会話
今回はチャットシーンがほとんどとなっていますが、誰が何を発言しているかはあまり考える必要は有りません。
アルファ=オリジナルの黒月浩輝 という事さえ頭に入れておけば充分です。
完全下校時刻から二十分が過ぎて、秀優から解放されたイプシロンはチャットルームに入り、報告を書き込んだ。ちなみに現在、高校に潜入しているメンバーは任務続行中のベータ以外のイプシロン、ガンマ、デルタには帰宅許可が出ている。赤塚凪沙については翌日改めて探る事になった。チャットルームには学校に潜入していない者も参加している。
アルファ:つまり、そのチャイナ服のお姉さんとイチャイチャしてたからチャットにも来れなかった、と。
ガンマ:人が苦労してる間にな。
イプシロン:違う! アルはどうしようも無かった!
デルタ:アル?
ガンマ:イチャイチャしてるうちに口癖も移っちゃったアルか?
イータ:これは大問題アルね。
デルタ:そうアルな。
イプシロン:うるさい、ただのタイプミスだ。 だからどうしようも無かったと言っているだろう。俺達のスペックは同等だ。つまり、俺に出来ない事はお前達にも出来ない。だが俺は黄秀優が何らかの組織に所属する確証を得た。お前らと違ってな。
アルファ:一理アル。
イプシロン:それとデルタ。サバゲー同好会に行ってたっていうお前に何かを言う資格は無いぞ。
デルタ:……。
ジータ:せやね。
アルファ:サバゲー同好会の顧問はウチの担任だったっけ。
デルタ:倉島飛鳥な。さっきも言った通り、サバゲーが趣味らしい。そのエアガンで狙ったものは何一つ外さない、百発百中のガンナーだ。
カイ:倉島……ガンナー……うっ、頭が……。
イータ:倉島大和か。そう言えばアイツには妹がいるとか言う話を聞いた。
ガンマ:正確には実際に聞いたのはアルファだけだけどな。まあ、俺にもその記憶は有るが。
ジータ:大和と飛鳥っていう名前がいかにも兄妹っぽいな。
アルファ:ヤマトはアスカに似ている。
シータ:守りたい世界とか有りそうだな。
イプシロン:つまり、倉島飛鳥=倉島大和の妹で確定?
アルファ:それも後で調べる可能性が有りそうだ。福音軍あたりに入っているかも知れないしな。
デルタ:それよりも黄秀優だ。黄、と聞くと福音軍中国支部代表の黄剛秀と、その息子で青龍を開発したという黄秀麗を思い出す。
ラムダ:じゃあ秀優も福音軍なのか?
ガンマ:だが、俺達はレーベで作られた。なのに秀優は俺達の事を知っていた。
クシー:レーベから秀優に情報が送られたのか、それとも剛秀がレーベの人間なのか。
アルファ:福音軍の実力者にレーベの人間がいるであろう事は予想していた。剛秀がレーベでもおかしくない。
イプシロン:秀優には探りを入れたいところだが、アイツは底が知れない。
クシー:そう言えば、ここのチャットってケーニヒも見てるんだっけ?
アルファ:見てるとは言われてないが、ここを提供したのはアイツだ。見ているだろう。
デルタ:ケーニヒだって一日中見てるわけじゃないだろ。つまり、アイツの部下も見てる。
カイ:黄秀優とか?
デルタ:かもな。
ニュー:ここの書き込みを見て「コイツ良いところついてるな」とか「的外れなこと言ってるな」とか言って笑っているんだろう。
イータ:もしかしたら、ここに書き込んでるかもしれない。
ミュー:勘が良いな。バレたのなら仕方無い。私はケーニヒだ。
デルタ:嘘だろ。
ミュー:まあな。
ベータ:白井翔真と青山色葉は駅についた。それぞれ別の電車に乗るようだが、指示を求める。
アルファ:ベータ、今日の所はこれで終わりで良い。イータ、ジータ。お前達はそれぞれ青山と白井を尾行しろ。シータ、お前はまだしばらく駅で待機。
イータ:了解。
ジータ:了解。
シータ:了解。
ベータ:了解。では、白井と青山の会話を報告する。大した話は無いと思えたがな。
ベータ:主な話題は明日の予定について、部活について、中学の頃について、担任の倉島飛鳥について、赤塚凪沙について、そして黒月浩輝についてだ。
ベータ:まずは明日の予定だが、身体測定が有るということで白井が青山にセクハラな発言をしていた。青山も満更では無い模様。他に特筆すべき事は無いと判断。
クシー:会って二日目の女子にセクハラして許されるとはな。さすがはサッカー部。
ニュー:それは関係無いだろう。
ベータ:次は部活についてだが、中学の頃についての話と繋がる。お前らも知る通り白井はサッカー部に所属する予定だが、白井はそこまで本気でサッカーをするつもりは無いらしい。あくまで気晴らしだそうだ。
イプシロン:さっきはモテるためとかなんとか言ってたらしいが、何らかの組織に入ってたとしたら本気で部活なんかやらないだろう。
アルファ:ああ。わざわざ部活に入ったのはカモフラージュか、それともサッカー部に接触すべき人物がいたのか……。
ベータ:次に、天文部に所属する予定の青山だ。彼女の方は本気で部活動に取り組むらしい。星を観るのが好きで、月に一度はプラネタリウムに行くそうだ。
パイ:表向きはプラネタリウムだが、その実体はレーベの研究施設……だったりするのだろうか。
シグマ:有り得るな。レーベは謎の多い組織。どこに何が有るか分かったものではない。俺達は表向きは病院になっている施設で造られたしな。
ベータ:青山は中学時代は部活をしていなかったそうだ。一方で白井は野球部だったらしい。坊主頭だと冬が寒かったと言っていた。
イオタ:その情報は要るのか? ……っていうのは禁句だったな。
アルファ:まあ、言葉の奥に何が隠されてるか分からないし、一応な。
クシー:青山は帰宅部か。謎が有りそうだな。
ベータ:それと、話は前後するが青山は学校を出る前、白井に「宇宙人を信じるか?」と質問をしていた。詳しい会話は後で報告するが、白井は「もしも宇宙人がいたとして、それが悪さをするのなら許さない」と言っていた。
ガンマ:つまり、白井翔真は福音軍で確定?
