表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

起こされた記憶

作者: 竹空

うとうとではない、まあ、びっくりするくらい電車の中で眠りこけてしまった。終電の少し前に無理やり仕事を終わらせ、一杯だけ!と駆け込んだ立ち飲み屋で一気に飲み干した生ビールのせいである。

「お客さん、お客さん」と体を揺さぶられ、目が覚めた駅は、自宅を遥かに通り越した終点で、見慣れない駅のホームを前に呆然と立ち尽くす。ここからタクシーで帰れば、15000円はかかる、、、しかし、駅で朝まではきつい、、、タクシーの行列を見ながら財布の中身と睡魔と明日の仕事のことで頭が混乱中、、、

そんな時、背後から、「お客さん、お客さん」と、さきほどと同じ声が聞こえる。

女の駅員さんだったので声の記憶が残っている。「お客さん、谷内くん?」


遠い記憶がよみがえってくる。

高校時代、授業も友達との会話も刺激がなくて、暇さえあれば教室や野原で寝ていた俺。「谷内くん、谷内くん、谷内くん」

と、おせっかいに俺を起こすのは、中内という同級生の女子である。部活にも入らず、友達付き合いもしない俺に、唯一話しかけてくる女子。もっとかわいければ、、、といつも思うが現実はそううまくはいかないものだ。

名前に、うちが付くのが嬉しくて俺に世話をやくこの女子は、そう言えば鉄道オタクだった。


「久しぶりだね、朝までうちに泊めてあげようか?」とブスではないがかわいくもない駅員さんが唐突に声をかけてくる。昔、冗談で「奥さんにしてくれたら毎日起こしてあげるよ」と言われたことを思い出しながら、ふと、胸の名札に目をやると、"内村"になっていた。


自分の内面は自分が一番わからないものだ。なんだか悔しくなって「ありがとう」とだけ言ってそそくさとタクシーに乗り込んだ。無愛想な運転手に行き先をつげ、走り出したタクシーの窓から駅の方に目をやると、内村という駅員さんが笑顔で大きく手を振ってくれていた。


冷房の効きすぎたタクシーの中で、次に起こしてくれるのは運転手さんか、、、、、、とため息まじりに交通量の少ない深夜の道路を眺めた。

谷内くん、谷内くんと起こしてくれていた中内のことがあまりに懐かしくて、その頃の教室や野原の光景を夢の中に求めるように、眠りについた。

おやすみ、、、










評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