表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢幻菌機ウィルシオン  作者: 八房 冥
3章 運命の子
34/75

混沌

「きゃああああああああ!」


 予想外の出来事に百合花は悲鳴を上げる。禁忌獣の攻撃はウリエルにも直撃したが大したダメージではない。


「デタラメ言いやがって、この宇宙人が!」


 福音軍の兵士の一人が言う。それに同調するように他の兵士も次々とセントを罵倒する。


「違う! 今のは敵が……」

「お前の事も信用なんかできねえよ。元ファントムが。いや、今もか?」


 セントを倉島は擁護する。しかし彼らは罵るのをやめない。やがて禁忌獣に恐れをなした兵士達に、禁忌獣の攻撃が飛ぶ。『霧雨』は次々と大破し、場は地獄絵図となる。


「うわあああああああああああ!」

「クソ、俺達は騙されてたのか……?」

「宇宙人、倉島、全部お前たちのせいだ!」


 怒りの矛先を禁忌獣ではなくセントや倉島に向ける兵士達。彼らは禁忌獣の攻撃に襲われていない。もしも彼らが冷静ならば、セント達の話を信じた可能性も有るが、無意味な仮定である。


「やめて! やめてよ!」


 百合花はただ叫ぶ。しかし、禁忌獣は身体の機能上、自分に悪意を向ける存在に自動で攻撃をしてしまうという習性がある。そんな百合花を無視して、奏太はザガンの砲身を禁忌獣に向ける。


「お前たちも、僕の敵だあああああああああああああああああ!」


 ザガンは砲弾を発射する。そして、一発目の砲弾が目標にたどり着く前に次の砲弾をリロードし、発射する。倉島は砲身を逸らそうと考えたが、逸らしても被害が出ない方向が見当たらず、断念する。その代わり、百合花に通信を送る。


「百合花ちゃん! ボーっとしてないで敵のロボットをとめろ!」

「は、はい」


 百合花は答える。その瞬間、ザガンの砲弾は目標に禁忌獣に到達し、五体の禁忌獣を蹴散らす。


「僕は、生きる……生きるんだよおおおおおおおおおお!」


 奏太は叫ぶ。ザガンは禁忌獣を目指して走る。初速は遅いものの、加速度はかなりのもので、ウリエルにも止められない。ザガンの巨体による風圧によってセント機は転倒する。


「ううっ!」

「セント君!?」

「僕よりも敵を!」


 百合花はセントを心配するが、怒鳴られる。彼女は言われた通りザガンを追うが、相手はかなりのスピードである。ウリエルには追いつけない。しかし必死に追いつこうとしながら、禁忌獣に呼びかける。


(あなた達がここにいても悲しみが増えるだけ! お願いだから帰ってよ!)


 しかし禁忌獣はこの場にいるほとんどの人間の悪意に反応している。百合花の声は届かない。そうしている間にザガンは禁忌獣に近づいている。その過程で何体もの『霧雨』を轢いている。無論、パイロットは絶命した。


「生きるために戦う! 僕の強さをお父さんに認めさせる!」


 ザガンはただがむしゃらに動き回りながらハンマーを振り回す。『霧雨』のパイロットは逃げようとするが、ザガンの巨体が引き起こす嵐のような風圧によって転倒する。奏太は禁忌獣を次々と撲殺して行く。


「どうだ! 僕は強いんだああああああああああああああ!」


 溢れかえった骸を見ながら奏太は咆哮する。



 ☆



「これはひどい」


 クロセルのコクピットの中で奏太の戦闘の様子を観ていた浩輝は呟いた。彼は今、ゴエティアの屋上にいる。一度前田を通じて高橋から『ある物』を受け取り、その後またクロセルに搭乗したのだ。彼が北海道で会った禁忌獣はクロセルの反応をもとにこの常空市に向かっている。それ故に、クロセルを常に起動させていないと禁忌獣は来ることが出来ないのだ。なお、その禁忌獣達は日本列島の太平洋側を沿うようにではなく、やや膨らむように移動していて、そのコースは浩輝が指定している。


(そういえば、もう8時か)


