5話 懊悩
レティアは礼拝堂の中で見た光景を疑った。かつては誰に対しても優しく接していた妹が衆人環視の中男相手に拳を振るっていたのだ。
妹の拳が相手である少年の顎を打ち抜き少年は錐もみしながら地面に叩きつけられていた。
「カティア!」
姉であるレティアはすぐさま妹の名を叫ぶ!
妹であるカティアはレティアの声を聞きレティアの顔を確認して驚くとバツの悪そうな顔を浮かべてムスッとする。
一方レティアの叫びにより衆人環視の中拳を振るっていた少女がレティアの妹だとわかった直人は想像していた妹像と違い驚愕していた。彼の頭の中では弱虫と言うことでレティアの妹は気弱で大人しく「ふええ、怖いよお兄たん」と上目遣いでペタンコな胸を手ブラで隠しているイメージがあったのだがそれは崩れた。
気弱というよりも勝気そうなつりあがった目。背もレティアよりもやや高いようで決してお兄たんなどと呼ぶよりも兄貴と呼びそうな男勝りな雰囲気と体格(胸も含む)。手足もすらっとのびていてモデルのようだった。
まさにスレンダーでスレンダーなスレンダーによるプロポーション。つまり貧乳である。
まあ直人の感情はともかく姉であるレティアはカティアの元へとやってくるとどうして少年を殴り飛ばしたのか事情を聞くことにした。
「カティア。あなた何をしているのですか。どうして彼を殴ったのですか」
「別にあんたには関係ないでしょ」
ツンッと顔を逸らすカティア。そんなカティアの態度にレティアも叱りつけるように言う。
「カティア! どうしてそんな態度を取るのですか! 私はあなたのお姉ちゃんです。関係ないわけがないでしょ」
叱りつけられたカティアは舌打ちをしながら反論する。
「うるさいな! あたしはあんたのことなんてお姉ちゃんだなんて思ってるわけないでしょ! それなのにあんたはお姉ちゃんぶってうざいったりゃありゃしないのよ! ふんっ!」
カティアはそう言い残して礼拝堂を後にする。
「……カティア」
レティアはカティアの後を追いかけようとするがやめる。
そこまで言われてなんて声をかけていいのかわからなかった。前は自分のことをあんなにも慕っていたのに今ではまるで別人のようになってしまった妹にどう接しいいのかわからなくなっていたのだ。
仮に追いかけていったところで拒絶されるかもしれないという恐怖もあった。唯一の肉親である妹に拒絶されるかもしれないと考えると足が動かなかった。
しかしレティアはそういった不安を面にみせることはなく極めて冷静さを装いながら妹によって殴られた少年の安否を確かめる。
「大丈夫ですかムーツリ君」
殴られた少年――ムーツリはレティアとカティアと同じ孤児院に生活する孤児だ。歳はカティアと同い年で孤児院では小さい子をまとめる役をやっている。
「……いつつ。レティアねーちゃん」
ムーツリはレティアの顔を見て気まずそうに顔をする。
「殴り合いをしていたようですけどいったい何があったのですかムーツリ君」
「……おれは悪くない。あいつがいきなり殴って来たんだ」
「カティアが……」
「そうだよ。なあみんな」
ムーツリが周囲に同意を求めると周りの子供たちはそうだと言わんばかりに頷く。
「そんな……」
何か理由があったのならどんなによかったのか。妹は理由もなく同じ孤児院に生活する仲間を攻撃するようなことをする子になってしまっていたことに驚きが隠せない。
まさか本当に魔王フラットチェストになっているのではないかと不安が襲う。
直人はそんなことはないと言っていたが豊穣教会の教えでは貧乳はえてして性格が凶暴になり魔王の片鱗を見せるのだと教えられてきた。
妹の行動もその片鱗の一部なのではないかと勘繰ってしまう。
信じたくはない。だけど信じざる得ない状況にレティアは困惑する。
もうすでに妹は手遅れなのではないかとレティアは胸を痛める。
あと一ヶ月。一ヶ月もしたら妹は一五歳になってしまう。そうなれば妹は紛れもなく貧乳だと裁定される。
あと一ヶ月で本当に妹の貧乳は治るのだろうか……。
そこでレティアはふと思う。
直人はいったいどうやって妹の貧乳を治すのだろうか?
ブラジャーという魔具を使うのだと推測はしているが実際にどうやって貧乳の治療を行うのか詳細は聞いていなかった。
「ナオトさん……あれっ?」
気になったレティアは直人に詳細を聞こうとするが礼拝堂の中に直人の姿がなかった。
「すいません。誰か私と一緒にここに入って来た黒髪の男性をどこかで見かけませんでしたか?」
レティアの問いかけにに周囲にいた子供達がざわつく中、一人の子供が答える。
「黒髪の男の人ならカティアを追っていったよ」
「えっ……? カティアを……」
短くてすいません。
なるべく早い段階で次を投稿できるように頑張ります。