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夢幻菌機ウィルシオン  作者: 八房 冥
3章 運命の子
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信頼

「そろそろ良いな。さて、春川曹長」

「はい」


(もしかしてバレてる?)


 修治は辺りに誰もいない所に遥を連れていき、言った。本名を隠して福音軍に所属している遥は内心では冷や汗をかいていた。


「娘は、百合花は可愛いだろう?」

「はっ、いえ、そうですね」


 予想外の言葉に遥は動揺する。修治は続ける。


「今回の作戦で、また死者が出るかも知れない。それはセントかもしれないし、倉島かもしれないし、俺の可能性もある」

「それは、そうですね」


 突然話題が飛んで遥は戸惑う。


「もしそうなったら、百合花はかなり落ち込むだろう。いや、百合花だけが落ち込む訳ではない。だがアイツは、自分が守れなかったと、自分を責め、傷付く」

「……」


 その様子は遥にも容易に想像できた。


「春川曹長、その時は娘を励まして欲しい。曹長もその時は心に傷を負っているかも知れない。だが、何があっても百合花の味方であって欲しい。頼む」


 修治は部下相手に頭を下げ、真摯に頼む。それを見て遥は言う。


「中佐、頭をお上げ下さい。私は何があっても森崎少尉の味方です。ですが、少尉を励ますのは父親であるあなたがするべきです。中佐、あなたには少尉の為に何があっても帰ってくるという義務があります」

「……そうだな。すまない」


 修治は申し訳なさそうに頭を下げる。それを見ながら遥は思い出す。


(リードによると、こーくんは釧路に行くのよね。こんな寒い時期に北海道に行くなんて……。出来れば代わって上げたい。でも、こーくんが決めたことなら邪魔はしない。あー、だけどせめて私も釧路に行きたい……!)


 突然身悶えを始めた遥に、修治は驚く。


「な、何だ!?」

「いえ、やはり心配しない訳にもいかなくてつい……」


『出来る女』を演じている遥はすぐに態度を改める。


「そうだな、やはり心配か」

「ええ」


 遥は浩輝を心配しているのだが、修治は百合花を心配しているのだと受け取った。


(こーくん、大丈夫かしら?)


 遥はただ、弟の事だけを心配し続ける。



 ☆



 秘密結社ファントムの基地、ゴエティア。ここの食堂で浩輝は夕食をとっていた。彼の隣では奏太が同じように食事をしていた。ちなみに彼海は自宅で、母親が作っておいた夕食を食べている。浩輝達は特に話す事も無く、ただ黙々と食べていた。しかし、奏太は沈黙に耐えきれなく、浩輝に話しかける。


「あの、黒月さん」

「……何だ?」


 浩輝は無愛想に応じる。


「えっと、藤宮彼海さんってどんな人なんですか?」

「どんな人?」

「あ、えっと、どうしてあの人はファントムに入ってウィルシオンに乗るんですか? コンビニでは、黒月さんに紹介されたって言ってましたが」


 少し緊張しながら質問する奏太に、浩輝は口を開く。


「お前、あの時高橋のコンビニにいたのか」

「は、はい」

「そうか。まあそれは良いとして、ルーシーは元々ファントム、そしてゲファレナー――つまり俺の信者だったんだ」

「信者……ですか」

「元々ウィルシオンのパイロット候補を探すように言われてた俺は、丁度良いと思い、ルーシーを勧誘した。そしてルーシーは『ウィルシオン四号機・ハルファス』に乗った」

「そう、なんですか」

「そしてアイツは初めての戦闘で、人を殺した」

「……!」


 衝撃の言葉に奏太は息を呑む。


「自分を倒すために現れた福音軍の姿を見て、無我夢中で攻撃したらしい。その後、自分のした事について、かなり後悔している」

「そんな……それなら何でウィルシオンに乗り続けるんですか!?」


 奏太は思わず大声で聞く。


「アイツはハルファスに乗ってで戦う内に、その強さに惹かれていった。そして、ハルファスの全力を受け止める存在を見付けた。ルーシーが戦う理由。それは快楽だ。全力で相手とぶつかり合う。その感覚を求めてハルファスに乗っている」

