところを見せるわけにはいかない。

 勘当された本人である俺以上にもしかすると、姉さんは悲しんでいるだろうから。

 その一心で俺は虚勢を張る。



「なんで……なんでよ、飛鳥……」



 涙を流す姉さんに背を向け、俺はドアノブに手を掛け、家だった場所を後にする。



 ーーーーなんで、頼ってくれないの……弱音でも吐いてくれれば私が……



 扉の締まりぎわに聞こえた声。

 胸が締め付けられるような思いだった。



 だけど俺は。

 その言葉を耳にしながらも、家を後にした。




      ※





 俺はどうしようもなく落ちこぼれあり、無能であった。



 だが、そんな俺でも魔力の質や保有量だけは宮廷魔導師以上と称賛された事がある。

 それも、一度や二度ではきかない程度に。



 武芸も両親の言われた通りこなし、人並み以上には卓越していたと思う。




 だけど俺は。

 俺は……



 儀式に失敗してしまった。




 9もの存在する名家。

 火紅家

 水波家

 土御門家

 光井家

 闇矢家

 無代家

 碓氷家

 雷明家



 そして俺が生まれ落ち、今日まで世話になっていた9名家の一つ。

 風宮家。



 9つもの存在する名家にはそれぞれ、特有の儀式が伝統として先祖代々伝えられてきた。



 それが俺が勘当された原因。

 幻獣との契約である。



 9名家において、幻獣との契約は何よりも重く見られ、例えどれだけ魔力を保有していようと、



 どれだけ武才に富んでいようと



 どれだけ知略に恵まれていようが家名を奪い、絶縁するのが仕来りであった。



 それ程までに幻獣と契約出来ない者は9名家からは不要とされる。



 そして俺は、儀式に失敗した。



 何もかも無くなった。

 失った。



 恐らく、俺の存在は直ぐに消されるだろう。

 幻獣との契約が出来ない無能がいたなどと他の名家に知られる前に。



 何も考えれない。

 まさに虚無。

 心の中に空洞がポッカリと空いたように全てが……



 ーーーー空っぽになった。

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