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夢幻菌機ウィルシオン  作者: 八房 冥
5章 もうひとつの復讐
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決行

 翌日。黒月浩輝は昨日と同様に学校に行った。彼が自分の席で朝のホームルームが始まるのを待っていると声をかけられる。


「おう、浩輝」

「……ああ」


 声の主は白井翔真。今日も彼はテンションが高い。

 

「何だよー、テンション低いなお前は」

「少し、夜更かししていたからな」

「どうせ今日は授業は無くて身体測定だから、夜更かししても別に良いやってとこか?」

「そう言うところだ」


 浩輝は机に伏せながら答える。彼の態度に翔真は気分を害することなく、笑顔を見せる。


「なぁなぁ浩輝」

「何だ?」

「色葉ちゃんと凪沙ちゃん、どっちが可愛いと思う?」


 予想外の質問に浩輝は内心で呆れる。


「どっちも似たようなものだろう」

「つまんねーなお前は。全然違うだろ。色葉ちゃんは大きくて、凪沙ちゃんは小さい」

「何が小さいって?」


 そこに現れた赤塚凪沙が翔真を睨む。


「あ、おはよー、凪沙ちゃん」

「おはよーじゃない! このセクハラチャラ男」

「セクハラ? 何のこと?」

「やかましい! 人が気にしてる事を……」


 凪沙は翔真をぽかぽかと殴る。翔真は痛がりながらもニヤニヤと笑う。マゾヒストなのではないかと浩輝は思った。それが数分続くと、教室には担任の倉島飛鳥が入ってきた。


「赤塚さん、どうしたの!?」

「止めないでください! コイツは女の敵です!」

「はぁ、よく分からないけど暴力はやめなさい」

「どうせ先生には分かりませんよ!」


 笑う翔真。怒る凪沙。伏せる浩輝。三者三様な彼らを見て飛鳥は戸惑う。そして彼女は浩輝に話しかける。


「ねえ、黒月君。何が起きてるの?」

「僕も知りませんよ」


 気だるげに浩輝は答える。その答えに飛鳥は不満げだ。


「もう、本当にあなたは無気力ね」


 その言葉に翔真は反応する。


「飛鳥ちゃん、浩輝に親しげなんだな」

「飛鳥ちゃんって呼ばないの。黒月君は昨日サバゲー同好会に無理矢理拉致ったんだけどね、本当にやる気が無くてね」

「サバゲー?」


 翔真は不思議そうな顔をする。彼は色葉から、浩輝は天文部に行っていたと聞いていたからだ。浩輝は強引に話を続ける。


「サバゲーも楽しかったですよ」

「本当に?」

「はい。そう言えば倉島先生は凄かったですよね。エアガンで狙ったものに次々と弾を当てて。カッコよかったです」

「そ、そう?」


 褒められた飛鳥は照れ臭そうに言う。


「へえ、あたしもやってみようかな。サバゲー」

「オレも興味あるぜ。飛鳥ちゃんに撃たれたいし」

「いつでも歓迎するわ、赤塚さん。それと白井君、飛鳥ちゃんって呼ばないの」

「えー」

「えーじゃない」


 わいわいと会話が賑わう。それをぼんやりと聞きながら浩輝は考える。


(決して上手く誤魔化せた訳ではない。白井翔真は確実に俺を警戒している。やはり余計なことをされる前に無力化すべきか)


 浩輝はスマートフォンで開いたチャットルームに考えを書き込む。仲間達からは了解のメッセージが来た。それを確認すると、他のクラスメート達もわらわらと集まってサバイバルゲーム同好会の話に花を咲かせているのに気づいた。やがて、彼らのクラスの視力検査の時間を告げる放送が流れた。飛鳥は生徒達を検査室へと誘導する。



 ☆



 本日の身体測定はすべて終了した。身長、体重、座高、視力、聴力を計り終え、そして内科検診を受けた生徒達は帰宅する、塾に行く、部活動を行うなどと様々な者がいる。そして、浩輝アルファは校舎の某所でスマートフォンを弄る。



 アルファ:作戦開始まで十秒前。

 ベータ: 五。

 ガンマ:四。

 デルタ:三。

 イプシロン:二。

 ジータ:一。

 アルファ:作戦開始。

 


