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夢幻菌機ウィルシオン  作者: 八房 冥
5章 もうひとつの復讐
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道具

 ガンマ:予定通り、デルタが白井翔真に連れていかれるのを確認。ただ、腹を殴られて気絶した。

 アルファ:報告に感謝する。しかし強引な物だ。

 ベータ:まあ、デルタがしばらく寝ていようが問題ない。奴の仕事はまだ先だ。ところで、このチャットルームは放棄するのだったな。

 アルファ:ああ。ケーニヒに頼んで消滅させ、新しい物を作ってもらう。奴もこのチャットルームを覗いているから事情も分かっているだろうしな。



 チャットルームでは黒月浩輝達が現状の確認をしていた。浩輝イプシロンはこのやり取りをロボット部の部室で見ていた。 だが、この場でこのチャットを見ているのは彼だけではない。


「ふーん、これはまた奇妙アルね」


 ロボット部部長、黄秀優が感想を呟く。彼女はイプシロンの持つ小さなスマートフォンの画面を覗いていた。


「ところで、あなたは一体何者なのでしょうか。黄先輩」


 イプシロンは疑問を投げ掛ける。すると秀優は小さく笑う。


「参考までに、アナタの考えを聞かせて欲しいアル」

「福音軍中国支部代表、黄剛秀の娘で、レーベとも何らかの関わりがある人物かと」


 イプシロンは慎重に答える。すると秀優は笑みを深める。


「大体その通りアル。確かにワタシのお父様は黄剛秀ネ。でも、お父様の真の肩書きは『レーベ最高幹部』。そしてワタシは、レーベの技術部に所属するエンジニアの一人アル。もっとも、お父様の娘ということで、それなりの権力はあるアル」

「エンジニア……ですか。もしかして――」

「ハイ、今アナタの仲間が乗っている『玄武ショワンウー』にもワタシは関わってるネ。まあ、大体はお兄様……じゃなくてお姉様が開発したけどネ」


 秀優が少しだけ悔しそうな表情をしているようにイプシロンには思えたが言及はしない。


「お姉様、というと黄秀麗さんでしょうか? 『青龍』の開発もしたという」

「その通りアル。ワタシは天才美少女アルけど、秀麗姉様は天才という言葉すらおこがましいオカマアル」

「オカマ……って男だったんですか!? 黄秀麗って」


 イプシロンは『青龍は黄秀麗という技術者が開発した』という知識だけは持っていた。しかし、秀麗の詳しいプロフィールは知らなかった。それ故に、名前の雰囲気から勝手に女性だと勘違いしていた。これは、イプシロン以外の全ての黒月浩輝も同様である。


「そうアル。今年で三十路のガチムチなマッチョアル。ワタシそっくりの美人だと期待してたアルか?」

「いや、期待というか……」

「ちなみにお姉様は男らしいイケメンが好みアル。女顔のアナタのことは眼中に無いアルね」

「大きなお世話です!」


 イプシロンは怒鳴る。そしてすぐに話題を変える。


「ところで、あなた達レーベの目的は何なのです?」

「ワタシ個人としては、尊敬するお父様の役に立ちたくて技術者をしているアル。でも、何故お父様がボスに協力しているのか、そしてボスが何を考えているのか、ワタシにはわからないアル」