 本日は平日であり、本来ならば浩輝も中学校に登校している時間である。しかし、本日は学校は休みだという情報が前田によって伝えられた。浩輝は遥に連絡しようと思ったが、前田から「高橋がなんとかしたから連絡する必要は無い」と言われたのでやめた。浩輝としては遥が無事なのか、どこにいるのかが心配なのだが、それを口にしても連絡はさせて貰えなかった。一方、彼海は、母親の職場が臨時休業になったという可能性に思い至り、ゴエティアの自室で言い訳について考えている。浩輝は退屈そうに前田に通信を送る。


「こちらクロセル。出撃の許可を求めます」

「拒否するわ。今は日元に任せなさい」

「ですが、彼のせいで街はメチャクチャです。僕たちは一応悪のテロリストという事になってますが、拠点としている街が機能しなくなったら困ります。福音軍も役立たずの様ですし、ここは僕が」

「あなたはただ、禁忌獣を奴隷にしたいだけでしょう? あの悪趣味な機能で」

「今日はもうアレは使いたくないですよ。こっちの精神も大変なことになってしまいそうです。しかもさっきは禁忌獣に使った後、敵の新型に使用しました。正直、キツいです」

「でも同時に、戦わずして屈服させるという行為に快感を得ている。そうでしょう?」

「ふふっ、そうですね」

「とにかく、あなたはしばらく待機してなさい。というか、ただ起動して待機しているのなら基地の中でもできるでしょう? 中に入ってたらどう?」


 前田の言葉に、浩輝は笑う。


「ふふ、ふふふふふふふふ……」

「何よ。気持ち悪い」

「いえ、やはりどうしても自分の中にたぎる何かを抑えられなくてですね……。戦いたくて仕方ないんですよ」

「何痛い事言ってるの? 待機していなさい」

「ウィルシオン五号機・クロセル、黒月浩輝、出撃します」


 前田の制止を無視して、浩輝は本能の赴くままにクロセルを発進させる。


「今すぐ戻りなさい! これは高橋からの命令よ!」


 前田は焦って叫ぶ。しかし浩輝は聞く耳を持たない。呆れる彼女の背後に高橋が現れ、言う。


「良いじゃない。出撃を許可した事にしておくわ」

「……元々あなたが出撃を禁じていたんですよね?」

「ええ。一応ね。でも、彼は止まらないのは分かっていたわ。だって、手を伸ばせば届くところに宿敵がいるんですもの。むしろ、今までここにいたのを賞賛しても良いくらいよ」

「ではどうして……」

「そうね……」


 高橋は一度言葉を区切る。そして、黒い笑みを浮かべて再び口を開く。


「ただの気まぐれ、とでも言っておこうかしら」



 ☆



「やめて、私達は分かり合える!」


 目の前で繰り広げられる惨状に、百合花は叫ぶ。その対象はザガンか、それとも禁忌獣か。彼女の叫びも虚しく、ザガンは次々と禁忌獣を殺す。禁忌獣はそれに反撃するも、ザガンには全く効かない。


「ハハハハハハハ! 強い、僕は強いんだあああああああ!」


 奏太は今、とても楽しい気分だった。何をやっても上手く行かない自分が、強大な化け物を圧倒している。戦うことに悩んでいたのが馬鹿らしく感じた。すると突然、半分ほどに数を減らした禁忌獣達の様子が変わった事に気付く。まるで石にでもなったかのように、禁忌獣ほ動かない。


「いやあああああああ!」


 ウリエルの百合花も突然悲鳴をあげた。何が起きているか分からず、奏太はただ、頭に疑問符を浮かべる。


「どうしたの、森崎少尉!」

「百合花ちゃん、何があった!?」

「少尉、どうした?」


 セント、倉島、修治の三人が口々に言う。しかし百合花はそれに答えない。ただ、絶叫している。


「フフフ、フハハハハハハ!」


 ふと、その場に突然高笑いが響く。セントは上を見上げると、そこには以前戦った黒い天使――ゲファレナー――がいた。


(君も来たのか、浩輝)


