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夢幻菌機ウィルシオン  作者: 八房 冥
2章 二人の少女
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決意

 青木孝は、校舎を出てからの黒月浩輝の行動を監視していた。


(それにしても、色々と気になることが有るな。百合花さんとの過去、藤宮彼海さんという人との一件、そしてセントとの意味深な会話)


 青木は浩輝が自宅のアパートに入っていったのを確認する。


(今日の監視は終わりかな。今回見たことについては橋本さんと前田さんにも報告しておこう。ただ、上にはまだ報告しない。本当に怪しいと決まった訳では無いからな)


 青木は一度、学校に向かって歩く。そこでふと、同じく監視に参加しているメンバーについて思い出す。


(二人とも、上手く行ってるかな……?)



 ☆



 時は少々遡る。日元奏太は学校の校門を出る。彼を、橋本誠治と前田朱里は追っていた。橋本は同僚に愚痴を言う。


「それにしても、わざと気付かれる様につっても、どうしたもんかね。あんまり目立つのはお断りだぜ」


 それに前田は答える。


「そうね、まあ最初はこっそりと、それから徐々に分かるようにしていけば良いんじゃない?」

「あー、めんどくせえ。あのガキいつかブッ殺す」

「ダメよ、あの子は霧山先生のお気に入りですもの

 」


 そんな会話をしながら、二人は奏太を見る。彼は鼻歌を歌いながら楽しそうに歩いていた。


「やっぱりこうコソコソする必要も無いんじゃね?今からアイツをブン殴ればアイツは俺達に簡単に気付くし、俺もスッキリする」

「それは目立ってしまうわ。でも、このままコソコソしてるよりは、直接接触した方が良さそうね」

「ああ? じゃあ話しかけるか?」

「そうしましょう」


 二人は足を速め奏太に近付く。橋本は口を開く。


「やあ、日元奏太君」


 日元は鼻歌を止め、ビクリとしてから振り向く。


「は、はい」

「俺は今日から常空中に赴任してきた橋本。こっちは前田。知ってるか?」


 奏太は今日、教師が数人学校に来たことは知っていた。しかし、その中でも顔を覚えているのは、自分のクラスの副担任で、浩輝に味方だと言われた青木だけである。だが、彼は次の様に答える。


「は、はい。もちろんです。よろしくお願いします」


 奏太が嘘を言っている事に気付きつつも、それは気にせずに前田は言う。


「よろしくねー。ところで日元君、あなたって日元電機の社長さんの息子よね?」

「そ、そうです」

「それで私達、あなたの家の事に興味が有るんだけど、行って良いかしら?」


 前田は怪しまれる様に言った。


「はい。良いですよ」


 しかし、奏太の答えは彼女の予想外の物だった。


(気付けよ! 叫びながらさっさと逃げろよ! どう考えても怪しいだろ!)


 前田は笑顔を保ったまま内心で叫ぶ。それを見た橋本がフォローする。


「でも、日元君。俺が言うのもアレなんだけどさ、俺達みたいな初対面の人を家に入れて大丈夫か?」


 すると、奏太は少し考えてから答える。


「うーん。でも先生ですし、別に問題は無いと思いますし……」


(バッカじゃねーの!? お前あのガキに「会社が怪しまれてるから監視に気を付けろ」って言われたんじゃねーの? バッカじゃねーの!?)


 橋本も前田同様、内心で叫ぶ。その後二人は小声で話す。


(どうする? コイツ想像以上のバカだぞ)

(そうね、もうハッキリ言った方が良いんじゃない? 私達はあなたを監視してるって)

(おいおいマジか? それって傍からしたら俺達相当マヌケじゃね?)

(仕方無いわよ。バカなんだから)


 突然コソコソと話し始めた二人に、流石の奏太も怪訝に思う。


「あの……、行かないんですか?」

「そうだな、さっさと行こう! 日元電機の秘密が隠れてる君の家に!」

「そうね、行きましょう! 日元電機とファントムの関係を探るために!」


 ヤケクソ気味に二人は叫ぶ。そんな二人を見て奏太は思い出す。昼休みの浩輝との会話を。


(そうか、この人達は黒月さんが言っていた監視の人か! どうしよう、逃げないと!)


 日元は走り出す。それを見て二人は安堵する。


「ふー、やっと気づいたか。あのガキ、次会ったら覚えてろ」

「そうね、本当に報酬は沢山貰うわよ」


 二人は一度学校に戻り、車に乗ってファントム基地、ゴエティアに帰還しようとする。すると、周りの様子が妙であることに気付く。


「まずいわ、さっきの会話、周りにも聞かれてたわよ」

「クソ、こんな任務二度と受けねーぞ」


 二人は走り、学校を目指す。しかし技術者である彼らは運動とは無縁の生活をしているため、捕まりかける。しかし、そこに一台の自動車が現れ、群衆を押し退け、彼らを乗せる。その自動車の運転手はファントムのスタッフだった。


「黒月からお前らを見張り、危なくなったら助けるように言われていた。危機一髪だったな」


 運転手の男はそう言って車を発進させる。橋本と前田はそろって舌打ちをした。



 ☆



「ハァ、ハァ……」


 奏太はしばらく走った後、後ろに誰も追ってくる人がいない事を確認し、歩く。


(それにしても、先生が信用出来ないだなんて。黒月さんもあてには出来ないみたいだし、青木先生はどこにいるか分からないし……)


 奏太が途方に暮れながら歩いていると、目の前にコンビニエンスストアを見付ける。


(すぐに家に帰ったら、また跡をつけられるかも知れないし、しばらくかくまって貰おう)


