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夢幻菌機ウィルシオン  作者: 八房 冥
5章 もうひとつの復讐
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閃光

 パイロットスーツに着替えた翔真はすぐに相棒『セラフィオン弍型・ラファエル』のコクピットに向かう。見た目は『セラフィオン零型・ウリエル』と瓜二つだが、『ウリエル』が赤と白を基調としているのに対し、『ラファエル 』のカラーリングは緑と白である。


「初の実戦だな、ラファエル」


 シートに座った翔真は、コクピット内の機械と繋がったヘルメットを被りながら呟く。そして、ラファエルの起動を開始する。


「……ッ、まったく、相変わらず慣れねぇな、この感覚は」


 起動と同時に、翔真の脳内には様々な情報が流れる。彼を少しだけ苦痛が襲うが、それもすぐに終わる。


「白井少尉、お前の行先は名古屋だ。転送したルートを元に行け」

「了解っす」


 日本支部代表、篠原茂准将の言葉に翔真は答える。そして、正面のモニタで地図を確認し、レバーを握る。ラファエルを載せたエレベータは上昇し、基地の屋上に出る。出撃許可は下りた。翔真は何度か深呼吸してから宣言する。


「セラフィオン弍型・ラファエル、白井翔真。ちょっと世界を守ってきますよ!」


 ラファエルは背中の翼を広げ、飛翔する。


「行くぜぇ、ラファエル! ムカつく野郎共にオレ達の正義を見せてやる」


 緑と白の天使は、真なる正義のために大空を翔る。


「はははっ、やっぱり空は最高だぜ!」

「気を引き締めろよ、白井少尉」

「分かってますよ! オレはこの空を守るんですから」


 篠原の注意に、翔真は応答する。


「ならば、しっかりと守ってこいよ」

「はい!」


 かなりの速度でラファエルは飛行する。東京上空に来た翔真は、地上付近に二つの黒い物体を見付ける。カメラでそれをズームすると、それは円盤状の形をしていた。円盤から飛び出した筒のようなものから弾丸を出し、建物を次々と破壊している。


「野郎……ッ」


 翔真は怒りに顔を歪ませ、降下しようとする。すると篠原から通信が入る。


「白井少尉、ここでの着陸は許可しない」

「でも!」

「東京には森崎少尉を行かせる。お前は名古屋だけを目指せ」

「クソッ!」


 崩壊していく東京を見て、何も出来ない事に翔真は毒づく。


「百合花ちゃん、頼んだぜ」


 戦友のストイックな少女の顔を思い浮かべながら、翔真は目的地を目指す。



 ☆



 名古屋。ここで浩輝タウと共に破壊活動を行っている浩輝オメガは、乗機である玄武のコクピット内で仲間である他の浩輝達の報告を聞いていた。


「こちら福岡。中国支部の飛青龍フェイ・チンロンを確認。交戦に入る」

「こちら札幌。未だ敵機は確認できず」

「こちら広島。同じく」

「こちら大阪。同じく」

「こちら仙台。同じく」

「こちら東京。セラフィオン零型・ウリエルを確認。我々の知る情報とは異なり、飛行機能を備えている模様。交戦に入る」

「こちら名古屋。未だ敵機は確認できず」


 オメガも現在の情報を報告する。すると、脳内には新たな声が届く。


(――――そろそろ着くか。待ってろよクソ野郎共!)


 玄武にはウィルシオン等と同様に『ヴァルキュリヤシステム』が搭載されている。よって『ワルキューレシステム』搭載機体のパイロットの思考を読むことが可能となる。オメガがその声を出した方向を見ると、緑と白で彩られた天使がそこにいた。


「訂正する。こちら名古屋。セラフィオン零型・ウリエルに類似する機体を確認。パイロットは白井翔真と思われる。迎撃する」


 そう報告したオメガはレバーを握る。機体を空中に浮かせたまま砲を敵機にロックオン。トリガーを引く。


幻想の砲弾イマジナリー・シェル


 呟きと共に、玄武の砲筒からは半透明の球体が飛び出す。同時にタウ機からも同じものが発射される。


(――――クソ、いきなりかよ!)


