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1話 ブラジャーを愛した少年

バカバカしい話を書いてみよう勢いで書き始めました。

他の連載があるので更新は不定期ですがよろしくお願いします。

 暗いトンネルを抜けるとそこは異世界だった。


 眼前に広がる光景は石畳で舗装された路面、レンガで建てられた家々、石畳の道路を走る馬車。それはまるで中世ヨーロッパを彷彿させる景観だった。


 それだけなら中世ヨーロッパにタイムスリップでもしたのかと思うが、街を行き交う人々に混じって頭に猫耳を生やした人や、耳がお伽話に出てくるエルフのように細長くとがった耳をした人たちの姿も見かけられた。空を見上げれば頭が二つある鳥が大空を飛んでいる。


 直人はその光景に思わず己の目を疑った。


「おかしい……? 僕は女子更衣室に向かっていたはずだったのに」


 おかしいのは彼の頭であるが彼は不可解そうに右手に握られていた土で汚れたスプーンを眺める。


 直人は女子更衣室という異世界へと向かっていたはずだった。そのためにこつこつと脱獄囚のごとくスプーン片手に地面に穴をあけて掘っていたのだ。


 女子更衣室に入りたいという並々ならぬ熱意で途中にあったコンクリートの壁をスプーンで砕き、邪魔をするのなら神をも殺す勢いで穴を掘りようやく女子更衣室にたどり着いたというのに目の前に広がるのは異国情緒漂う情景。


「なん……で?」


 信じられないできごとに直人はただただ呆然と立ち尽くし持っていたスプーンを地面に落とす。


 当然直人の疑問に答えてくれる人はおらず、石畳に落とされたスプーンの音が直人の耳にむなしく響き渡る。


 それからどれくらい経っただろうか。女子更衣室に行くという夢が破れ呆然と道端で立ち尽くしていると直人は突然声をかけられる。


「あのー、こんなところで立ち尽くしてどうかしたんです?」


 おっとりとした口調で声をかけてきたのは修道服に身を包んだ二〇歳ぐらいのグラマーな女性。どうやら道端で呆然と立ち尽くす直人が心配で声をかけてきたようだ。


「ああ、すいま――」


 声をかけられてようやく正気――いや、女子更衣室に地面から潜り込もうとした時点で正気ではないのだが、とりあえず正気に戻った直人は目の前のグラマーな修道女を見て目が飛び出んばかりに目を見開く。


「なっ、なななな」


「な? そんなに驚いてどうかしましたか?」


 直人のリアクションにグラマーな修道女は不思議そうな表情で小首を可愛らしく傾げるが、すぐに何かに気が付いて手を叩く。


「あっ! もしかして王都に初めて来て驚いているんですね。服装もなんだか見たことない格好ですしどこか遠い国から来たんですね」


 とグラマーな修道女はうんうんと勝手に納得する。


 ある意味遠い国から来たのは間違いないのだが、一方の直人はグラマーな女性の言葉などまともに聞いておらず大声をあげる。


「な、何でブラジャーをしてないんですか!」


 直人が驚いたのは無理もない。


 グラマーな修道女は服の上からでもよくわかるほどふくよかに成長した双丘が自己主張するように修道服を盛り上げているのだが、その大きな盛り上がりの中にさらに小さな盛り上がりがあるのだ。


 そう、目の前にいるグラマーな修道女はノーブラだったのだ。思春期真っ盛りの十七歳には刺激が強すぎる。


「はい?」


 ノーブラを指摘されたというのにグラマーな修道女は直人が何を言ってるのかよくわからずポカンとしている。


「はい? じゃないですよ! いいですか、近年はノーブラが健康にいいだとか乳がんになりにくいなんて学説があるけどあんなもの学者が自分に都合のいい統計だけとってるだけで科学的な根拠もないんですよ! 確かにサイズの合わないブラを身に着けると胸の形を崩すことがあるけどブラジャーをしないのはもってのほかだ。胸を――おっぱいを守るためにはブラジャーが必要なんです! それにブラジャーのフィット感やサポート力はNASAが認め、アポロ計画の宇宙服にもブラジャーの技術が使われているほどなんです! つまりブラジャーは宇宙でも通用するほどのものなんですよ」


