もしホラーサスペンスを好物とする変態未確認生命体が純粋なロリを描いたら、
A puppet show
タグにもあるよう、この小説には家庭内暴行の描写が多々あります。そういったものが苦手な方には、閲覧をお勧めしません。
また、作者は全くの素人であるため意味不明な表現がある場合がございます。
長々と失礼しました。
それでも閲覧して下さる方、
ありがとうございます。
どうぞよろしくお願いします!!
少女は人形だった。
父親だけの人形。
少女にとって父親の命令は絶対的なルール、言わば法律だった。父親が「右を向け」と言うのなら少女は迷わず右を向き、「床を舐めろ」と言うのなら土下座した状態で舌を突き出した。
こんな少女に疑問を持つのは当然だろう。“何故抵抗しないのか”と。
それは良い。しかし、“意気地なしだから”などと彼女を非難するのは少々筋違いだろう。
少し前まで、少女は反抗していた。父親のくだす命令に背きたければ首を横に振り、間違っていると思えば大きな声で否定した。
少女は反論するとき、怒鳴られる覚悟くらい出来ていた。手を出される危険すらも省みなかったのだ。
しかしいつだって唯我独尊、傍若無人な父親。彼はそんな少女のことがお気に召さない。娘を自分の思い通りな――完全なる操り人形に仕立てようと、怒りの矛先を妻に向けた。言い換えれば、父親は妻を人質にとったのだ。
少女が失敗をしたり異議を唱えたりした時、父親は娘の代わりに妻に怒鳴り散らした。「アイツの出来が悪いのはお前のせいだ」「お前の血がアイツを出来損ないにした」という具合だ。何度も何度も罵倒し、蹴る殴るといった暴行を加えた。
母親は、娘の性でどんなに傷ついても決して笑顔を崩さなかった。娘が泣いているときは優しく抱きしめた。しかしその笑顔を見る度に、優しさに触れる度に、少女の罪悪感の塊は大きさを増していったのだ。
そしてその罪悪感が心の全てを占めた時、少女は人形と化した。
少女にとって、父親の人形になることは容易かった。父親の前に立つ時、心を空っぽにしたからだ。
しかし、失敗しないことは不可能。少女は人形は人形でも、木偶坊だった。
少女は、失敗をした。
23時頃の話だ。少女は父親に命じられ、コーヒーを淹れていた。
父親の愛用する、水色の網目模様のマグカップにコーヒーを注いでいく。ここまでは順調だった。問題はその後。
少女は転んでしまったのだ。
コーヒーを父親の部屋に運んでいる途中に。廊下のど真ん中に脱ぎ捨てられたスリッパに気づかなかった。
力強く床に叩きつけられたマグカップは派手な音を立てて砕けた。中の黒い液体が湯気を残したまま広がり、大きな水溜まりを作る。
不吉な音を聞きつけ、父親が部屋から出てきた。そこら中に散らばった白い破片達と水溜まり、それからうつ伏せになった少女の姿をしげしげと眺める。
それから水溜まりを避けながら少女の側まで来ると、少女の腕を引っ張り無理やり立ち上がらせた。ふらふらと不安定な少女の身体を頭のてっぺんからつま先まで舐めるように見つめる。そして、一寸の迷いも無く少女の青白い頬を張った。少女に踏みとどまる程の力は残っておらず、壁に体当たりをした後膝から崩れ落ちた。
父親はそんな娘を見下ろしながら怒鳴った。
「このドジがっ!!コーヒー1杯満足に持って来れねーのかよ、役立たずの豚がぁ!!いつまで座り込んで居るつもりだ!!!さっさと片付けろクズ!!」
少女を罵り蹴りを入れる。
「覚えてろよ」
不敵な笑みを浮かべ意味深げな台詞を放ち、それからリビングの方に向かっていった。
重たい身体を引きずり床を拭く少女の耳に、再び父親の罵声が届く。
ごめんなさい。
ごめんなさい、お母さん。
届くはずもない声で呪文のように呟く少女の赤い頬を、一筋の涙が伝った。
朝は来た。今は7時を過ぎた頃だ。
少女の真っ黒な目は据ったまま、何も映していなかった。頭は深刻な酸素不足を訴えている。少女はぼやけた意識のまま大きな欠伸すると、重い上体を起こした。
少女は寝不足だった。昨晩のあの事件後、すぐに布団に潜り込んだもののなかなか寝付けなかったのだ。目を瞑れば、父親の怪しげな笑みがくっきりとした輪郭をもって少女の脳裏に浮かび上がってくる。耳を塞いでも、最後に放たれた父親の言葉が少女をどこまでも追いかけてくる。一晩闘い続けた少女は、疲れと恐怖の入り混じったやるせない表情をしていた。
少女は陰鬱な気持ちを押し込めて立ち上がり、自分自身を奮い立たせるように1度堅く目を閉じた。
リビングに向かうと、少女はテーブルの上に黒い影を発見した。いつもはそこにない、イレギュラーな存在だ。不審を抱いた少女が目を細めて近寄ると、先程までシルエットでしかなかったそれは少しずつ色付いていく。
「ひぁっ、」
全貌が浮かび上がった時、少女の血の気がさっと引いた。口を抑える細い指の隙間からは悲鳴が漏れる。
テーブルの上には、少女のよく見知った日本人形があった。
丁度1尺ほどの、少女の腕の中にすっぽり収まる大きさのものだ。黒いロングヘアは、耳上程の高さで2つ結びにされ、前髪は眉が隠れる程度の長さで切りそろえてある。青蒼に染め上げられた着物は、髪とは対照的な白い肌を更に際立たせている。着物に散在する椿は、この人形の血気を吸い尽くしてしまったかのようだ。
