3ー異世界デビュー
私はサラリーマン時代を思い出していた。
私は勤続40年、小さい会社であったが勤め上げてきた。
生涯、独身であった。
定年後は静かな場所に家を買って、畑など耕して生きていこうとお金を貯めてきた。
やっと定年を迎えて、退職金の手続きを済ませ、会社から家に帰る途中に…。
もう一度、やり直せると言われているならば、やってみたいと思った。
やり直し、死ぬ間際までやり切って死にたいと。
「はい。異世界に行きます。」
私は神様に向かって笑顔で答えた。
「ふむ、よく決心してくれたの~。」
神様は立ち上がって私に向けて手をかざした。
私は淡い光に包まれた。
「これでお主は15歳じゃ。異世界でも読み書きできるようになっておる。」
「ああ・・ありがとうございます。」
「若いほうが投資期間が増えるでな、といっても肉体だけで精神はそのままじゃがな、お主がいく異世界は、魔法という地球にはない魔力で覆われている世界、あと魔物と呼ばれている、人間を襲ってくる世界じゃ、死なないよう祈っておるぞ、死んだら投資できなくなるからの〜」
大神様は、手をおろして椅子に、座った。
まさに定番の世界だな~と思いながら、自分のシワのなくった手を見ていた。
「ではさらばじゃ。頑張れよ!」
神様は手を振っていた。
「え!!いきなりすぎるーー」
自分の足元から強烈な光とともに、私は草原に立っていた。
「どうすんだよ・・・これ」
ぽつんと草原の上にいること数分。現実が見えてきた。
「とりあえず現状把握と目標だな。」
意思の確認とともに声がでていた。
自分自身を見てみる、腰に剣らしきものと袋がある。
開けてみると銅貨ぽいのと銀貨っぽい硬貨が各30枚ほど入っていた。
一応、剣らしきものを抜いてみた。
「ショートソードっていわれるやつだな・・・」
うん。まさにファンタジー!異世界に来た感じがする。と一人で納得してしまった。
取りあえず街を探してみないといけないな、異世界に来た早々、魔物とか出てこられた日にはシャレにならん。
あたりを改めてまわりを眺めてみたところ、遠方だが街らしき建物が見えた。
「よかった。行ってみよう。」
若い肉体になったせいか、そこまで疲れずに歩いているとようやく道らしきとこにでれた。
「ようしもうひと踏ん張りだ。」と自分に気合を入れて歩き始めてたその時、
「ガルルルㇽㇽ」と後ろから声が聞こえた。
「ん!?」と、後ろを見てみると犬ぽい紫色の化け物が、涎を垂らしてこちらを見ていた。
「まじかよ!」
さっきのフラグなんて回収しなくていいと思いながら私は走っていた。
「ウオオオオォォォ-」と全力で走っていると、後ろから「ハア、ハア、ハア」
と声が近づいているのを感じる。
このままではまずい!逃げ切れない!戦うか!と頭の中で思いが錯綜していると、
「伏せろ!!」
と何者から呼びとめられ、とっさにジャッピングヘッドしてしまった。
「キャイン、キャイン」
とすぐ後ろから声が聞こえた。
「危ないところだったな…お前が襲われてるのが見えて、急いで走ったんだが間に合わんと思ってな、斧を投げたんだわ。」
後ろからの気配が消えて後ろを振り向くと、先ほどの化け物の首に小斧が刺さっていた。
「ああ・・ありがとうございました・・・」
「まー気にするな。俺の所為でもあるからよ!」
と禿げ頭のいかついオッサンが笑っていた。
「へ!?どういうことですか!!正直、もうだめだと思ってたんですよ!」
「まーまー助かったんだからいいじゃねーか。ぐだぐだうるせえ小僧だな!」
いかついオッサンは小斧を回収し、化け物を肩に乗せながら、鋭い目つきでこちらを見た。
「あーすいません。化け物に襲われたのが初めてだったもんで・・・・・」
ビビッてしまった。私はほんと情けない。さすがにお漏らしはしなかったが日本にいたときはまずありえない状況に頭がついていってなかった。
「ああ。初物か、すまねえな」
「俺はオリドだ、冒険者ギルドのスタッフだ、こいつを追っかけてるうち街道まで、逃げやがるもんだから巻き込んじまった。すまん・・」
いかついオッサンが頭を下げていた。
実は見た目は怖いがいい人なのかもしれないと思った。
「いえいえ、こちらこそ改めてまして自分はハヤミと言います、よろしくお願いいたします。」
「ああ、ハヤミか、よろしくな。」
オリドさんに起こされて強引に握手させられた。
「じゃーいくか!」
「どこにですか?」
「バカか!街に帰るんだよ!早く酒のみてえーんだよおお」
「・・・ああ、そうですね」
異世界に来て、魔物に、冒険者と、この早い展開に、まだ自分は適応していないなと長考してしまった。
誤字・脱字 お許しください。