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俺と奴らの華麗なる攻防戦 2

作者: 秋澤 えで

【鳴子村】第二弾書いちゃいました!

学校の帰りが遅くなり、真っ暗なあぜ道を一人歩いていると後ろから何かが歩いてくる足音がする。

別に後ろに人が歩いているのはそうおかしなことではない。


だが俺が速度を上げると奴も歩くスピードを上げる。


ひたひたひたひた…


ストーカー、か?


いや、自意識過剰も甚だしいか。ストーカーされるほどモテる訳でもないし、そんな面倒な女を相手にした覚えもない。


ヒュウっと追い風が背中を押す。それとともに鼻を掠める生臭い匂い。これは



「犬…?」



グルルルルルゥ…


背後から返答のようなうなり声が聞こえた。


横目で背後を確認すると金色の双眸と目があった。今か今かと、獲物をねらう目。



「送り狼、だな。…まためんどくせぇ。」



【送り狼…夜道を一人で歩いていると後ろから付いて来る妖獣。送り狼がいる間は他の妖怪から守ってくれる。逆に転んだり立ち竦むとたちまち相手を食い殺す。無事に家まで送られたら何か食べ物を与えなくてはならない。】



普段側にいる妖怪とは比べ物にならないほど凶暴で危険な妖怪。下手したら本当に喰われるだろう。


しかもどうにも分が悪い。昨日雨が降った所為であぜ道はぬかるんでいる。足を取られ転んだら一貫の終わり。背中に冷たい汗が流れる。



「畜生…」



こんなことなら授業サボって昼間のうちに帰るべきだった。


ひたひたと聞こえてくる足音に焦る。そのとき


ズルッ


「っ!!」



足を取られ前のめりになる。


しまった!


後ろからは荒い息が聞こえる。

このまま転べば食い殺される、一か八か…!



「うおりゃあっ!!」

『!?』



転んだ勢いを使ってそのまま勢い良く前転した。

どうだっ!と背後の気配を探る。戸惑っているらしくその場で足踏みしたり、うろうろしながら此方を見る。どうやら獲物が転んだのか否か、判断しかねているらしい。



「セーフ、だよな?」


取りあえず襲いかかってくる様子は無いため、歩き続ける。


勝った…!と小さくガッツポーズをした。




その後も何度か転びそうになったが毎度なんとか誤魔化し続け、家に着いた頃には制服は泥まみれだった。


『クゥーン』


送り狼が残念そうに鳴いているが、知ったことか。



「ただいま。」



引き戸を開け家に入る。…どうやら送り狼は玄関で待つつもりらしい。



また天井下がりが驚かしてきたが既に満身創痍なのでスルーしておいた。ショボーンという効果音が聞こえた気がしたが気のせいだろう。



さあ夕飯を作らなければならない。俺自身腹が減ってるし、送り狼にも何かを出してお帰り願わなければならない。


ただ勝手について来て相手をビビらせて挙げ句食べ物を集るとは…性根が腐りきっている。何より、制服のクリーニング代だって安くは無いのだ。何か嫌がらせの一つや二つしてやらねば気が済まない。


俺は庭の畑に目をやりニヤリと笑った。


「せっかくだ、旨いもん食わせてやろうじゃねぇか…」



畑で長ネギを二本取り、刻んで挽き肉と竹の子と和える。そして餃子の皮にくるみ、揚げ餃子、水餃子、焼き餃子にした。ネギを入れすぎたため皮の外からもうっすら緑が見える、が今回はこれぐらいが良いだろう。


焼き餃子3個を皿に乗せ送り狼のいる玄関へ向かった。




「待たせたな、おかわりあるから沢山食えよ?」

『?』



こんなことを言われたことのない送り狼は不思議そうに俺を見上げる。


餃子の乗った皿を地面に置くと、待っていたとばかりに飛び付く、が即刻飛び退いた。そして困ったように俺を見る。



「どうした、食わないのか?遠慮すんなよ。」



そう、犬科はネギが嫌いなのだ。しかもこの餃子にはネギがたっぷり入っている。犬ほどの嗅覚があるコイツにはきっと嫌というほどの匂いがするのだろう。


『キューン…』


他に何かないのかと言いたげにこちらを見つめる。


「他に食べ物はねぇぞ。」

『キューン…』


送り狼は小さく鳴くとトボトボと帰っていった。

ざまあみろ!


「さて、この餃子は…あれ?」


正直一度犬にくれてやるはずだった餃子を食べる気にもなれず、どうしたものかと餃子を見ると皿は空になっていた。おそらく家鳴りか何かが取っていったのだろう。普段ならつまみ食いをした低級妖怪をシバくが今回は助かったので不問にしておく。



居間に戻り三種の餃子を食べ始める。7割がネギなので鼻に青臭さが抜けるが、まあ悪くない。健全な男子高校生としてはもう少し肉が欲しいところだ。


しゃくしゃくしゃく…


餃子を食べるときに相応しくない音がするが、美味しいので良しとしよう。


「そろそろ畑を広げようか。」


誰に言うでもなく呟き、我が家の家庭菜園を見る。何の所為かは知らないがこの家の畑は季節による旬を知らない。真冬でもスイカができるし、真夏でも白菜ができるどこまでもフリーダムな畑だ。


俺のしゃくしゃくと餃子を食べる音に反応するように、きっとホタルではないモノが瞬いた。



菜園をこよなく愛す高校一年木下出雲の華麗なる日々の、とある夜。

お時間があれば評価お願いします!

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