イオタ:いや、福音軍の在り方に疑問を持った俺達の知らない組織が有るのかも知れん。
ニュー:でも、そんな組織があったとしても裏にはリードかケーニヒがいそうだ。
ロー:いや、他にもヴァルハラ星人の奴が潜んでる可能性もある。
パイ:そんなもの、どうやって調べろと?
アルファ:その辺りは後で考えよう。ジータの報告を聞いてからな。
ニュー:そうだな。
ベータ:次の話題だ。白井が言うには、倉島飛鳥の兄は高校時代、不良としてこの辺りでは有名だったらしい。
イプシロン:結局、倉島飛鳥の兄は大和で良いのか?
ミュー:知るか。だが、もしもアイツが不良として恐れられていたのなら、ウィルシオンに乗っていたのも分かる。
シグマ:かつて不良と恐れられていたが、今となっては忘れ去られ、ウィルシオンパイロットとして終わったという所か。
デルタ:確かにそんな気もするが、思い込んではいけない。
シータ:そうだな。
ベータ:次は赤塚凪沙。ちょっと口が厳しいけど悪い奴ではなさそう、というのが白井の評価だ。
イプシロン:新たな友人二人とカフェやら服屋やらに行き、ガンマは近寄れず見失ったんだったな。
ガンマ:うるさい、お前らだったら行けたか?
イプシロン:無理だ。
ロー:無理だな。
ミュー:うん、無理。
アルファ:だってお前ら俺のクローンだし。
ガンマ:使えないオリジナルだな。
シグマ:どうせならまともな奴のクローンになりたかった。
カイ:全くだ。
ラムダ:このコミュニケーション障害者が。
アルファ:そこまで言う!?
パイ:それはともかく、赤塚は一番謎だな。
イオタ:だが、裏とは関係無さそうな雰囲気もある。決めつける訳では無いが。
アルファ:明日は赤塚に力を入れるか。
ガンマ:了解。
ベータ:最後に、黒月浩輝。俺達……というかアルファについてだ。白井がアルファをどう思うか青山に尋ね、同じ質問を青山は返した。
ベータ:青山の答えは「無愛想だけどいい人そう」。白井の答えは「何か抱えてそう」だ。
イオタ:青山の言葉が本音なら、人を見る目が無いな。
アルファ:言っておくがそれブーメランだからな。お前は俺なのだから。
ラムダ:白井は気付いているのか?
ロー:白井……さっきから怪しいな。まずはコイツから潰すべきか。
パイ:潰すって、どうやって?
ロー:まあ、策はある。
アルファ:恐らく俺も同じ方法を考えている。というかお前ら全員、そうなんじゃないか?
パイ:まあな。
ガンマ:まったく、本当に嫌な奴のクローンとして生まれたものだな。
ベータ:俺からの報告は以上だ。
アルファ:お疲れ様。ゆっくり休んでくれ。
デルタ:お疲れ。
ベータ:ああ。
アルファ:後はジータとイータの報告を待つのみだな。
イオタ:そろそろ俺の仕事も始まるか。
カイ:そうだな。
アルファ:頼む。
ロー:ああ。俺達はお前なのだからな、アルファ。
パイ:今回得た情報を元に色々と漁る。ハッカー歴一年の俺達に任せておけ。
ラムダ:ハッカーって言うとクラッカーだろと訂正してくる奴いるよな。実際にはハッカーでも間違っていないのだが。
シグマ:俺が……俺達がハッカーだ。
オミクロン:それじゃあ、俺は休憩ってことか。
ウプシロン:今日は疲れた。
アルファ:ご苦労だったな、オミクロン、ウプシロン。後はタウとカッパとプサイとファイか。
オミクロン:そいつらは寝てる。というか俺も寝る。報告は後で良いか?
アルファ:ああ。構わない。
ウプシロン:俺も学校潜入組になれば良かった。座りっぱなしは疲れる。
ガンマ:いや、潜入もなかなかキツいぞ。
イプシロン:ああ。何気にあの高校、曲者揃いだ。
ウプシロン:そうか。苦労の無い仕事なんて無いものだな。
ウプシロン:俺は結果だけ報告してから寝る。質問が有れば後で答える。
ベータ:了解。
その後も会話は延々と続く。それを見ていたケーニヒは呟く。
「いやあ、これは壮大な自問自答だな」
その傍らに立つ者は答える。
「ええ。彼らは実に鋭いですわね。少しばかり考えすぎている気もしますが」
「ハハハ、黒月浩輝は高校生になっても、心はまだ中学生ということだな」
「そうですね。これをネットでは『中二病』と言うそうです。その創造力は侮れませんわ」
「やはり、彼は面白い」
ケーニヒは画面を観ながら、楽しげに笑うのだった。
当初はチャットシーンは1000文字程度の予定でしたが、いつの間にか4000字を越えてしまっていました。
話が進まないので、今後は自重します。




