表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イーヴィル・アイ(邪視眼)  作者: ランプライト
第XIII章:現実×世界
62/65

-062-

此の世界は、完全には、私が元居た世界と同じ、…では無かった。


技術工作特別教室はずっと前から鍵が掛かっていたし、千恵子なんて幽霊は居なかったし、私は地下の図書室にも行かなかった。 天井からネズミの死骸が降ってきたなんて事件も無い。 不思議なポスターも存在しないし、変態関目とか言う非常勤保険医も居ない、あの恥ずかしい誘拐事件も起こらなかった。 


私は、親友美弥子と同じクラスになれたし、ホームルームの推薦投票で討論大会係に選ばれたし、図書委員代行で貴重な夏休みをまるまる潰したし、と言う処は、私の覚えている?記憶と一致する。


そして、三条茜は、私の事に、それほど興味を持っていない様だった。


まあ、ドッチが本当で、ドッチが創作なのかは、後の判断に委ねるとして、…美弥子は相変わらずビビりだが、兎に角何事もなく明日はやってくるみたいだし、…これで良かった、


そうに、決まってる。



私は陽の落ちかけた学校の下駄箱で、使い古したパンプスに履き替えて、…トントンと踵を直す。

オレンジ色の長い影が、私の足下迄、…伸びて来る。


校庭を駈けるバレー部の「ラスト一周」のかけ声が、…何故だか、私だけをこの世界から除け者にしてるミタイで、少し、胸がきゅっとする。


お客様駐車場の高級外車を取り囲んだ取り巻き達の中心で、三条茜が、上品に愛想良く振る舞っていた。


藤森:「まあ、私達とは、違う世界のヒトだよ、…ね。」





それから1時間後、私は、美弥子からのメールで呼び出されたファミレスで、ドリンクバーのメロンソーダをストローで弄びながら、窓の外を歩いて行く沢山の人達の姿を、ぼーっと眺めていた。


残り少ない夏休みを謳歌する若者達、何時でも忙しそうに仏頂面するおじさん達。

魔法も、お化けも、神様も居ないこの世界で、皆、当たり前の様に、…生活している。


此の中で、元から此の世界に住んでたヒトって、…どれ位居るのだろう?



萱島:「それで?」

藤森:「…それでって?」


萱島:「終わりなん、その、お人形さんミタイナ女の子が出てきて、気が付いたらいつもの図書室に座ってて、…それで終わり?」


藤森:「そうみたいね。」

藤森:「多分、これでエピローグ。」


私は、何故だろう、何時の間にか、転寝で見た不思議な物語の事を、親友に洗いざらい打ち明けていた。



萱島:「ふーん、まあ、前に比べたら、一寸は面白い話やったな。 なんや途中は、よう判らん難しすぎる設定で、なんや最後は尻切れトンボやったけど、…少しは上達したんちゃうん?」


つまり、…全ては私の「中二病な作り話」だったと、…?

全ては、私が討論大会係の暇に飽かせて書いた、「空想物語」だった。 と言う、そういう訳だ。


きっと、そういう事で良いのだろう、…もう、敢えて自分から「怖いもの」に首を突っ込む必要は無いのかも知れない。


それなのに何故だろう、…何だか、私は、納得いかない。



藤森:「ねえ、館野涼子って、知ってる?」

萱島:「あの学年トップの子やろ。」


それは「全部なかった事にしてくれた」のだから、本当は触れるべきでは無い、そういうモノなのかも知れない。…でも、


改めて、掌をじっと見てみるが、…眺めれど眺めれど、何かいい知恵が出てくる訳でもないし、「ハムサ」のあざの痕跡すら見当たらない。


それなのに何故だろう、…何だか、私は、未だ、納得がいかない。


私は、どうして、何時の間に「普通の人間の女の子」になってしまったのだろう?

そんな事は、願わなかった筈なのに!



藤森:「ねえ、今から学校に行ってみない?」

萱島:「何でなん? もう暗いやん、夜の学校なんて気味悪いだけやん。 意味わからへん!」


藤森:「お願い、美弥子、チューしてあげるから!」

萱島:「アホちゃうん? そんなんい要らんわ、…キショイなあ!」


藤森:「追加で好きなデザート奢るから!」

萱島:「それより早よノート写してまい。 晩御飯に遅れたら、お母さんに怒られてまうやろ、」


藤森:「へいへい、」



私は、美弥子から見せてもらった「夏休みの宿題」を、急いで自分のプリントに書き写す。

大事な事は、やらないと行けない事は、まだまだ一杯、残っているのだ。


現実は、時間と共に追いかけて来る。

健全な女子高生には、曖昧な妄想に振り回されている余裕など無いのだ。


でも、…




私のポケットの中には、今も、あの、青い目玉のペンダントが、仕舞ったままだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