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萱島:「先生には上手い事言うといたけど、何か渡す物があるから職員室に取りに来てって言うてたで。」
藤森:「何だろ?」
萱島:「あっ、それとアンタおらんかったから「討論大会」の係になったし、…宜しくー!」
藤森:「えっ、嘘? ナニそれ!」
私は「プヨプヨした触り心地」と引き換えにしたモノを、改めて天秤に架けて思い悩む。
藤森:「う~ん、一時の快楽に身を委ねるべきでは無かったか~!」
職員室で渡されたのは、年間カリキュラムと、一学期のテストの分析結果と、通知表。
藤森:「このクラス分けって、成績で決めるのかと思ってたけど、そういうのじゃ無いんだな。」
萱島:「そうなん?」
この学校では、試験結果が大々的に順位と点数もろとも掲示板に張り出される。
私は、…高校1年生152人中74番、微妙な順位だ。親友は、…12番、女王様は、…やはり凄い、2番だ。
1番は、C組の館野涼子、…聞いた事無い子だった。
萱島:「何でも2個ダブりの先輩やって、」
藤森:「成績トップで2個ダブりって、意味分かんないな。」
萱島:「訳有り? 病気がち?」
この学校では、クラス決めとは関係なく、4月から学則で何かしらの部活動に参加する事が義務付けられている。しかも、部活に限っては男女合同だ。 私と親友はと言うと、ちゃっかり地学部に入っていた。 活動内容が地味で楽だし、人気も無いから競争率も低くて選抜とか無しにすんなり入部できる。
本当はオカルト研究会に入りたくなかったかと言うと、一寸未練はあるのだけれど、自分の中ではもう、そう言うのは中学迄で卒業したと言う設定にしていた。 実は中学の時に、度の過ぎたオカルト趣味の所為で、クラス中の皆から危ない中二病とレッテルを貼られて寂しい3年間を過ごした黒歴史があったりする。
それに地学部には余り知られていない特典が有った。 活動内容の一つが何故か天体観測で(注、単に人数の少なかった天文部と合併しただけなのだが)、特権で唯一地学部だけが学校の屋上を自由に使う事が出来たのだ。
一学期最期の今日、そういう訳で私と親友はとっぷりと日の暮れた学校の屋上で、ポリポリお菓子を食べながらマッタリと時間を潰していた。 男子の先輩達が熱心に天体望遠鏡を操作している。
先輩その1:「おーアルタイル、」
先輩その2:「イイネイイネ~、歌っちゃう?」
藤森:「だるぅ…、」
行き成り親友が、私の袖を引っ張った。
藤森:「何?」
萱島:「しーーーーー!」
親友は意味深に片目を瞑りながら、こっそりついて来いと合図する。 私は黙って、天体望遠鏡のレンズとは丸っきり反対側の屋上の隅っこに、…フェンス越しに、灯の落ちたプールが見えて。 私は思わず3歩、後ずさる、…
いや、私は高所恐怖症ではない。 ただ一寸プールが嫌いなだけだ。 と言うか、大きな水溜りが苦手なのだった。 よく覚えていないのだが、どうやら小さい頃に海で怖い思いをしたのがトラウマになっているらしい。 今でも風呂はシャワーだけで済ませているし、小学生の頃は学校のプールの授業を一人保健室で過ごした黒歴史があったりする。
美弥子の野郎、私がプール苦手なの知ってる癖に、…
藤森:「何よ?」
萱島:「あれ見てみ、ちょっと、ヤバない?」
恐る恐る覗き見たその、キラキラ揺れる水面には、仄かに朧げに、夜光虫の様な光を放つ、…不思議な美少女が浮かんでいた。
何故だか、…真っ裸で、、