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イーヴィル・アイ(邪視眼)  作者: ランプライト
第XIII章:現実×世界
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-063-

時折湧き起こる会場のどよめきが、体育館の外に居る私の所にまで、討論大会の盛り上がりを届けてくれる。


今日が、討論大会本番。…まあ、色々あったけど、裏方だったけど、頑張って良かったな。 少なくとも、そこそこ見栄えの良い内申書は担保された筈だ。


私は、体育館へと続く渡り廊下で一人、ぼっと、お盆過ぎの涼風が渡っていくのを眺めていた。

本当は、最初から、ずっと何かを期待して、ずっと待っていたのかも知れない。


藤森:「あっ、ケサランパサランだ、…」



その時、会場で、ひときわ大きな拍手が沸き起こった!…どうやら、優勝者が決まったらしい。


会場から走り出してくる嬉しそうな生徒達、中には、惜しい勝ちを逃したのだろうか、苦虫を噛み潰したような渋い顔の先輩の姿も混じっている。



そして、遂に、彼女が、…姿を現した。

いつもにも増して大勢の取り巻きに囲まれて、胸に抱えた大きな花束が、他の誰よりも似合ってる。 うん、この私が、保証する。


遠目に、見ただけで、何故だか無性に瞼が、…滲んでしまう。



私は、最後にもう一度だけ、勇気を振り絞って、

学園の女王様、三条茜の前に、…歩み出た。


藤森:「三条、さん。」


取り巻き達の輪が、不自然にひしゃげて、…ざわめきが起こる。


茜は、今も、変わらずに可愛らしい。

到底この場には不釣り合いな、部外者の突然の登場にも、笑顔を絶やさない。


三条:「はい、…藤森さん、」



私なんかが、時間を無駄にする事が、取り巻き達には、許せないらしい。

私は、弾き出されそうな無言の圧力を全身に感じながら、それでも、何とか、…踏みとどまった。


藤森:「優勝、おめでとう。」

三条:「有難う御座います。 チームの皆さんや、応援して下さった皆さん、協力して下さった係の皆さんのお蔭です。」


何だか、私の知っている茜とは、違うミタイ。

私の知っている茜は、もっと、…違う。 こんなんじゃ、…無い。



私は、もう、気が済んだんだと、自分で納得して、…ポケットから、ペンダントを、取り出した。


藤森:「これ、三条さんのペンダントじゃないかな?」


彼女は、少し目を伏せて、何か溢れるモノを堪えるかの様に目を伏せて、

それから、再び、笑顔を見せてくれた。


三条:「はい、もう、見つからないものだとばかり、…諦めていました。」

藤森:「大切なモノ、なんでしょう?」


三条:「ええ、とっても、…」


私は、ナザール・ボンジュウを、茜の掌の上に、手渡して、

茜は、そのまま、ほんの一瞬だけ、私の手を、そっと、握り締めた。





それから、彼女は、一度だけ軽く会釈をして、再び大勢の取り巻き達と共に、祝賀会場の方へ、姿を消した。


私は、一人取り残されて、渡り廊下で、胸の高鳴りの余韻に浸りながら、…



藤森:「終ったなぁ、…夏休み。」










祝賀会には、一応、討論大会係の面々も招待されている。


そうは言っても、友達の少ない私には、ホールの隅っこで、ジュース片手にリボンのついた鳥の足を齧るくらいしか、やる事がない。


優勝チームの改めましての挨拶、来賓や校長先生の祝辞、そう言えば、茜のお父さん(注、学園理事)って初めて見た。 結構こじんまりした、普通のおじさんなんだ。



見覚えのある1年の女子が、私に近づいて来た。

一緒に、夏休み中の図書室の貸出係を担当していた子だよね、確か、…殆どサボってたけど、


1年C組の係の子:「結構、任せっきりにしちゃって、ごめんね。」

藤森:「いいよ、私、どうせ何時も、こういう役回りだから、…慣れてるの。」


無理に話題を探すのにも疲れて、当たり障りのない二言三言を交わした後、私は、トイレに行くからと言って、一人、会場を抜け出した。



…帰ろうかな

すっかり日の落ちた学校は、いつもとは違った顔を見せる。


知らず知らずの内に私は、地下へと続く階段室のドアの前に来ていた。


宴会の喧騒も、此処までは届かなくて、静かだ。

湿り気を帯びた暗闇に纏わりつかれて、何故だか私は、安らぎすら感じていた。


何気なく触れたドアノブは、いとも簡単に開いて、私は、夢遊病者の様に、いつの間にか、暗い、地下へと続く階段に、足を踏み入れる。


地下への階段は、何故だか地上の階段の2倍位の段数が有る。



非常通路を示す緑の常備灯が、不気味な、何故だか懐かしさすら感じる地下の長い廊下を照らし出していた。 耳がしんと鳴る様な静寂の中を、私は一歩一歩、踏みしめながら、空想の中で見た物語を、…反芻する。


…ここに、地下図書室が有る。


…ここに、館野涼子の部屋が有った。


恐る恐る触れたドアには、しっかりと鍵が、かかっている。

どんなに静かに耳を澄ませてみても、誰の話し声も、…聞こえる訳がない。



藤森:「さあ、もうこれで気が済んだでしょう」。


私は、自分にそう言い聞かせて、いよいよ本当に「現実」を峻別して、爪先を、…着地させる。



今度は足取りも確かに廊下を闊歩し、長い階段を軽やかに駆け上がって、…


「現実」へと通じる、階段室のドアを、…開ける。…あけ、…あれ?…




開かない?

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