 奏太はコンビニエンスストアに入る。そこには見知った顔があった。


「あら、ここでは初めましてね。いらっしゃいませ、日元奏太君」


 秘密結社ファントムの副指令、高橋翠がそこにいた。奏太はすぐに店内を出ようとする。


「それはマナー違反よ、日元君。せっかくだからお話しましょ」


 にっこりと笑って高橋は言う。奏太は外に出るのを止めた。


「えっと、何か用ですか?」

「そうね、あなたも色々と知りたいことが有るんじゃない? 日元電機とファントムの関係とか」


 奏太は目を見開く。


「は、はい」

「じゃあ話すわ。まず、簡潔に言うと日元電機はファントムのスポンサー、つまり君のお父さんはファントムにお金を出してるの」

「そんな……」


 奏太は衝撃を受ける。彼にとって父親は尊敬の対象であり、テロリストに金を渡しているという事など考えられなかった。もしも浩輝がこれを聞いたら、高橋を疑うだろうが、奏太はこれを信じてしまう。


「あなたのお父さん、日元奏助はウチのリーダー、霧山隆介と大学時代の友人だった。そして、私と霧山博士が考えたファントムという組織のやり方を気に入ったあなたのお父さんはファントムを全面的に応援する事を決めた。日元社長は資金と『とある実験成果』を提供し、ファントムは日元電機に技術提供をする。そんな契約が交わされた」

「とある、実験成果?」


 奏太は思わず尋ねる。


「ええ。元々、日元電機はバイオテクノロジーの研究にも力を入れていた。そして、あなたも知る通りウィルシオンには、とある資格を持つ者にしか動かせない」

「確か、IVとか言う物質を沢山持っている人しか乗れないんでしたよね」

「そう、だから当初は、資格を持っている人を探して連れてくる事を考えた。しかし、資格者は中々いない上に、いきなり連れてこられてロボットに乗れと言われても、乗ってくれる人なんていなかった。黒月君という素晴らしい例外はいたけれどね」


 そこまで聞いて、自分が頭が良くない事を自覚している奏太でさえ、この後高橋が言おうとする事が予想できた。


「そこで我々は考えた。人がいないのなら、作ってしまえば良いと」

「やめて……ください…………」


 奏太は青い顔で言う。そんな彼に、高橋は笑顔で言う。


「冗談よ」

「えっ?」


 奏太は呆気に取られる。


「あなたは普通の人間よ」

「でも……」

「ゴメンね、ちょっとからかっただけよ。今日私があなたに言った事は全部冗談。気にしないでね」


「全部冗談って言われても……」

「何が真実で何が嘘か、あなたはそれを自分で考えるべきね。私が言った事、黒月君が言った事、あなたのお父さんが言った事、学校の先生が言った事……その内容を吟味するの」

「……」

「まあ、難しいわよね。でも、人の話を疑うクセはつけておいた方が良いわ」

「わかりました、頑張ってみます」


 奏太は頷き、高橋はそれを満足げに見る。すると、店のドアが開き、一人の少女が入る。


「いらっしゃいませー」


 高橋はマニュアル通りの挨拶をする。少女は高橋の制服のネームプレートの「福士玲」という字を見つける。その少女――藤宮彼海はやや迷いながら口を開く。


「……すみません、福士玲さん、ですよね?」

「ええ、そうよ」


 高橋はにっこりと笑って答える。


「……黒月浩輝という人からあなたの事を紹介されたのですが……」


 その言葉に、高橋は少し驚く。奏太も知り合いの名前に反応する。


「あら意外ね。そう、あの子が……」

「……はい、私は変わりたいんです。あなたに会えば私は変われる。そう彼に言われました」

「なるほどね……」


 高橋はそう呟いた後、笑みを妖しげなものに変えて言う。


「あなた、『ファントム』に興味ある?」

「!?」


 彼海は意外なキーワードに驚く。そして戸惑いながら呟く。


「ファントム……」

「世間的には、世界に仇なす悪のテロリストって事になってるあのファントムよ。そしてあなたを紹介した黒月君は世間から『ゲファレナー』なんて呼ばれているわ」

「それは嘘です」


 彼海は高橋の言葉を否定する。高橋は特に不快な表情も見せずにニヤリと笑う。


「どうしてそう思うの?」

「いくらなんでも話が旨すぎます。ファントムは崇高な組織です。私のようなゴミがそんな素晴らしい存在になれるだなんて有り得ない。しかも、あんな人がゲファレナー様なハズは無い。あなたも黒月も私をからかっている」


(なるほど、この子も良いIVを持っていそうね。この痛々しさはウィルシオンパイロットの証だわ。それにしても、黒月君はこの子に何を言ったのかしら?)


「ふぅ……、論より証拠ね。ついてきて。あなたに良いもの見せてあげる」


 高橋は告げる。そこに奏太が口をはさむ。


「ちょっと待ってください、店はどうするんですか?」

「あなたに任せるわ。安心して、バイト代は私の分から出すわ。……それで、あなたはどうする?」


 ちゃっかりと言い放った高橋は彼海に問う。


(この人を信用して良いのかは分からない。でも、私は変わりたい。例えファントムとは無関係だとしても、この人についていく事で私は変われる。何となく、そんな気がする)


 彼海は決意する。


「行きます」

「分かったわ。さっそく行きましょう」


 高橋は彼海を連れて店を出て、自動車でファントム基地・ゴエティアに向かう。


「ちょっとー、本当に行っちゃうんですかー!?」


 残された奏太は店番をやることになり、その後来たクラスメイト達に笑われる羽目になった。


 

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