 イプシロンの質問に、秀優は困ったように答える。イプシロンは『ボス』はケーニヒの事だろうと予想しながら話す。


「そうですか……、僕が思うにはケーニヒはこの世界の全てを楽しむ事を目的としている感じですが、そこまで単純では無いですよね」

「ハイ。でもワタシにはどうでもいいアル。ワタシはただお父様の為だけに動く道具ネ。道具に余計な感情は必要ないアル」

「道具……」


 イプシロンは思わず反応する。彼自身『アルファの都合の良いように動く道具』として生まれたという経緯がある。表情を曇らせたイプシロンに気付いた秀優はニッコリと笑う。


「道具というのはあくまでワタシが自分の事を言っているだけアル。アナタは自分の好きなようにすれば良いアル」

「……僕の、好きなように…………」


 イプシロンは呟く。そして再び口を開く。


「僕は、自分の……いやアルファの両親を殺した全てに復讐をしたいと思っている。これだけは絶対に譲れない。そして、その為に僕達は……僕は戦います」

「それなら、ワタシから言う事は無いアル。好きにするアル」


 秀優は優しく微笑む。


「それでは僕は向かいます。やることが有るので」

「そうアルか。頑張るアルね」

「はい」


 イプシロンはチャットルームにその旨を書き込み、部室を出るのだった。その背中を見送りながら秀優は呟く。


「なるほど、ボスが入れ込むのも分かるアルね……黒月浩輝、面白いアル」


 興味深げに彼女は笑う。



 ☆



「それじゃあ、行くわよ」


 常空一高校門。ここで浩輝ガンマと藤宮彼海を拾った高橋翠が言う。助手席には日元奏太が座り、ガンマと彼海が後部座席に座る。


「あの……何者なんですか? 僕達の名前を騙って世界中で暴れている人達は」


 奏太はふと口を開く。


「さぁ、さしずめレーベってところじゃないかしら。もしくは、私の知らない組織か……」

「一体何のために? 僕達が悪者にされちゃうじゃないですか……」

「……もう、悪者」


 高橋の答えを聞いて戸惑う奏太に、彼海が突っ込む。


「つまり、彼らは僕達の為に戦っているのでしょうか? ファントムが悪名を広めることで一番得をするのはファントムです」


 ガンマも会話に加わる。


「……だとしても、理由が分からない。私達が得をしたら誰が得をするの?」

「そうねぇ……単に大きな行動を起こしたかった。でも名乗りたくは無い。そこで選ばれたのがファントムだった、という事も有りうると思うのだけど」

「彼らは街を壊しつつも人には被害を与えていないのですよね? やはり目的が掴めません」


 彼海、高橋、ガンマが話す。話についていけなくなった奏太は黙る。そうしているうちに、彼らの基地ゴエティアにたどり着く。


「さてと、今後どうするかはしばらく様子を見てから考えるとして……」


 自動車を出ながら、高橋は言う。そして、同じく車外に出たガンマの顔を向く。


「基地に入ったら二人でお話しましょ?」


 高橋は笑顔を浮かべている。とても優しげで、慈悲深さを感じさせる笑顔だ。だが、その裏には人一人殺せそうな気迫が有るように、ガンマには思えた。彼の生存本能が告げる。ここは逃げろ、と。しかし、彼の目の前の女はそれを許さない。もしも逃げたら後でどんな目にあうか、考えたくも無かった。


「はい、分かりました」

「うふふっ、そう固くなることも無いのよ? 浩輝君。敵の正体が何者なのか、本当に気になるわねー? でも、私達でよーく話し合えば分かるかも知れないわよねー?」

「そ、そうですね……」


 引きつった顔でガンマは頷く。そんな彼を、彼海は不思議に思いながら見るのだった。



 ☆



「到着です」

「お疲れです、春川曹長」


 福音軍基地日本支部。ここに着いた翔真は浩輝デルタを背負い、車外に出る。春川瑠奈――黒月遥に労いの言葉をかけ、基地内に入った翔真は上官の倉島大和に出会う。


「只今戻りました、大和さん」

「おう……って、浩輝じゃないか」


 大和は翔真の背中の浩輝デルタを見て、少し驚く。


「はい、捕獲できるチャンスだったので。周りには見てる人もいなかったですし」

「殺しては無いんだろうな?」

「気絶しているだけです」

「そっか。ご苦労だったな。悪いが早速出撃の準備をして貰う。準備が出来次第、すぐに出撃だ」

「了解。それで、コイツはどうします?」


 翔真は背中のデルタを右手の親指で示す。


「独房に俺が突っ込んどく。お前は準備だ」

「了解」


 大和はデルタを背負う。そして翔真はすぐにパイロットスーツに着替えるべく走る。大和はふと、遥に話し掛ける。


「なあ、春川曹長。そんなにコイツが気になるか?」


 内心を見透かされたと思った遥は動揺しつつも、淡々と答える。


「はい。怪しいとは言え彼はまだ高校生です」

「中学生だろうと高校生だろうと、悪は悪だ。罪を犯した人間は裁かれる必要がある。そもそも、コイツがファントムと関係あるかは分からない。そーだろ?」

「……はい」


 大和は浩輝がファントムの一員であることを知っている。しかし、とある事情により、それを隠し続けるという約束をした。百合花によって浩輝がファントムであることは日本支部の一部の者に知らされたが、確証には至っていないため半信半疑、というのが大和の設定である。


  「そんじゃコイツはつれていく。文句は無いな?」

「勿論であります」


 遥は敬礼する。デルタを背負った大和は独房へと向かうのだった。

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