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強烈な恐怖と後悔の余韻が、まだ、鼻腔の奥にこびり付いている。…
どうにも自由にならない身体と精神を、無理矢理ねじ伏せる様にして、私は漸く重い瞼を開けた。…
其処に見えたのは、錆び付いた木造倉庫か、学校の体育館の様な広い天井だった。
割れた窓から、太陽の光が差し込んで来る。
気が付くと、私は、砂埃まみれの床に敷かれた、緑のビニールシートの上に、一人きりで、…ひっくり返っていた。
私、生きている?…
虫の声が聞こえて、自分が息をしている音が聞こえて、…私は一人きりじゃないと知る。
途端に、世界は私の奥から滲み出して、私は、自分が此処に、確かに存在している事を、…実感する。
でもどうやって、私は「現実」に帰還できたのか?
実は此処は私が「可能性のスープ」から創り上げた「全く別の世界」なのか?
はたまた、変態関目に悪戯されてからこっちの「騒動」は、…全部夢落ちだったのか?
今となっては、どうでもいい事だ、
此処は、何も無い「闇の宇宙」よりは全然マシだったし、…
何より、以前に見た事が有る、見慣れた日常の風景だし、…
私の胸は、私が思っている程、大きくは無いミタイだし、…
それはそうと、…
もしも、どうしても幽体離脱から戻って来れなくなった時は、どうすれば良いか。
その方法は、比較的簡単である。
生まれてから此れ迄の、数限りない自分の恥ずかしい行いを、一つ一つ思い出しながら、深く反省する事である。 確かに自分の事を大切に思ってくれた人の事を思い出しながら、自分がその思いに如何に応えて来れなかったかを、深く内省する事である。
そうすれば、自分の愚かさと小ささをしみじみ実感できる様になって、だんだん別に自分なんてどうなってもいいやと、思えたら、…オカルト的な大抵のトラブルは、いつの間にかどうにかなるもの、なのである。
藤森:「泣いたら、すっきりしたわ。」
初めから、そうすれば良かったのかも知れない。
それにしても、此処は何処で、今は何時なのだろう?
何故、此処に居たのかについても、いずれその内には、解き明かさねばならないだろう。
私は、勝手知ったる廃墟の体育館を抜け出して、いつか来た道を、見覚えのある農家へ辿る。
ところが、辿り着いた其処は、一目に判る程、ずいぶん昔から人の住む気配の絶えた、…廃屋だった。
割れた玄関戸のガラスは、既にセピアに変色している。
藤森:「何だか、前に見たのと、一寸違うみたいね。」
町全体に、人の気配がしない。
相変わらず、私は、どこか得体の知れない世界に迷い込んだ侭なのだろうか?
こじんまりした商店街も、少し離れた所にある駅も、駅前に一つきりのコンビニも、埃まみれの荒れ放題で、人っ子一人いない。 …
私の足下を、小さなカナカナが、我が物顔に、…通り過ぎて行った。
コレはまるで、人類滅亡後の世界?…ミタイだな、
再び、私は焦躁感に、囚われる。
だって、誰もいない世界なんて、私の帰りたかった場所じゃない!
まさか、私が姿を消した数時間?数日?数年の間に、例の「悪魔」が、世界を滅ぼしたとでも、…言うの?
私は、小走りに、駆け回り、探しまわる。
ヒトの姿を、此の世界の理由を、納得のいく答えを、…
そして! とうとう私は、「それ」を見つけて、全身の毛穴の開く様な震えに、…取り憑かれた。
踏切の反対側に、一人の少女が、…立っていた。
いや、一目で見て解る。
この子は人間じゃない。
だって、こんな、完璧に美しい少女が、…人間である訳がない。
何処となく、雰囲気は、あの「館野涼子」に、似ていなくもない。
舘野涼子が「球体関節人形」なら、コノ子は「アンティークドール」とでも、言えば良いだろうか?
その少女、…
黒いゴスロリのドレスに包まれた背の頃は130cm、華奢で中性的な肢体、傷一つない端正な小顔は透き通る様に白く、長い睫毛に大きくて深い瞳、ウェーブした艶やかな髪は腰まで届く豊かな長髪、そして潤った唇。
星を集積する夜光虫の様に、真昼の太陽の下に立って尚、全身から、朧げな光を放っていた。




