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夢幻菌機ウィルシオン  作者: 八房 冥
0章 プロローグ
2/75

過去

「うわ、黒月菌タッチ!」


  とある小学校、昼休みの教室。黒月浩輝くろつきこうきの右肩に己の右肩が当たった少女が言った。少女は自分の右肩を右手で触れて、友人の少女の頭に触れる。友人に頭を触られた女子の方は「キャーやめてよ!」と言って別の友人に同じような事をする。やがてその流れは他の児童へと広がって行く。


  彼女達のそんな様子を見て浩輝は内心で「またか……」と呟く。浩輝がしばらく眺めていると、『黒月菌』はとある少女の元へと移った。


「えっと……」


  彼女の名前は森崎百合花もりさきゆりか。百合花は突然『黒月菌』が自分の元に来たことに戸惑う。彼女は浩輝をウィルス扱いする事に抵抗がある。しかし、友人達に「百合花、早く誰かに移さないと!感染しちゃうよ」と言われ、仕方無く他の友人に『黒月菌』を移す。その後で彼女は言う。


「やっぱりこういうの良くないよ」


  しかし友人の女子児童は悪びれた様子もなく「何でー?アイツキモいじゃん。なんかキンキジューみたいで」と、本気で気味悪そうに言う。


  彼女のいうキンキジュー――漢字では『禁忌獣』と書く――とは、5年ほど前に南太平洋のチオデ島という島で発見されたという未知の生物に付けられた名前だ。禁忌獣は、全長が約30メートル程と言われているが、100メートル程のものも発見されている巨大な生物である。トカゲの様な姿をしている事から爬虫類ではないかと言われている。


  しかし、禁忌獣の恐ろしい所はそこではない。


  禁忌獣は口からエネルギーの塊を吐き、その島にいた人間を全滅させた。その様子は、たまたま近くを通りかかった漁船によって撮影され、インターネット上に公開された、と言われている。当初は、それはデマであるという意見もたびたび見られたが、その後、チオデ島周辺で禁忌獣の姿は確認されている為、デマという声は少なくなっている。現在、国連では禁忌獣に対抗するための兵器の開発に力を入れている。


  禁忌獣の被害を直接受けた訳ではない日本に住んでいる小学生にとって禁忌獣とはどうでも良い存在であった。しかし、浩輝にとっては違う。彼の両親は仕事の都合でチオデ島にいた。そして彼らは禁忌獣の事件に巻き込まれて死亡した。現在浩輝は、五つ年上の姉と共に父方の祖父母の家で暮らしている。そんな浩輝にとって、簡単に『禁忌獣』という言葉を言うことが出来るクラスメートの女子児童という存在は憎悪の対象である。しかし彼は口喧嘩をするつもりは無いため、何も言わない。だから彼は心の中だけで言う。


(コイツらも家族が禁忌獣に殺されたら良いのに……)


 黒月浩輝は「自分と同じ思いを他の人には味わって欲しくない」という考えの人間ではない。彼がぼんやりと『黒月菌』の流れを見ていると、『黒月菌』は気の弱そうな少女に移った。そしてその少女は突然、大声を上げて泣き出した。まるで、本物の菌に感染したかの様に。そして、その菌が自分の体を侵食してくるのが見えるかの様に。


(どうやらコイツらには本当に『黒月菌』が見えるようだ。そんな、有るはずの無いものを、本気で信じている。まるで幻でも見ているかの様にな)


 少女の泣き声を聞いた担任教師が慌てて教室に入ってきた。


「いやぁぁぁぁ! 黒月が……、黒月がぁぁぁぁぁ!」


 少女の悲鳴に、教師は怒りを露にする。


「黒月! お前は何をしたんだ! 男の癖に女を泣かせるなんて最低だぞ!」


 誰も浩輝を守る物はいない。浩輝はこの教師の浅はかさに思わず笑いが込み上げて来るのを感じるが、必死にそれを抑える。


(コイツには何を言っても無駄だな。自分の中で勝手に結論を決め付けてる。その結論から逸れる事を言っても何一つ信じないだろう。……下らない人間だ)


 内心で見下しながら何も答えない浩輝の態度に、教師は声を荒げる。


「黙ってないで答えろ! お前は何をしたと聞いているんだ!」


 しかし、教師の説教を浩輝は聞いていない。彼の意識は、先程名前が出た禁忌獣に向いていた。そして彼は内心で呟く。


禁忌獣バケモノどもは俺が必ず、皆殺しにしてやる……)


  日本にも禁忌獣の脅威が迫るのはそれから三年後である。

 

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