襲撃
走る自動車の中で、黒月浩輝は考える。
(このタイミングで来た事については後で説明されるだろうし、どうでも良い。問題はあのバケモノ共だ。8年前に現れて以降、一回も発見されてないアイツらが何で今更出て来た? どうせ来るなら、俺が自衛隊に入るまで待ってて欲しがった。今来られたって俺には殺せないじゃないか。禁忌獣、父さんと母さんの仇……。必ず俺が殺す……)
一方、日元奏太も今の状況について考えていた。
(この人、まさか本当にファントムなのかな? そして仲間であるこの女の人が近くに隠れてた。そして、禁忌獣が現れたから僕を助けた。でも、そうすると……)
奏太は隣の浩輝を一瞥する。彼はブツブツと「殺す……殺す……」と呟き続けている。目付きも鋭く、奏太はそれを見て怖がりながらも思考を続ける。
(この人達は、禁忌獣がいつ、どこに来るのかを知ってた事になる。……いやいや、考えすぎだ。隣の先輩は偶然近くを通りかかっただけで、この女の人は……)
奏太は運転席にいる女性、福士玲に目を向ける。茶色いロングヘアーを持つ彼女は顔も美人で、そして何より胸が大きい。
(この人はそこらへんの中学生を次々と誘拐してる、せ、性犯罪者だ! そしてこれから僕はこの人に…………)
彼の鼻からは赤い液体が出る。彼は鞄からポケットティッシュを取りだし、鼻に詰める。
福士玲はバックミラーで後部座席の様子を見て思う。
(一人はなんかブツブツ言ってるし、もう一人は鼻血出しながらニヤニヤしてる。二人とも、十分に『アレ』を使う資格があるわね)
彼女がしばらく運転を続けていると、目的地にたどり着く。彼女は停車し、車内から出る。
「じゃあ、ついてきて」
☆
禁忌獣らしき巨大生物が発見されたという報告を受けて、自衛隊は五体の、対禁忌獣用人型兵器『霧雨』を出撃させていた。その機体の色は銀色で、その見た目は武士のような雰囲気がある。高さは20メートル程で、マシンガンや刀を装備している。そのコクピットの中で一人のパイロットの男が言う。
「まさか、日本に禁忌獣が来るとはねぇ……。まあ、この『霧雨』の敵じゃ無いッスよ」
「気を緩めるな、佐藤。敵は先行した戦車と戦闘機を全滅させている。ナメてかかるなよ」
「分かってるッスよ。ただ、こうでも言ってないとやってやれないッス……」
佐藤と呼ばれた男をたしなめたのは、この作戦において隊長を務めている森崎修治である。彼は自衛隊の中で最も『霧雨』を上手く動かせる人物である。また、面倒見の良い性格であるため、部下からの信頼も厚い。
「そろそろ目的地に着くぞ。全員、気を引き締めてかかれ!」
「了解!」
森崎の合図に、他の四人が声を揃えて応じる。やがて彼らは目的地にたどり着く。
「なんだあの数は!?」
『霧雨』のパイロットの一人が叫ぶ。彼らの視線の先には50体以上の巨大な黒いトカゲ、禁忌獣がいた。彼らは一様に、ゆっくりと同じ方角を向いて歩いている。森崎は四人の部下に命令を出す。
「敵が近づく前に片付けるぞ。撃ちまくれ!」
「了解」
五機の『霧雨』は各の装備しているマシンガンを構えて、連射させる。
「いっけえええええ!」
「くたばれえええええ!」
パイロット達は叫ぶ。弾丸によって発生した爆煙が禁忌獣達を包む。すると、爆煙の中から、黒いエネルギーの塊の様なものが次々と飛び出して来て、五機の『霧雨』に命中する。
「くっ……」
森崎は呻き声を上げながら、倒れた機体を起き上がらせる。仲間達も同じ様に機体を起き上がらせている。しかし、一機だけまったく動かない。森崎は通信する。
「おい、佐藤! 無事か?」
しかし、返事はない。
「佐藤、応答しろ! 佐藤!!」
森崎は尚も呼び掛ける。彼の部下達も同じ様に通信をするが、相変わらず返事はない。森崎は内心で考える。
(通信がブッ壊れただけなのか、それとも……)
「クッソオオオオ!!」
パイロットの一人が激昂し、マシンガンを棄て、刀を構えて禁忌獣の元へと突進する。
「早まるな、鈴木!」
森崎は制止の声を上げるが、鈴木と呼ばれたパイロットは止まらない。鈴木機を禁忌獣達は一斉に攻撃し、鈴木機は爆発する。
「鈴木ぃぃぃぃ!」
「待て山本! お前もやられたいのか」
パイロットの一人、山本は叫び、禁忌獣に接近しようとする。しかしそれを森崎が制止する。
「隊長、しかし……」
「一度退いてから体制を整えるぞ。佐藤機の回収を頼む」
「……了解」
三機の『霧雨』は撤退する。しかし、禁忌獣は絶えず攻撃を続ける。
「うわあああああ!」
パイロットの一人である渡辺の機体に攻撃が直撃し、渡辺機は爆発する。
「クソッ」
森崎は毒づき、佐藤機を連れた山本機と共にその場を離れる。ある程度走り、禁忌獣から離れた事を確認し、『霧雨』を停止させる。
「ここまで離れればしばらくは大丈夫だろう。佐藤は無事か?」
「待ってください」
山本はそう言うと『霧雨』のコクピットから出て、佐藤機のハッチを開ける。山本は佐藤機のコクピットに入る。
「し、心臓は動いています!」
山本の報告を聞いて森崎は安堵する。しかし、そうしてばかりもいられない。
「こちらは二人がやられ、一人が戦闘不納で、戦えるのは俺達だけだ。このままだと勝てる見込みは無い」
「……」
「だが、一つ気になった事がある」
「何ですか?」
山本は怪訝に思う。
「敵は気を失った佐藤を全く狙わなかった。妙じゃないか?」
「いや、当たり前じゃないですか? 機体が動かなかったのを見て死んだと思ったんだから攻撃する必要は無いでしょう」
「そうだな。だが、次にアイツらは敵に突っ込んで行った鈴木を集中的に攻撃した」
「それはそうでしょう。」
「だが、奴らが次に狙ったのは渡辺だ。あいつは俺達の中で一番早く逃げていた。つまり、一番禁忌獣からは離れていた。おかしいと思わないか?」
「……」
森崎の言葉を聞いて山本は考える。森崎は続ける。
「つまり、俺の予想が正しければ、禁忌獣は『恐怖』、もしくは『敵意』に反応し、攻撃をする。だから、気を失った佐藤は狙われなかった」
「そんな……、こっちが何を考えているかなんて分かるわけ無いでしょう!?」
「これはあくまで仮説だ。正しいか間違ってるかなんて分からない。だが、『そういう可能性もある』という事は頭に入れておけ」
「でも、敵意や恐怖に反応するとして、どうやって戦えば良いんですか!」
山本は思わず声を荒げる。すると、何かが近づく音を聞く。森崎は毒づく。
「クソッ、もう追い付いて来やがったか」
約50体の禁忌獣の姿がそこにあった。