 セントは一度戦った際に、浩輝の内心を見ている。彼が禁忌獣に親を殺され、禁忌獣を憎んでいる事を知っている。


「ご機嫌よう、福音軍の諸君」


 浩輝のその言葉と共に、クロセルは静かに舞い降りる。


「貴様……何をしに来た! 一体何をした!?」


 修治は叫ぶ。浩輝は煽るように言う。


「さあ、私は何も? ところで、どうします? 私を倒してみますか?」

「バカにしやがって!」


 修治が操る『霧雨』は刀を構え、クロセルに斬りかかる。


「フフッ」


 クロセルは微動だにしない。すると一体の禁忌獣が猛スピードで走り、クロセルと修治機の間に入り、クロセルを守るように立つ。


「何!?」

「驚いて頂けましたか。実は私、禁忌獣とは友達になったんです。私がピンチになれば、彼らは助けてくれます」


 浩輝は笑いながら言う。しかし、クロセルの前に立っている禁忌獣は震えていた。彼らが友達だとは、修治には思えなかった。


「テメエ、何したか知らねえが……」

「おや、よろしいのですか?」


 倉島はクロセルにライフルを向ける。しかし、別の禁忌獣が現れ、クロセルを庇う。倉島は舌打ちをする。


(相変わらずきキツいなこれは。今すぐにでも吐きそうだ。それはともかく、何か物凄い気配を感じる。ここにいる禁忌獣共とは違う、強大な何かが来る……)


 浩輝は何か、異様な気配を感じていた。しかし、その正体は見当も付かない。もとい、見当も付かなかった。


(まさか……)


 とある可能性が思い浮かんだ浩輝は、怒りの感情を覚える。その瞬間、禁忌獣達はビクリと震えた。


(さあ来いゴミクズ。お前に地獄を見せてやる)


 一方奏太は、突然現れた浩輝のクロセルに戸惑っていた。楽しい気分を壊されて、彼は不快だった。


「何で来た! 僕の邪魔をするのか!」


 浩輝はやれやれと息を吐く。そして、奏太に通信を送る。


「ザガン、俺の事はクロセルと呼べ。決して名前を言うな。俺もお前をザガンと呼ぶ」

「うるさい! 童貞のクセに僕に指図するな!」

「ぐっ」


 浩輝は言葉が詰まる。取り合えず浩輝は何も知らないという体で会話を続ける。


「お前は違うとでも言うのか?」

「ああ、最高でしたよ。知ってます? いつも余裕な高橋さんもベッドの上では甘えん坊なんですよ」


 浩輝は取り合えずゴエティアに通信を送る。今回も前田が応答した。


「聞いてました? 今の言葉」

「ええ。寒気がするわ。殺して欲しいくらい」

「そうですか。殺しはしませんがちょっとお灸を据えるとします。良いですか?」

「もしアンタが勝ったら、結果的に殺すことになるわ」

「それもそうですね」

「それよりも、実はそっちに禁忌獣の増援が近付いてるそうなの。アンタが呼んだのとは別のがね」

「これは想定内ですか?」

「想定外だそうよ。情報源ソースは高橋」

「それは信用出来ませんね」

「浩輝君、聞いてるわよ」


 突然高橋が割り込む。浩輝は思わず通信を切る。


「あらー、まだ恐いのかしら私の事。ふふっ」

「あなたはどう思っているんです? 彼の事」

「そうね、やっぱり初めてだけあってあんまり上手じゃ無かったわね。あなたも彼としてみる?」

「そっちではありません! 黒月の方です」


 前田朱里26歳処女は頬を染める。


「そうね、取り合えずは許しているわ。ただ、もし次があったら……」

「まあ、彼もそんな事はしないでしょう」

「だと良いんだけどね」


 高橋は不敵に笑った。



 ☆



「それで、どうしたんですか? 急に黙って」

「いや、何でもない。とにかく、お前の出番は終わりだ。帰れ」

「嫌ですよ。僕は今、最高に楽しいんです。僕は戦うために生まれてきた。僕から生きる意味を奪わないで下さい」


 奏太が言うのと同時に、ザガンはクロセル目掛けてハンマーを降り下ろした。


「これで大義名分が出来たな。調子に乗ってるバカにお灸を据える為のな」


 浩輝は呟くと同時に、クロセルの手には『幻想の氷刃イマジナリー・アルマス』が現れた。クロセルはザガンの攻撃を回避し、そのまま斬りかかる。ザガンの腹部の表面に、うっすらと線が描かれる。


「僕に傷をつけたのはあなたが初めてですよ」

「これを直に食らって無事なのはお前が初めてだ」


 クロセルとザガンは激突する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