陰謀
翌日。朝早く基地に行った森崎修治は、篠原茂に呼び出された。
「すまないな。朝早くから」
「いえ、構いません」
篠原は頷く。そして声を潜めて言う。
「では、早速本題に入ろう。私は福音軍という組織に疑問を抱いている。今回の件以外にも、我々は不可解な命令を度々出してきた。我々も軍である以上、上からの命令には従わざるを得ない。だが、我々は思考停止の人形ではない。だからこそ私は、本部が何を考えているのか知る必要があると考える」
「私も同意見です」
修治の言葉に満足したように篠原は言う。
「そこで私は、本部に信用できる者数人を送って、彼らに本部を調査させる事にした。そして、その信用できる者の一人はお前だ。異論はあるか?」
「私の事を信用していただけるというのは光栄です。しかし、私が何かをすれば目立ってしまうのでは無いのかと。そもそも、本部に潜入など、かなり困難なように思えますが」
「そうだな。だから私は本部にいる白戸大佐に協力を求め、各支部の人間を集めて行う意見報告会を開いて貰う事にした」
白戸大佐こと白戸博は、篠原の高校時代からの親友であり、修治も彼とは面識がある。かなり正義感が強く、部下に厳しい男であり、修治もかつては彼に何度も怒鳴られた。今の自分があるのは白戸のおかげだと修治は思っている。
「確かに、白戸大佐なら問題無さそうですね。それで、私以外のメンバーは」
「それについては今からお前と相談して考えようと思っていた。手伝ってくれるな?」
「無論です」
修治は頭を下げる。そして彼ら二人の会議が始まった。
☆
一週間後、修治は厳選に厳選を重ねた四人の部下を連れてアメリカに向かう飛行機に乗っていた。その空の旅の途中、機体が突然大きな揺れに襲われた事には乗客の誰もが気づいた。
「なんだ!?」
部下の一人が驚きの声を上げる。彼以外の機内の多くの乗客も突然の事態に恐慌状態に陥っていた。その後、乗客の一人は発見した。機体の前の部分が炎上している事を。自分の死期を悟った乗客たちはただ、泣き叫んでいた。そんな中、修治は混乱しながらも考える。
(何が起きている……!? この衝撃はファントムか……、それともレーべとやらがやったのか? それともただの事故か? しかし、このタイミングで? 目的は? もしも敵がいたとして、それは他の乗客も巻き込む理由があるのか? そうだ、ファントムの兵器は嫌われれば嫌われるほど力を発揮するという……。大規模な事件を起こして、世界の恐怖の象徴となって、更なる力を手に入れる……、だが、何故!?)
修治の思考は支離滅裂だった。彼の心中には愛する家族、そして戦友たちの顔が浮かんだ。
(クソッ、俺はこんな所で終わるのか? 霧雨のパイロットとして戦死するんじゃなくて、こんな無抵抗の状態で……!)
「ああああああああああああああああああああああああああ!!」
修治もまた、あまりの恐怖と悔しさに我を失っていた。彼らの乗る飛行機は墜落する。そして、この空には生物的なデザインの黒い一機のロボット、ディアロスだけが佇んでいた。そのコクピットで、ケーニヒは笑う。
「フフッ。さて、この事件は今後、どのような影響を与えるのかな?」
この事件はやがて、世界中の人々に衝撃を与えた。