 と何やら熱弁し始める直人。


 その後も「近年は平均バストサイズが大きくなっているのは食生活だとか言われてるけど違う、ブラジャーがあるから胸が大きくなったんです!」という意味不明な理論を繰り広げる直人だったが、グラマーな女性は直人の言っていることがよくわからず申し訳なさそうに訊ねる。


「あのー? ブラジャーってなんです?」


「えっ?」


 グラマーな修道女の一言が直人をさらに驚かせた。


 そして直人は周囲を行き交う女性を見て気が付く。右を見ても左を見ても街を歩く女性のほとんどがノーブラであることに。


「そ、そんな。ブラジャーが……存在しないのか……」


 直人はその事実を知って絶望する。


 直人にとってブラジャーのない世界などクリームのないシュークリームのようにすっかすかみたいなものだ。いやもっと言えばエロのないエロ本、酸素のない空気と言い換えてもおかしくはない。


「神は……俺に死ねと言うのか」


 思春期の直人にはそれほどの衝撃だった。


 ブラジャーのない世界にはいられないと思い元の世界に帰ろうにも出てきた穴はすでになく、あるのは冷たい石畳のみ。


 帰り道はない。


 その事実に直人は膝から崩れ落ち拳を地面に叩きつける。


「くそっ! ブラジャーのない世界で僕はいったいどうやって生きて行けばいいんだ!」


 傍から聞いていればただの変態発言であったが直人にとっては死活問題だった。


「僕はなんのためにブラジャー職人になるために頑張ってきたんだ」


 そう、彼の夢はブラジャー職人になることだ。


 彼がブラジャー職人になろうとしたきっかけは至って単純で不純な理由だった。


「これじゃおっぱいが触れない」


 彼の夢のきっかけとは思春期の男子なら誰もが抱くであろうおっぱいを触りたいと言う欲求サガからだ。


 おっぱい触りたさに彼は必死に考えた。どうやったらおっぱいを触り、なおかつ人に恥じることなく堂々と触れるのかを。


 そして彼はベランダに干してある妹のブラジャーを見て気が付いた。


 そうだ! おっぱいを合法的に触るにはブラジャーを作る人になればいいんだ。


 もしこの時に彼女を作ろうというまともな思考が出来ていたなら彼の未来も大きく変わっていたが、その発想に思い至った時点で彼の頭は残念としかいいようがなかった。


 しかし彼のおっぱいに対する情熱は尋常ではなかった。


 それは彼が思春期だからなのか変態だからなのかあるいは両方なのかわからないが、直人はブラジャー職人になるべく頑張った。


 ブラジャーを知るために妹にブラジャーを見せてくれと頼みこんだら半殺しにされたり、なら一緒にブラジャーを見に行こうと誘ったら半殺しにされたり、仕方なく一人で熱心にブラジャーを見ていたらなぜか警察に通報されて母親に泣かれたり、妹にブラジャーを作るためにおっぱいを触らせてくれと頼んだら半殺しにされたり、しょうがないから触ることなくバストサイズを判断できる目を鍛えようと街中で胸を凝視していたら警察に連行されて母親に泣かれたり、目を鍛えたことで服の上から見ただけでバストがわかるようになると妹にブラジャーを作りプレゼントして半殺しにされたり、女子更衣室に忍び込んで今時の若者が好むブラジャーをリサーチしようとして異世界に迷い込んだり……。


 若さゆえの過ちを何度も繰り返し血と涙(母親が)を流しながら彼はブラジャー職人になるために頑張ってきたのだ。それも全ては有名なブラジャー職人となり堂々とおっぱいを触るために。


