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夢幻菌機ウィルシオン  作者: 八房 冥
4章 騒乱の休息
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潜入

 銀海島の地下に潜入したイズミ達一行は、その空間の広大さに驚く。ちなみに地下は通信が不可能である。だからこそ隊長は慎重に、全員ひとまとまりになって行動することを命じたのだが、問題児、関滄波は一人で勝手に走って行ってしまった。イズミはそれを追いかけようとしたが、その場合、イズミや滄波に霧雨は追いつくことが出来ないため、取り敢えず滄波の事は放っておいて、イズミは3機の霧雨と共に行動することになった。


「まったく、自分勝手な奴だな」

「まあ、邪魔をしないならそれで良いだろう」


 愚痴を言うイズミを隊長がなだめる。イズミは納得することにした。周囲に気を配りながら、計4機のロボットは進んで行く。滄波が進んだ逆の方向をだ。通路は薄暗く、不気味な印象を彼らは受けた。しばらくすると、彼らから見て右側に、人間サイズの扉があった。


「隊長、どうしましょうか」


 霧雨の男パイロットが問う。


「そうだな。我々は四人いる。三人がこの中を調べ、一人はここで機体に乗ったまま待機だ」

「なら、アタシが残るよ。こん中ではアタシが最強だからな」


 イズミが自信満々に言う。隊長はそれに苛つきを覚えない事も無かったが、彼女の言うことは事実だったので、それを認める。隊長と男パイロットと女パイロットの三人は機体を下りる。無論、それなりの武装をしてだ。


「では、行くぞ」

「了解」


 隊長の言葉に、二人は頷いた。彼らは更に、警戒を強めながら進む。それを見送ったイズミは呟く。


「あーは言ったものの、ただ待ってるだけっつーのはつまんねーな。通信さえ使えれば良かったんだけど」


 不満は言いつつも、やるべき事はキチンとこなすのが、イズミ・ドレイパーという人間である。彼女は注意深く、周囲を警戒する。すると、彼女達が元々向かっていた方向に、巨大な人影が現れる。先程戦ったレオンであった。その数、一機。


「暇潰しに付き合ってくれんのか?」


 イズミは呟き、霧雨の方に近づいて行く。そして宣言する。


「どうせまた自爆すんだったら、遠慮なく殺すぞ」


 その言葉に、敵のレオンは両手を上げる。イズミが怪訝な顔をすると、敵は声を出す。


「おっと、私はあなたと戦う気は有りませんよ。少し、お話がしたいだけです」


 いかにも嫌みな感じの男の声に、イズミは不快感を覚えながら彼の話を聞くことにした。


 ☆



 独断で愛機を走らせた滄波。彼の機体は、かつてゲファレナーと戦った『青龍チンロン』に飛行機能を付け足した他に多少の改良を加えた『飛青龍フェイチンロン』である。


「前よりも思い通りに動く感じがする。あのカマ野郎にも、後で礼を言わねーとな」


 黄秀麗の厳つい顔を思い出しながら、滄波は小さく笑う。そしてそんな自分に違和感を覚える。


「俺も丸くなったか?」


 滄波は苦笑する。数か月前とは言え、かつて他人の事など気にかけた事が無かった彼がそんな言葉を発した事に少し驚く。だが、そんなものはどうでもいいと結論する。飛青龍はただ走る。飛行機能をこの狭い通路では操るのは困難であるため、それは使用しない。


「にしても、退屈な場所だ。ただのっぺりした壁があるだけじゃねーか」

「なら、ちょっと付き合って貰おうか」


 滄波の目の前に、一機のレオンが現れた。そこからは野太い声が出る。


「死ね」


 滄波は呟き、飛青龍は手にしていた青龍偃月刀『冷艶鋸ランイェンジュ』を両手で振り上げ、前に飛び込むとともに得物を振り下ろす。


「おいおい、せっかちな奴だな」


 レオンのパイロットは苦笑しながら、飛青龍の攻撃をひらりとかわす。だが滄波は止まらない。敵に近づき、容赦なく武器を振り上げる。レオンはそれを持っていた剣で受け止める。滄波は鍔迫り合いを続けるつもりは無い。飛青龍は武器を放棄し、敵機に足をかける。敵機は前に倒れる。滄波は武器を拾い、無言でとどめをさす。コクピットの部分を躊躇なく破壊した。


