あるチョコ調査官の一日
今日はバレンタインデー。
こんな職業があったらいいなと思って書きました。
俺は甘井八津。文部科学省チョコレート調査課、通称、チョコ課の職員だ。俺たちチョコ調査官の仕事はバレンタインデーにおけるチョコレートの調査だ。具体的には、どのような人がチョコレートを多くもらうのか、チョコレートをもらうためにどのような工夫をしているか、などだな。俺の担当は高校の靴箱だ。他にも会社だったり、直接聞き出す担当がいたりする。チョコレートの数を誤魔化したりした奴をチョコレート法違反で逮捕することもできる。まさにバレンタインの番人なのだ。
「さて、今年はどんなのが見られるかな」
毎年チョコレートをもらうための工夫を見るのが楽しみなのだ。今までで一番はやはり、“失敗作回収します”だな。
今日の担当であるS高校に向かう。毎年の事なので学校側も特に出迎えたりはしない。勝手に来て、勝手に調べて帰るだけだ。
まずは端から調べて行く。大体、何も紙を貼っていないところはチョコレートが入っていないことが多い。入っていた時は大抵本命だ。
さて、いよいよ紙が貼ってあるところに到達した。一枚目は……
“受験勉強には糖分が必要です。どうか恵んでください!”
「……ふーむ。まあまあかな。そういえばここ、進学校だったな」
一枚目は普通。及第点といったところだ。それでも3つ入っていた。やはり受験勉強というところにひかれたのか。
二枚目……
“あなたのチョコレート、味見します。本命にあげる前にチェックしませんか?”
「ほほう。これはなかなか」
本命など来ないと割り切っているところが、なんとも悲しいが。80点かな。5個も入っていた。やるなこいつ。
三枚目からはほとんどが普通で、特筆に値しないのが続いたので割愛する。
ちなみにこれらの調査結果は全て報告書にまとめることになっている。なんともめんどくさい……が、仕事だから仕方ない。嫌々ながら記入していく。
もう数えるのは止めたが、久しぶりにマシなのがあった。
“ホワイトデーに数倍にして返します! どうぞ投資と思って!”
「これはこれは。考えたもんだぜ」
女子たちにとってみれば、適当に、最悪チロルチョコでも放り込んでおいたら、一ヶ月後には板チョコくらいにはなって帰ってくるんだ。これは素晴らしい。85点。
次……は普通だったので、その次に向かう。
「っ! ……これは!」
息を呑んだ。
“本命に渡したいけど勇気がない人、渡すと目立つ人、大歓迎です! チョコ代行サービス実施中! 生徒はもちろん、教師にだって渡せます! 料金はチョコ一個で構いません! もちろん匿名希望もOK! もし、名前を伝えたい人は以下のメールアドレスまで。秘密は守ります。是非どうぞ!”
「……素晴らしい……」
思わず声が漏れた。
確かにこれまでの調査結果から、渡したいけど渡せない人がいることはわかっている。それをこんな形で使うとは……
しかも、ちゃっかり料金にチョコを請求している。自分もチョコをもらえるし、単純な数で言えば2倍だ。名前を伝えた人がいれば、ホワイトデーのお返しの時にも貰える。90点、いや100点かもしれない。
「どんどん進化していくということか」
自分の高校時代を思い返しながら呟く。俺が高校のときはこんなのなかったのに。時代を感じるぜ。
というわけで今回の俺の最優秀賞はチョコ代行サービスに決定した。
全てを報告書にまとめ、学校を出る。
ちなみに今、俺の気分は最高だ。なぜかって? 聞いて驚くな、最後の靴箱に、この紙とチョコが入っていたんだ。
“チョコ調査官の方へ、いつもご苦労様です。このチョコをどうぞ”
皆さんはどんな工夫をしたでしょうか。それとも、何もせずとも、もらえたでしょうか。
それでは、皆さんに多くのチョコがやってきますように。
感想、アドバイスお願いします。