プロローグ!
俺の部屋のクローゼットがおかしい。
本日、入居したばかりのアパートである、ワンルームのこの部屋で。違和感しかないクローゼットに遭遇した。
高校時時代の俺と言えば、遊ぶ事ばかりに熱心で、勉強など卒業出来る程度にしかしていなかった。
しかし、遊び仲間だった級友たちが、揃って進学を決めた時、初めて大学生活の素晴らしさについて知った。
県外の大学に通いながら、一人暮らしをスタートさせる。つまり、誰の目も気にする事無く、1日中ネトゲーに興じる事も出来るし、女の子を連れ込む事も出来る。たまに襲来するレイドボスのような両親さえクリアすれば、4年間遊びたい放題だと言うのだ。
それを聞いてから、全身全霊を勉学へ注ぎ、猛勉強に猛勉強を重ねた。落ちこぼれも同然の俺が、念願の一人暮らしをゲットする為には、それなりの大学へ進む必要があったのだ。
そして、俺は県外の国立大学へ進学する事に成功した。両親は大喜びして、親戚を集めてパーティーをするという奇行に走ったのは俺の黒歴史になるだろう。
しかし対価は大きかった。あっさりと一人暮らしを認められた俺は、入学式を一週間後に控え、早々と入居を済ませた。
実家から新幹線で2時間。更にローカル線で1時間かかるこのアパートは、下見などしておらず、ネットで間取りと立地条件だけを確認しただけではあったのだが、間取り図にはこんなモノは無かった。
荷物の整理を行う過程で、クローゼットの中に大きな鉄製の扉があるのを発見したのだ。
錆びが酷く、元の色も判別出来ない扉。間取り図的に考えて、隣の部屋に直通してしまうであろう、謎の扉。お隣さんが、美人女子大生であれば許される間取りだと思う。しかし、むさ苦しい男だった場合には悲惨な事になるし、外国人ゲイボーイなんかが入居していた場合には大惨事だ。
リスクが高い。非常にリスクが高い話ではあるが、今なら事故を装って確認する事が出来る。入居初日であり、間取り図に存在しなかった扉だからこそ、不動産屋に全ての責任を押し付ける事が出来るだろう。
それに、お隣さんが女子大生だった場合、この事故をきっかけに交流が深まる事だってあり得る話だ。
意を決した俺は、謎の扉に手をかける。
その扉は不気味な程に冷たかった。
吉と出るか、凶と出るか分からない。願わくば大吉が出ますように。
手に力を込めて扉を押すと、耳障りな音を立てながら扉は開いていく。
さぁ来い! 女子大生の花園!
間取り図的に言えば、俺の部屋のクローゼットの中から直通するそこは、お隣さんのクローゼットのはずだ。それであれば、そこは女子大生の花園である可能性がある。断っておくが、俺に下着泥棒の趣味は無い。それでも、男なら女子大生のクローゼットが花園である気持ちは分かるだろう?
誰に問いかけていると言うのか。きっと、自分に言い聞かせているのだろう。俺は溢れ出る好奇心を抑えきれず、遂に扉を全開させた。
……結論から言うならば、どうやら俺は凶と書かれた面しか無いサイコロを振ったようだ。
洞窟があった。華の大学生活をスタートさせる為の第一歩である所の、念願のマイルームのクローゼットの中に洞窟があった。ネトゲなんかの定番とも言えるダンジョンである洞窟があった。現実世界で言えば、コウモリなんかがウヨウヨと生息していそうな、好き好んで入りたく無い場所の上位に数えられるであろう、洞窟があった。
なぜこんな場所に洞窟があると言うのか。そもそも俺の部屋は2階だし、洞窟がある方向へは他の部屋が4部屋ほどあるハズなのだが。物理法則が滅茶苦茶だぞ不動産屋!
自室の勉強机の中にタイムマシンを隠し持っている小学生が居ると言う話は聞いた事があるが、自室のクローゼットの中に洞窟を隠し持っている大学生の話は聞いた事が無い。
前者の小学生は、未来から来た猫型ロボットのお友達がオプションらしいが、この場合は何がオプションに付くと言うのだろう。未来から来た猫耳女の子を熱望したい所だ。
こんな状況に直面した場合、即座に不動産屋にクレームを入れるのが妥当な選択肢なのだろう。しかし、俺はそんな野暮な事はしない。
俺は、こんなトンデモ空間を見せられて、危機感を覚えるほど出来の良い頭を持ってない。もしかしたら、物凄いお宝が眠っていて、入学前から大富豪というチートステータスを入手する事になるかもしれない。
こうして俺は、マイルームで発見したダンジョンの探索に乗り出す事にしたのだった。