序章
はじめて殺人を犯した。
2年半もつきまとってきたストーカー女を。
俺のこの手で。
カッとなり、殺してしまった。
幸いなことに、俺の一軒家の裏には山があった。
隣に向かって石をどう投げても届かないような田舎で、
目撃者などいるはずもなかった。
今殺したこのストーカー女を撒くために何度も引っ越したが、
もうその必要がないと思うと晴々した気持ちになった。
山に女を埋め、家へ戻る。
前まで住んでいた都会の喧騒な空気が懐かしく、
さっさと引っ越しを決意した。
遠く離れた近所の人には仕事の都合でここに越してきたと説明していた。
仕事が落ち着いたから戻る、と説明して回るのには1日かかった。
近所のコミュニティが俺が前に住んでいたところよりも強いここでは、
数か月しかいなかった俺でも優しく声をかけてくれた。
運よく引っ越し先が見つかり、1週間後に引っ越しが決まった。
手入れを全くしていなかった広い庭の手入れをし、
部屋をできるだけきれいに掃除し、
引っ越しの荷物をまとめ始めた。
引っ越しの途中にわざわざ遠くから手伝いに来てくれた近所の人に
嘘をつき続けたまま絶縁するのは少し気が引けた。
ただ、あのストーカー女から解放された喜びに勝るものはなかった。
引っ越す日が翌日に迫っていた。
家はがらんとし、こんなにも広かったのかと驚いた。
庭に出ると、あれだけがんばって刈った雑草がまた生えていた。
家に巻きつこうとするツタと、シロツメグサだった。
そのときは何も思っていなかった。
コイツが俺に何をするかも知らなかった。