 だというのに直人はブラジャーのない異世界へと迷い込んでしまった。


 ブラジャーのない世界ではブラジャーを作るという大義名分でおっぱいに触ることができない。


 そんな彼の絶望は彼にしかわからないだろう。わかりたくもないが……。


「死のう」


 彼女を作ればいいのにそのことに思い至らない直人はもうおっぱいを触ることが出来ないことを悟り死を決意する。


 だが地獄のどん底に落とされた気分の直人に希望という名の一本の蜘蛛の糸がグラマーな修道女によって垂らされる。


「ダメです! 死ぬなんてダメです。神はそんなことは許しませんよ。ブラジャーというものがよくわかりませんがないのなら作ってみればどうでしょうか」


「っ!」


 グラマーな修道女の言葉が直人には天啓のように感じた。


 ないのなら作ればいい。


 どうしてこんな単純なことに気が付かなかったのだろうかと悔いる直人。


 ブラジャーならば最低でも布とヒモがあれば作れる。


 それに幸いにもいつでもブラジャーを作れるように道具と材料を持っている。……そのせいで警察に何度か補導されたこともあったが。


「ありがとうございます! えっと……」


 お礼を述べようとして名前すら聞いていなかったことに気が付く。


「レティアです。すぐそこの教会で修道女をしています」


 傍から見ても変態である直人にニコッと天使の笑みを浮かべて自己紹介するレティア。その際にたわわに実った胸がポヨンと弾み直人の目が釘付けになる。


「……す、すごい」


 街中でブラジャーの観察のために女性の胸を見てきた直人だったがここまで素晴らしい胸を見たのは初めてだった。ブラジャーをしていないおかげでよくわかるが、大きさといい形といい完璧までの曲線美で芸術とも言える胸だ。それでいて修道服というまったく露出がないものをここまでエロく魅せてしまうエロさ。


 直人はこの芸術とエロが一体になった胸に感動していた。


「あの? 私の胸に何かついてます?」


 まじまじと胸を眺める直人にレティアが問う。直人も胸をガン見してしまい申し訳なく思ったのか一応謝罪をする。


「すいません。あまりにも素晴らしいおっぱいだったので魅入ってました」


 現代日本でなら即刻通報される発言をする直人だったが、レティアはそんな直人を軽蔑することなくそれどころか嬉しそうに微笑みを返す。


「ふふっ、ありがとうございます。これもボイーヌ様のご加護があったからです。ええっと」


「直人です」


「ナオトさんにもボイーヌ様のご加護がありますように」


 と言って両手を合わせ祈りを捧げるレティア。その際にまたしても揺れるおっぱい。ぷるんぷるんとまるでおっぱいも祈りを捧げているかのごとく。


 なんと神々しい光景だろうかと感動を覚える直人。しかしそれと同時にもったいないとも思う。


 なぜならブラジャーを着用していないことでクーパー靭帯が伸びてしまい胸が垂れてきてしまうのだ。そしてクーパー靭帯は一度伸びると戻らない。それはつまりあの芸術のような胸も垂れてしまったらもう二度と拝むことができないのだ。


 そこで直人はハッとする。


 これはもしや神が与えし試練なのではないか。ブラジャーがなく困っている人を救うために自分はこの世界に来たのだ。


 と謎のブラジャー理論を立てる直人。なんだか救世主っぽく言ってはいるが、しかし彼の頭の中にはおっぱいを揉みたいということしか考えていない。そう、ただ彼はただ単におっぱいが揉みたいがゆえに謎のブラジャー理論を組み立てたのだ。まったくもって思春期の発想とは恐ろしいものである。


 だが思春期とは若さ、若さとは早さ。後先のことなど考えずに行動してしまうのが若さというもの。


 直人もその例に漏れず謎のブラジャー理論を立てるとすぐさま祈りを捧げるレティアの手を掴む。ギュッと掴んだ彼女の手はまるでマシュマロのような柔らかさでほんのり暖かい。手でこれなのだから胸はどうなのだろうと胸を高鳴らせる直人だったがすぐに正気(?)に戻ると真面目な顔で告げる。


「レティアさん、僕にあなたのブラジャーを作らせてください!」


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