 敵機からはそんな声がオメガの脳内に響く。しかし、今まで街を壊してきた砲弾が直撃したはずのその機体には傷ひとつ無かった。


「こちら名古屋。『幻想の砲弾』は敵機には通用せず。装甲にはAIVが流れていると推測する」


 報告したオメガは淡々とレバーを握る。



 ☆



 攻撃を受けた翔真は思わず眼を閉じるも、機体のダメージが無いことに気付き安堵する。


「クッソ、ビビらせやがって……」


 翔真はラファエルの背中から剣を取り出す。


熾天使の剣セラフィム・ブレードォォォォ!」


 叫びと共に翔真はラファエルに剣を構えさせる。彼は敵機の様子を見る。


「それにしても、何だあのデザインは? まるでUFOじゃねーか」


 彼の視界に映る二つの物体は円盤のような形をしていて、上に砲筒が一本ついている。そこから半透明の球体が次々と飛んできて、ラファエルを狙うが、その装甲に触れた瞬間球体は霧散する。


「なるほど、これはIVで弾を作ってんのか……でもそんなの、ラファエルには効かねえぜ」


 IVを武器として戦うゲファレナーへの対抗手段として、IVを打ち消す性質を持つAIVを装甲に流し込んだ。これによって、IVで構成されている玄武の砲弾をも無効化することが出来る。


「……って、おわあああ!」


 ラファエルに玄武の機体がかなりの勢いで突進する。直撃したラファエルの機体は衝撃を受け、翔真をかなりの負荷が襲う。そこにもう一機の玄武がぶつかっていく。回避する余裕もなく直撃。広げていた右翼が破損し、飛行能力を失ったラファエルは落下する。


「くっ」


 ラファエルのスラスターを操作し、翔真は落下速度を緩める。だがそこに、二機の玄武が落ちてくる。


「こん……のバカが!」


 暴力的なまでの衝撃に、翔真はヘルメットを被っていたにも関わらず、コクピットにぶつけた頭から血を流す。ラファエルの両腕と右脚は折れ、立ち上がれない。落下地点は森林だった。周りに人がいないことに翔真は安堵するも、現在の状況に絶望する。ラファエルの周囲には二機の玄武が着地していた。彼は叫ぶ。


「テメエら! 何でこんなことをする? 何の罪もねぇ奴を怖がらせて……それがどんだけ自分勝手な事なのか分かってんのか!? 」

「あなたもご存じでしょう? 私達の力を高めるためです」


 オメガが答える。機械で合成した様なその声は恐怖感を翔真に与えた。それを誤魔化すため、翔真は咆哮する。


「ざっけんな! それなら何故力を得ようとする? その力でお前達は何をするつもりだ!?」

「あなたには関係ありませんよ」


 今度はタウが答える。オメガとまったく同じ機械音声だ。


「この野郎……」


 オメガとタウは翔真の呟きを聞く。しかしそんなものは関係無い。


「そうですね。怨み言は後で聞きましょう」


 オメガが呟くと、二機の玄武に異変が起こる。円盤から手足の様なものがニョキッと出てくる。そして円盤はカブトムシの硬い羽のように割れ、スライドし、それらは形を変える。次の瞬間、円盤状だった玄武の機体は鎧を身にまとった人型となった。砲筒は右肩に載っている。人型となった二機の玄武は一気にラファエルに襲いかかり、その手で敵機の装甲を引きちぎっていく。


「や、め……」


 絶望のあまり翔真は身をガタガタと震わせる。そして何も出来ない悔しさに、思わず涙を流す。


「クソ……クソォォォォォォ!」


 やがて玄武の手はコクピット部分に手を伸ばす。すると、不意にその手が止まる。



 ☆



 翔真を回収しようとしていたオメガとタウは、入って来た報告に衝撃を受ける。


「何、東京のプサイとファイが撃墜されただと!?」

「ああ、撤退するところに追い撃ちを受けた」


 浩輝達の行動方針は『危ないと思ったら撤退』である。現に福岡と札幌にいる浩輝達はそれぞれ、関滄波の飛青龍とイズミ・ドレイパーによって撃退され、撤退したという報告をオメガ達は受けた。滄波とイズミはそれぞれ広島と仙台に向かっている。


「だが、円盤形態の玄武はハルファスさえも超える機動性を持つはずだ。それを撃墜するなんて……」

「とにかく事実だ。そして、二機を撃墜したウリエルは名古屋――お前らのところに向かっている。恐らく玄武では奴を倒すことが困難だ。撤退を命じる」

「了解」


 レーベの施設で司令官の役割をしている浩輝クシーに命令され、オメガとタウは了承する。玄武を円盤形態に戻し、翔真を捨て置いて浮上する。すると、一筋の閃光がオメガの横に瞬く。タウ機の中心には穴が開き、コクピットを射抜いていた。


「なっ……」


 驚きの声を上げつつも、オメガは玄武をジグザグに操作させる。無茶な動きによる衝撃がオメガを襲うが、構ってなどいられない。


「ひとまず、南に向かう」


 目指すは海。円盤形態の玄武は水中でも問題なく移動可能である。見えない敵からの攻撃に気を付けながら、オメガは玄武を、高速で移動させる。しかし――


「無理だ……逃げられ――」


 オメガが言い終える前に、閃光は彼を貫いた。

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