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マイルームダンジョン②

 タブレットと睨めっこを始めて一時間は経っただろう。幼女は退屈そうではあるが、付き合ってくれている。


「これで決まりでいいだろ」

「待ちくたびれたよお兄ちゃん。優柔不断にも程があるよ」

「仕方無いだろ。輝かしい大学生活が待ってるんだからな」


 幼女に小言を言われつつも、最終的に俺が決めた配分はこうだ。


 剣術・鑑定・罠感知・魔物感知・主人公補正のアビリティ習得で36ポイントを消費。残りの4ポイントは全て筋力へ振った。


 どうせトンデモ世界へ来たんだ。魔法なるものも使って見たかったが、戦闘をする上で最もイメージが掴み易い、剣を武器としてチョイスしておき、少しでもリスクを抑えたい俺は、罠感知と魔物感知は抑えておきたい。チートアビリティと思われる主人公補正は当然ながら確保した上で、様々なゲームで有用である事例が多い鑑定スキルを習得。あとは、剣術の威力を高める為に筋力の底上げをして完了。


「じゃあ、この配分で確定するけど、いいかな?」

「その最終確認はあるのかよ。まぁ、いいけどさ。それで確定してくれ」

「分かったよお兄ちゃん。これで確定、ポチッとな」


 幼女がタブレットを操作すると同時、俺の身体に異変が起きた。


「ウホッ!?」


 力がこみ上げてくるのが分かる。筋力に配分したボーナスポイントが定着したのだろう。今なら格闘技で世界チャンピオンになれるのでは無いかと思えるほどの何かが、俺の身体にみなぎっていた。


「これで初期ステータスは決まったね。あとはプレゼントがあるよ」


 幼女はそう言うと、タブレット端末の画面に手を突っ込んだ。


「なななっ!?」


 どんな手品だろうか。幼女の手が画面の中にスッポリと入っている。貫通したワケでは無い。まるで、タブレットの画面が異次元と繋がっているようだ。未来から来た猫型ロボットのポケットのようである。


「よいしょ~!」


 何とも締まらない掛け声と共に、幼女が取り出したのは剣だった。初期アビリティに剣術を選択した俺の、初期装備と言う事か。


「もう一つあるよ~!」


 幼女は再びタブレットの画面に手を突っ込むと、また何かを取り出して見せた。


「タブレットじゃねーか」


 箱の中に箱が入っていて、さらにその箱の中に……なんていうお土産の存在は聞いた事があるが、タブレットの中にタブレットが入っていて……なんて話は流石に聞いた事が無い。


「これがお兄ちゃんの情報端末だよ」


 幼女はそう言うと、タブレットの中から取り出したタブレットを俺に差し出した。

 俺はタブレットの中から出て来たタブレットを起動し、内容を確認する。そろそろタブレットを連呼しすぎなので、このへんで自重しようと思う。


 画面に表示された項目は、ステータス・インベントリ・アビリティ・生産など、いかにもネトゲなんかで良く見るようなアイコンが並んでいた。その大半は『?マーク』で封印されており、まだロックされていると言う事なのだろう。


 試しに、ステータス画面を開いてみる。


 LV:1 筋力:11(+2) 魔力:7(+2) 体力:7(+2) 知力:7(+2) 敏捷:7(+2)と表示されている。別項目に攻撃力の表記があり、現在の攻撃力は13(+2)だそうだ。

 ボーナスポイントが付与されているようだが、主人公補正によるものだと注釈が書かれている。


「おいスク水。ちょっとその剣を貸してくれ」

「スク水って、酷いよお兄ちゃん。貸すも何も、これはプレゼントだからいいけどさ」


 軽く文句を言いつつも、幼女は素直に剣を差し出した。その剣を手に取り、改めてステータス画面を見る。攻撃力が20(+4)に跳ね上がった。ボーナスポイントの注釈に、主人公補正に加えて適正装備補正が加わっている。

 インベントリを開き、剣を確認する。『銅の剣 基礎攻撃力:5 特殊能力:無し』との事。


 つまり、本来の俺の攻撃力は筋力9+銅の剣5で攻撃力14になるのだけれど、主人公補正で筋力11+銅の剣7で攻撃力18に増え、さらに適正装備補正が加わる事で、筋力11+銅の剣9で攻撃力20にまで上昇したと言う事になるわけだ。

 適正装備補正はともかく、主人公補正はやはり便利そうだ。基礎ステータスの筋力に加え、攻撃力にも直接補正が加わるのだから。


「じゃあ、これで私の役目は終わりだから。頑張ってねお兄ちゃん」


 幼女が唐突に、それこそ唐突な言葉をブン投げてくる。


「待て待て! 俺はまだ何も理解出来ていないんだぞ!」

「大丈夫だよお兄ちゃん。ここからしばらくは一本道だから」

「どこへ続く一本道なのかが既に不安だぞ。少しは案内したらどうなんだ?」

「それは私の仕事じゃないんだよ~。だから、ゴメンネ」


 おいっ!と呼び止める前に、幼女はドロンッと姿を消してしまった。忍者のように消えてしまった。流石だ。汚い。忍者のように汚い。俺はこの件で忍者の事が嫌いになったね。幼女の事は嫌いになれないが。


「一本道か……」


 本当にどこへ繋がる一本道かは分からんが、進んでみるしか無いだろう。サクッと財宝にありつける事なんかは無さそうだが、初見殺しのボスが待ち構えてる事なんかも無いだろう。無いと信じたい。


 俺は左手に懐中電灯を、右手に銅の剣を装備し、洞窟の奥へと進む事にした。


 それにしても、初見殺しか。もし、このダンジョン内で死ぬような事があったら、俺はどうなるのだろうか。セーブポイント的な何かで復活するとか、そんなご都合主義じゃないよなぁ。この日本でも年間、何人もの行方不明者が出ていると噂で聞いた事があるが、こういうトンデモ空間に迷い込んだまま死んだヤツも居るんじゃないのか?


 嫌な考えが頭をグルグルと駆け巡る。


 駄目だ。何を考えているんだ俺は。ここで財宝を持ち帰り、主人公補正ならぬ大富豪補正を受けた、超・大学生として俺はキャンパスライフを送るのだ。その為に寿命も10年支払った。対価は持ち帰らなければならない。それこそが俺の使命である。


「俺はダンジョンをクリアして、一攫千金の財宝を持ち帰るぞォォォォォォォ!!!!」


 洞窟内が振動するほどの大声で叫んだ俺は、決意を新たに前へ進む。


 はずだった。

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