「なんだよ。暇潰しにもなんねぇじゃねぇか」


 つまらなそうに滄波は言う。


「フッ、やはりこの機体では勝てないか。スペックが圧倒的に違う」


 その声はコクピットを破壊したハズの機体から聞こえた。


「無人機か?」

「それは難しい質問だな。俺が人間と言えないのなら無人機だし、俺が人間ならば有人機と言えるかもしれない」

「……?」


 敵パイロットの言葉に、滄波は怪訝に思う。


「深く考えることは無い。それはともかく、お前は知りたくないか? 俺達の事について」

「お前達ファントムが何だろうと、俺には関係無い。俺は、俺が最強であることを世界に示すだけだ」


 滄波は本心から興味の無さそうに言う。そんな彼の態度に、無惨な姿となったハズのレオンからは笑い声が発せられる。


「ハハ、ハハハハハハハハ!」

「何がおかしい」

「ハハハ……ああ、いや、決してお前の野望を笑っている訳ではない。俺達はファントムではなくレーベだ。まあ、知らないのも無理は無いが」


 レーベ。滄波には聞き覚えの無い名前だった。どうせ目の前の相手は大したことは無い。滄波はそう判断し、暇潰しがてら話を続ける。


「まあ良い。お前達は何者だ?」

「そうだな。強いて言えば、観察だ」

「観察?」

「ああ、我々のボスは二つ、いや、二人の観察対象に興味を持っていてな。それを観察するのが、今の我々の活動、というか楽しみだ」


 そう言われても、滄波はピンと来ない。


「それで、てめえらの観察対象ってのは何だ?」

「一つは福音軍の森崎百合花少尉。セラフィオン零型・ウリエルのパイロットだな。もう一つはファントムのゲファレナー。お前もよく知っているだろう」

「ゲファレナー……」


 予想外に出てきたその言葉に、滄波は歯を食い縛る。彼がゲファレナーから受けた屈辱は絶対に忘れない。


「お前が無様にやられてたところも観察してた。あれはつまらない戦いだったな。あまりにもあっさり終わってしまってガッカリした」

「黙れ!」


 滄波は飛青龍に青龍偃月刀を構えさせ、レオンに振り下ろす。レオンは完全に破壊され、機体は倒れる。しかし声は止まらない。


「おーっと、短気な奴だな。そんなんだからお前はボスのお気に入りになれないんだよ」

「そんなもの、こっちから願い下げだ!」

「そいつは残念だ」


 レオンの残骸からの声はからからと笑う。滄波は不愉快に思いつつも、その場にとどまる。逃げたと思われるのが癪だったからだ。


「で、お前はわざわざそんなことを俺に言う為だけに、ここに来たのか?」

「そうだな。良い暇潰しになっただろう」

「なら俺は帰る」

「まあ待て。せっかく来たのにこんな格下の機体一機としか戦えなくてフラストレーションがたまってるんじゃ無いのか?」


 滄波は怪訝に思う。


「何が言いたい?」

「ウチの研究者が新型ってヤツを開発したんだが、ソイツはその性能テストをしたいらしい。付き合って貰えるか?」


 滄波はふと、何かが近づいて来るのを感じる。そこにいたのは、白い虎を思わせるようなロボットだった。


「白虎か。何の当て付けだ?」


 青龍のパイロットである滄波は呆れたように言う。


「偶然だ。さあ、戦ってみたいと思わないか?」


 滄波は敵の姿をまじまじと見る。その気迫はかなりの物だった。


「ブッ壊しても良いんだったら、遠慮なくやらせて貰うぜ」

「ほう、言うな。やれるものならやってみろ」


 青龍と白虎は激突する。



 ☆



 滄波が聞いたものと似たような話を聞いていたイズミは、突然聞こえた大きな音に思わず振り返る。


「ほう、始まった様ですね」

「何が始まったんだよ」

「あなたのお仲間と我々の新型の戦闘です。観ますか?」

「良いよ。興味ねーし」

「確かにあなたはそうでしょうね。なら、話を続けましょう」


 イズミは敵パイロットの見透かす様な話し方に苛立ちを覚えつつも、それをこらえて話を聞く。


「これまでファントムと福音軍は何度か戦ってきました。そして、その全てにおいてファントムが勝利して来ました。観察してる側として、これはあまり面白くないのです。そこで我々は、福音軍に力をお貸ししようと思ったのです」

「本ッ当にムカつくヤツらだな、テメエらは。そんで、テメエら

 はアタシ達に何をしてくれるっつーんだ?」

「まあ、それはあなたのお仲間がその内見付けるかと思います」

「ああ?」


 イズミは怪訝な声を上げた。



 ☆



 小さな通路。ここには一人の女が立っていた。彼女の足元には、二人の男が倒れ、血溜まりが出来ていた。一人は既に息を引き取っている。


「クッ……どういうつもりだ……少尉!」

「あら、まだ生きてましたか」


 女は生きていた男――今回の作戦で隊長を務めていた男だ――を力強く踏みつけ、ヘルメットを奪う。


「うぐっ」

「本当はもっといたぶっても良いんだけどね、私としては色々と調べたい事が有るのよね。それにあなた達は邪魔なのよ」


 そう言い捨て、少尉と呼ばれた女は手にしていた拳銃の引き金を引く。銃弾は隊長の脳を吹き飛ばす。


「取り合えず、敵に襲撃されたって言えば何とかなるわよね?」


 念のため、もう一人の男のヘルメットも外し、脳を撃つ。拳銃をしまうと、女は笑みを浮かべる。彼女はファントム副司令であり、福音軍の影の実力者でもある高橋翠だった。


「さあ、ここからが本番よ」

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