 その書き込みと同時に、日本の各地に恐慌が起きる。



 ☆



 白井翔真は朝の言葉通りサバイバルゲーム同好会の見学に来ていた。現在は顧問の飛鳥に、他のクラスメート達と共にエアガンの使い方を教わっていた。


「白井君、上手いわね。本当にエアガンは初めてなの?」

「おう、エアガンは初めてだぜ飛鳥ちゃん」

「飛鳥ちゃんって呼ばないの」


 遠く離れたターゲットに弾を当てながら、翔真は得意気に笑う。クラスメートの女子達は歓声を上げ、それに男子達は舌打ちをする。赤塚凪沙も舌打ちをしていた。


「オイオイ、凪沙ちゃん。そこは誉めてくれたって……スマン」


 不意に翔真のスマートフォンが音を鳴らす。電話を掛けてきた相手の名前を見た翔真はエアガンを置き、距離をとりながら電話に出る。


「もしもし、大和さんっすか?」

「おう、翔真。呼び出しだ。今からこっちに向かえ。一高の方に迎えの車を送ってるからそれに乗れ」


 電話の相手は倉島大和。福音軍に所属するエリートパイロットである。現在の階級は大尉。そして、彼から命令を出されたことは翔真も福音軍に所属する事を意味する。彼は校門を目指して走り出す。


「ちょっと、白井君?」


 突然走り出した翔真に、飛鳥は驚く。他の者達も同様だ。


「すみません、オレ帰ります!」


 それだけ叫んだ翔真はひたすら走る。


「悪ぃな」

「いえ、こっちがオレの本職っすから」

「そうか、じゃあ状況を報告する。十分前、札幌、仙台、東京、名古屋、大阪、広島、福岡の七都市に、ファントムを名乗る奴らが乗ってるロボットが同時に現れた。各都市二機ずつだ。奴らはそれぞれの場所で好き勝手に暴れてやがる」

「被害は?」


 翔真は真っ先に質問する。


「死人も怪我人も出てない。っつーより、出さないようにしてるっつー感じだ。何故だと思う?」

「はい、奴らの乗るウィルシオンは人の恐怖とか敵意みたいな負の感情をエネルギーに変えて動くからっす」

「その通りだ。だが、怖がってる人達を助けるのが俺達の仕事だ。翔真、お前は『ラファエル』で名古屋に向かえ」

「了解」


 その言葉を最後に通話が切れた。翔真はスマートフォンをポケットにしまい、全力で走る。すると校門近くに、見覚えのある顔を見付ける。黒月浩輝だ。彼も先ほどの翔真と同様にスマートフォンで通話をしていた。


「――――分かりました。来てくれるのですね――ああ、ルーシーも一緒にですか。――いや、連絡を取ろうとしたところで高橋さんから電話が来たのでまだ――いえ、大丈夫です。それでは」


 浩輝は通話を終える。話の内容は翔真には聞き取れなかった。彼は翔真を見付けると声をかける。


「白井。随分と慌てている様だな」


 翔真は少しでも早く基地に着くべく急いでいた。しかし、目の前に浩輝がいた以上話を聞くべきかと考えた。彼は浩輝を監視するためにこの学校へと送り込まれた。彼としては半信半疑だが、言い方を変えれば半分は疑っている訳である。


「ったく、翔真って呼べつっただろ。まあ問題ないぜ。何か用か?」

「いや、今SNSで話題になっているんだが、日本の主要都市にファントムが現れたらしい」

「マジかよ!?」


 取り合えず翔真は驚いて見せる。


  「ああ。それで、ファントムの目撃例が多いこの街にも奴らが来ないとも限らない。何処に行くつもりかは知らないが気を付けろよ」

「分かったぜ。そんで浩輝、お前はこんなトコで何をしてんのよ」

「人を待っている」

「お前いつもここで人を待ってんな」


 翔真は疑わしげな表情を向ける。一方で浩輝は無表情だ。


「俺にだって色々有る」

「そんじゃ、その『色々』とやらを聞かせてもらおう……か!」


 次の瞬間、翔真の拳が浩輝の鳩尾みぞおちに入る。


「がはっ……、な、にを……?」

「悪い、一応疑わしきは捕まえるってのが指令なんだ。罰するかどうかは別だがな」


 崩れ落ちるように倒れる浩輝に翔真は言い捨てる。浩輝は意識を失った。ちょうどその時、彼の横に一台の自動車が止まる。その後部の扉が開く。翔真は浩輝を担いで乗り込む。運転手の女は言う。


「白井少尉、そちらは黒月浩輝でしたね」

「はい、ちょうど周りに誰もいない状況だったので、ちょっと手荒になりましたけどね」

「そうですか、お疲れ様です。では、発進します」

「お願いしますよ、春川曹長」


 茶髪のウィッグと眼鏡を装着した春川瑠奈曹長――として福音軍に潜入している黒月遥は発車させる。愛する弟を殴って気絶させた翔真に内心で怒りを覚えつつも、無表情に自動車を運転するのだった。





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