「快楽のため……」

「だが、アイツは言った。俺の友達として、俺の隣で戦いたいと」

「……友達」


 奏太は思わず呟く。彼には友達というものが存在したという記憶が無い。浩輝は改めて聞く。


「ところで日元。お前はウィルシオンに乗りたいか? ウィルシオンに乗れば危険な敵と戦う事になる。世界を敵に回すことになる。人を殺す事になるかも知れない」

「でも、乗らないと僕は殺されちゃうかも知れないんでしょう?」

「だが、乗れば殺されないとも限らない。ウィルシオンのパイロットとして充分な結果を出せなければ、処分される可能性もある」

「そんな……、なら僕にどうすれば!」

「ウィルシオンで充分な結果を出せば良い。お前が乗る機体は『ウィルシオン三号機・ザガン』。防御に優れた機体だがキャノンとハンマーを装備していて、パワーもかなりのものらしい。お前はそれで禁忌獣と、福音軍を倒す。そうすればお前の父親はお前を大切に扱うだろう」

「お父さん……」


 奏太は父親の顔を思い出す。尊敬していた父親の本性。それを知った奏太は絶望するしか無かった。


「お前がウィルシオンに乗るかどうか。それはお前が決めることだ。俺が口出しする物ではない。お前はどうしたい?」

「僕は……」


 浩輝に問われ、奏太は呆然と呟く。


「さっきはまだ時間があると言ったが、時間なんてすぐに無くなる。お前自身で答えを出すんだな」


 そう言い捨て、浩輝は食器を指定の場所に持っていき、食堂を出る。それに目を向ける事無く、奏太はただ悩んでいた。


(僕は、何をすれば良いんだ……)



 ☆



 食堂を出た浩輝は、与えられている自室に向かう。すると、同じく自室に向かっていた彼海に出会う。彼らの部屋は隣同士である。


「……浩輝君」

「ルーシー、戻ってきたのか」


 小さく笑って呟く彼海に浩輝は応じる。


「……うん。お母さんは仕事に行ったから、高橋さんに送って貰った」

「ふーん。それでその高橋さんは?」

「……さあ、どっか行った」


 浩輝の問いに彼海は肩をすくめて答える。


「そうか」

「……日元奏太はどうするの?」

「さっき話したが、まだ迷っているらしい。心配か?」

「……うん」

「今はまだ食堂にいるはずだ。話してみるか?」

「……私には何も言えることは無いから、遠慮する」

「まあ、無理にすることでも無いしな」


 浩輝は自室に入り、彼海を案内する。ただ立ったまま話すのもどうかと思ったからである。


「まあ上がってくれ。大したものも無いが」

「……お邪魔します。ところで浩輝君は北海道に行くんだよね?」


 浩輝は椅子を彼海に薦め、自分も椅子に座り、答える。


「まあな。こんな寒い時期に北海道に行かされるとか悪意を感じるな。ルーシーはサンフランシスコだったな」

「……うん。海外に行くのは初めて」

「バリバリ違法入国だけどな。今更言うことでも無いかも知れんが」


 彼らはファントムとして、既に法に触れる行為を色々としている。


「……私は福音軍本部、浩輝君は中国支部の新型と戦う。恐らく、ウィルシオン並みのポテンシャルがある機体と」

「どんなパイロットが乗ってるのか、どんな機能を持つ機体か、高橋さんも霧山さんも知らないらしい。それが本当かは知らないが」

「……浩輝君、私達は勝てるかな?」


 彼海は呟く。その顔は不安げだった。浩輝はそれに凛とした表情で答える。


「勝てるさ。俺にはやるべき事がある。そしてお前は俺が選んだんだ」

「……そうだね。私は信者として、神に良いところを見せる」

「ならば俺も見せるとしよう。神の戦いを」


 浩輝と彼海がしばらく会話を続けていると、部屋の扉が乱暴に開けられる。


「おう、シスコン。部屋に女連れ込んでナニするつもりだ?」


 扉を開けるなりそう言ったのは橋本誠治だ。彼の後ろには他にもファントムのスタッフが数名いた。


「ナニもしませんし、僕はシスコンではありません。皆さん揃ってどうしたんですか?」

「いや、ちょっとお前に見せたいのが有るんだが……」


 浩輝の問いに橋本は答えるが、彼海を見て困ったような顔になる。


「ルーシーが見たら困る物ですか?」

「いや、よく考えたら別にいいか。レズ、お前も見ろ」

「……私はレズじゃありません。たまたま好きになったのが女の子だっただけです」

「どーでも良い。とりあえず見ろ」


 抗議する彼海を橋本は無視して、持ってきていたノートパソコンのコンセントを挿し、起動する。やがて画面に出た映像を観て、浩輝は思わず目を伏せた。そこには…………。



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