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病院から戻ったその日に、家に訪ねて来た親友は、今迄に見た事も無い位見事に、萎れていた。
親友は、行き成り私に抱き付いて、15分位ずっと、謝りながら泣いていた。
これは、現実なのだろうか?
私の親友によれば、あの日(注、知らぬ間に一週間近くが過ぎていた!)、学校の保険医を名乗る中年男が、突然卒倒した私を抱えて保健室に連れて行き。 それから何かしらの医療処置?を施した後、それでも回復しない私を病院に運ぶと言い出して、親友には「家族への連絡」を言づけて偽の病院の連絡先を渡し、ソレっきり姿を眩ました、…と言う事らしい。
当然、犯人の男の面相は警察に連絡済で、既に指名手配が敷かれている。
幸いにも私は無事で、恐らく途中で怖くなった犯人が、私を100km離れた廃墟の体育館に放置して、その侭逃走したのだと、警察ではそういう話になっていた。
本当に無事で良かったと、親友は言った。 もしかしたら、殺されていたかも知れないと、親友は怯えた風に言った。
でもどうして、掌の痣が、消えてしまったのだろう?
一週間も経って自然に消えたのか、それともそもそも、痣なんて、最初から無かったのだろうか? 私は、親友の後悔を聞き流しながら、そんな何の脈略も無い事を、ぼーっと考え続けていた。
これは、本当に現実なのだろうか?
まるで夢の中の様に、不安定で捉え所が無く、透明な泥の底に沈んだヤツメウナギを眺めているみたいに、驚くほど客観的だ。…握り締める指にさえ、力が入らない。
私は、涙も流さずに、声も出さずに、きっと泣いていたに違いない。 自分でも分からないけど、 固まりかけた感情は、スグサマバラバラに分解されて、何故だか行き場を見失う。
私には、自分が泣いているのか、怒っているのか、悔しがっているのか、それすら、…判らない。
私の代わりに、親友が泣いてくれる、ママが怒りをぶちまけてくれる、パパが悲しんでくれている。 私には、全ての情動を奪われた無機質な私には、自分が今も生きているのか、それすら、…実感できない。
これは、本当に現実なのだろうか?
これは、本当に本当の私なのだろうか?
そして目の前のドアが開いて、フランス人形ミタイなフワフワカールと、大きく胸元の開いたFカップの美少女が、…飛び込んで来た。
三条:「御姉様!」
茜が、行き成り私に抱きついて、…キツく抱きしめる、
藤森:「あ、…三条さん、」
茜の身体の甘い匂いが、心地よく喉の奥を、擽ったく、…撫ぜる。
三条:「御姉様〜、無事で良かったです!」
私の顔は半分以上、柔らかな茜の乳房に埋まって、…体温と一緒に、茜の安堵の音が、肌の奥まで直に、…伝わって来る。
藤森:「ありがとう、…」
その、胸の谷間の奥から、私の事をキョトンと見詰める、…まん丸な青い目玉。
藤森:「ナザール・ボンジュウ、…」
その、赤ん坊の様な、無垢な視線に見竦められて、…
ぞわぞわと、寒イボが立つ様に、私の首筋に、痺れが、…戻って来る。
背中を、脇腹を、下腹を這う様に、ピリピリした怖気が、…戻って来る。
忘れていた痛みを、…思い出す。 生の感情を、…取り戻す。
何時の間にか私は、銀の装飾に縁取りされた、その青い目玉のペンダントを、…手に取っていた。
藤森:「あ、…」
私を覆い縛り付けていた、観えない拘束具が、…砕け散る!
私は、大きく気を吐いて、今一度、神秘のアミュレットを、…握り締める。
藤森:「…、の、…やろう、…」




