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夢幻菌機ウィルシオン  作者: 八房 冥
1章 復讐の始まり
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日常

  9月某日の朝。黒月浩輝はいつものように起床し、いつものように姉が作り置きしていた朝食を食べ、いつものように中学校に登校していた。去年まで浩輝は祖父の家で姉の黒月遥くろつきはるかと共に住んでいたのたが、去年遥が高校を卒業して就職したため、現在は安いアパートに二人で暮らしている。祖父と祖母は「ずっとうちにいて良いんだよ」と言って引き止めたのだが、遥は「いつまでもおじいちゃんとおばあちゃんに甘えてる訳にはいかないから」と言って浩輝を連れて祖父の家を出た。浩輝は遥の負担になるのでは無いのかと思い祖父の家に残ると言ったのだが、遥は強引に浩輝を連れ出した。なお、遥と二人で暮らすようになってからも浩輝は中学校を転校していない。


(まったく、毎日行かなくちゃいけないなんてめんどくさいな……)


 浩輝は内心で愚痴を言いながら校舎内に入り、靴を上履きに履き替えようとする。すると上履きには数個の画鋲が入っているのを見つけた。


(やれやれ、今日もか……)


 彼はあらかじめ用意してあったプラスチックの透明なケースに画鋲を入れる。


(そろそろケースも二つ目が必要か)


 そのような事を内心で呟きながら、浩輝は自分が所属する2年2組の教室を目指す。

 浩輝は教室に入り、自分の席に向かう。その途中で、友人同士で談笑をしていたクラスメートの女子生徒に体がぶつかる。


「チッ」


 女子生徒は嫌悪感も露に浩輝を睨み付けて舌打ちし、彼に触れた部分を一度手で触り、それを壁に擦り付け、「あーあ、パツキンのイケメン王子様が転校して来ないかなー」「えー、ちょっとワルめの肉食系男子の方が良くね?」といった会話を再開する。それを横目に見ながら特に何も思わずに浩輝は席につく。すると、彼の席の近くにいた二人の男子生徒の会話が耳に届く。


「そういやさ、この前の連続殺人事件ってファントムのメンバーの一員が犯人って聞いたんだけどマジなの?」

「俺もその噂聞いたけど、違う気がする」

「じゃあ、昨日痴漢で捕まった奴はファントム?」

「それは無いだろ……。ファントムはそんな安っぽい奴らじゃない」

「さてはお前、信者だな?」


 彼らの話題となっている『ファントム』とは、最近世界中を騒がしている集団である。彼らはテロリストを名乗り、世界中で様々な犯罪行為をしていて、そのメンバーは数百人とも数千人とも言われている。彼らについてはミステリアスな部分も多く、それ故に一部――主に男子中高生――の間ではカルト的な人気がある。浩輝は彼らの話を聞きながら内心で「くだらない……」とだけ呟く。


 しばらく経つと担任教師が教室に入り、出席を取り始める。それが終わると担任は教室を出て行き、入れ違いになるように数学を担当する教師が入る。そして、学級委員の森崎百合花の号令によって一時限目の授業が始まる。



 ☆



 この日の授業は全て終了し、部活動に参加していない浩輝はすぐに帰宅する。彼はとある目的の為、入学した当初は陸上部に入って体を鍛えようと思っていたのだが、体験入部の際に、部員が不良生徒ばかりなのを確認したため、部活動には参加せずに独自のトレーニングをしている。独自と言っても特に珍しい事はしていない。アパートに帰ったら制服からジャージに着替え、家の近くでランニングをして、もう一度アパートに戻り、腹筋や腕立て伏せをするのが彼の日課である。なお、あまり成果は出ていないのか、彼の体は男子中学生としても華奢である。ランニングをしながら彼は考える。


(俺は『霧雨(キリサメ)』に乗る……。乗らなくちゃいけないんだ…………)


 未知の巨大生物『禁忌獣』に対する戦力として米軍によって巨大人型兵器『レオン』が完成した。それが日本の自衛隊に贈られ、それに日本なりのアレンジを加えたのが『霧雨』である。『霧雨』に乗る資格が有るのは自衛隊に所属する者だけである。また、現在『霧雨』は日本に5機しか存在しないため、乗ることが出来るのは自衛隊の中でも腕の良い者のみである。もし日本に禁忌獣が襲来した場合は『霧雨』が中心となって戦う事になる。場合によっては外国に行って禁忌獣と戦う可能性がある。


「ハァ、ハァ……」


(そろそろ少し休憩するか……)


 内心で呟くと、彼は目の前にあったコンビニエンスストアに入る。そしてスポーツドリンクを手にとってレジに運ぶ。


「今日も頑張ってるのね。お疲れ様!」

「……どうも」


 レジに担当している若い女性に声をかけられた浩輝はボソボソと答える。彼女の名前は福士玲ふくしれい。一年程前からこのコンビニエンスストアでアルバイトをしている。たびたびこの店を利用する浩輝とは顔馴染みである。なお、浩輝は彼女の名前と顔を知っているだけであり、浩輝も自分の名前を言ったことは無い。彼女は問う。


「それにしても、何で毎日毎日そんなに頑張ってるの? 部活にも入らずに」

「……別に目的が有る訳じゃありませんよ。僕には部活という物が性にあってないから部活には入らない。でも、「ただ家でゴロゴロしてるんだったら外でも走ってたら?」って姉に言われたので取り敢えず走ってるんです」


 嘘である。浩輝は自分の意思で体を鍛えている。その目的は姉の遥を含め、誰にも話していない。それを聞いた福士は訝しむ。


「そうなの? 私にはあなたが何かに追われている様に見えるけど」

「……」


 浩輝は沈黙する。ふと彼女はスマートフォンの様なものを浩輝に向ける。スマートフォンは音をならす。


「仕事中に写真なんか撮って大丈夫なんですか?」

「問題ないわ。それより、中学生ならやっばり部活に入って青春しないと」

「……別に良いじゃないですか」

「友達とかいないの?」

「……」


 福士の問いに答えずに、浩輝は店を出る。福士は「ありがとうございました!」とマニュアル通りの挨拶をする。そして呟く。


「彼、黒月浩輝君は……使えるかしら?」


 浩輝は彼女に名乗った事はない。しかし彼女は彼の名を知っていた。そして彼女はスマートフォンらしき物の画面に一度目を向けてから、改めて呟く。


「そろそろ、引きこもりのあの子達も来る頃かしらね」

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