-017-
藤森:「ゲぇーーーーーー!」
指に纏わりついた黒髪が、…嫌気性細菌の粘液に塗れて、テカテカと光る。
藤森:「誰だよー、ちゃんと掃除しとけよー、」
ゆっくりと水位は下がり始め、ゴロゴロと排水溝から流れて行く「小さくて白いもの達」、…
私は改めて大量のシャンプーを手に取って、俯きながら髪を掻き毟る、
思い出しても震えがくる様な、生物の屍骸、その腐った血凝りが、毛穴を通して私の脳髄を犯すのではないかと、…奇妙な錯覚に捕らわれる。
念入りに髪の間を解いて、「白いもの」が残っていない事を確認し、それから漸くコンディショナーを、//:「…あっ、切れてる、ちきしょう!!」
ほんの少ししか出なかったコンディショナーを慎重に髪の毛に行き渡らせる。
藤森:「最悪だー、今日はもう帰って良いよねー」//:「やってらんないよぉ…」
と、突然! 真っ白な、バスタブを流れてくる!…赤い、鮮血?
藤森:「えっ?えっ? 今度は、」//:「何?何?何?…」
頭に付いた鼠の血は、全部綺麗に落した筈なのに!
でも、血は、私の髪の毛からではなくて、足元、後ろから、ポタポタ流れて来る?
何で、血が?勿論ココには私しか居ない、振り返っても、…誰も居ない//:「何なのよ!この血?」
私をパニックに陥れる、想定外の出来事!
藤森:「ああーーーっ!」//:「…私の血かぁ、…」
どっと重い疲れが、凝り固まった背中に、…纏わりついて来る。
駒ちゃん:「大丈夫? 着替えとタオル、ココ置いとくね。」
脱衣所から、駒ちゃんの声が聞こえてきて、、ちょっと、…ほっとする。
藤森:「あの、センセ、ちょっとお願いが有りまして、、その、生理用品、…もらえますか…」
暖かいお湯を浴びて、綺麗な服に着替えて、漸く一心地付いて、…駒ちゃんに奢って貰った、缶お茶に口をつける。
ふと見ると、宿直室の壁にも、例の「目玉」の防犯ポスターが、貼ってあった。
駒ちゃん:「大変だったわね、でも何であんな所で鼠が死んでたのかな?」
私は、すっかり上の空で、タオルで髪の毛を乾かしながら、ボーっとポスターに魅入っている。
藤森:「先生、あのポスター、何で何時までも彼方此方に貼った侭なんですか?」
何だか、無性に機嫌が悪くて、先生に向かってまで、ツッケンドンな口調を止められない、
駒ちゃん:「さあ、そんなに昔から貼ってたっけ? 気付かなかったけど、…」
藤森:「しかも、ヒトの来なさそうな所にばっかり、…確か、2年前のですよ。」
立ち上がって確認したポスターの日付は、…3年前? //:「…えっ? 何で?…」
しかも、作者の名前が、…山岸妙子? //:「…えっ?? 何で??…」