これは、少女の母が娘をモデルにして作った人形だった。少女にとっては、自分の分身であり、“もう1人の自分”であった。
その日本人形がテーブルの上にあったこと、少女を驚怖させたのはそんなことではない。
少女の視線は、日本人形の真紅の帯――腹一点にそそぎ込まれていた。
そこには、白い破片が刺さっていたのだ。よく見ると、水色の線が描かれている。これまた、少女には幾分見覚えのあるものだ。
少女は帯から目を離すと、人形の下に一枚の紙が敷かれていることに気がついた。人形の太もも辺りからは赤い字が覗いている。どうやら赤いマジックペンで何かが書かれているようだ。
未だ興奮が治まらず息を切らしたまま、震える指で白い紙の角を引いた。カタカナが4文字ほど連なり、1つの言葉となり姿を現した。
少女の鼓動はさらに高鳴り、無意識にメッセージを読み上げた。
「ケ、イ、コ、ク」
見開かれた目は徐々に光を失い、少女はこの日本人形と酷似していた。
少女はその後普段通りに時を過ごしていったように見えた。
しかし晩御飯直前という時、少女の行動に変化かあった。
「ごはんできたわよ」
母の声に適当な返事をした少女は、読み途中の本をしおりも挟まずに閉じた。
そして机の奥の方から、1つの木箱を引っ張り出した。うっすらと埃を被った上蓋を外すと、3粒のタブレットがあった。少女は迷うことなく全て手のひらに乗せると、ポケットの中に滑り込ませた。
少女がリビングに急ぐと、食事は既に始まっていた。
食器と箸とがぶつかり合う音、これすらも煩く感じる程の静けさ。
バシャッ、カラカラッ――
突如破られた静寂に、そこに存在する全ての者の視線が少女の手元に注ぎ込まれた。
それらの視線の先では、味噌汁の池ができている。テーブルの縁から滴り落ち、少女の青いワンピースが円形に黒くなっている。空になったお椀は、横倒しになりひとりでに卓上をさまよっている。
少女が味噌汁を零した、この事実は一目瞭然だった。
バシッ、鋭い音と共に少女の手から箸が転げた。少女の父親が少女の右手を弾いたのだ。息を荒げ、鋭い眼で少女を見下ろすように立つ父親は獰猛な獣のようだ。少女は何の感情も読み取れない顔で、そんな父親の顔を凝視していた。
父親は無論、少女のことが気に食わない。怒鳴ることも放棄し、暴力のみに身を任せた。
思い切り少女の肩を押すと、椅子の前足が浮いた。少女の全体重が椅子の後方にかかり、少女は椅子ごとひっくり返った。
ドスンッ、という大きな重たげな音が響く。
「ぐえっ」
可愛らしい容姿には似つかわしくない、カエルのような潰れた声で少女は鳴いた。それでも少女の顔には苦悶の色1つ浮かんではいない。
少女に対する怒りも、彼の心に宿る獣の昂りも、もはや留まることを知らない。更なる獲物を求め、鋭い眼光を次なる標的に向けた。
少女の母親は既にテーブルから離れ、壁に身を預けていた。手で耳を覆い、頭を振り乱している。落ち窪んだ眼はコンパスでかかれた円のようにくっきりと見開かれており、もはや正気を保ってはいなかった。
父親はそんな少女の母親に容赦なく襲いかかった。彼女の上げた悲鳴は掠れていて、ヒューヒューという虚しいかざおとが唇から洩れただけだった。
妻を食らうように暴行を続ける父親の背中を見つめていた少女が床からゆっくりと立ち上がる。足音も立てず父親の席に近づいた少女はポケットに手を突っ込んだ。忍ばせていた3粒のタブレットを指先の感触で見つけ出し、ポケットから引っ張り出した。
少女は躊躇せず、それらを父親のワイングラスの中に落とした。
透き通るような淡紅色の葡萄酒に沈んだタブレットが、瞬時に細かい泡沫を吹き出した。
小さな気泡を纏ったまま徐々に小さくなっていき、やがてタブレットは完全に溶けきった。
葡萄酒は何事も無かったかのように、再び静閑を取り戻した。
少女もまた何食わぬ顔で、雑巾を持参すべくリビングを退出した。
「コーヒーはもう乾いたかしら」
去り際に呟いた少女の言葉は誰のためのものでもなく、野獣の唸りにかき消された。
少女が食卓に戻った時、既に惨劇は終わった後だった。
壁にもたれるように座り込む少女の母親は放心状態で、抜け殻のようだ。
少女はすばやく卓上に眼を向け、父親のワイングラスを見つける。先程の液体は1滴残らず消えていた。
しかし、それを見た少女の表情は相も変わらずのっぺりとしており、満足気な笑みが覗くことはない。
食器の片付けを終え、少女は母親を寝室に運んだ。薄く目を開けていたものの意識は無く、母親は殆ど無抵抗だった。
少女が時計を見ると、23時を回っていた。ここで歯を磨くのが少女の日常。しかし今日は違う。少女は1人、まだ石鹸の香りが残る台所に脚を向けた。
少女がリビングに戻ることは無かった。
階段を登った少女は、向かってすぐの扉をノックもせずに押し開けた。
むき出しの月が部屋全体を薄く照らし、少女を招き入れる。
少女の手に握られた包丁刀が、それに呼応するように鈍い光を放つ。
部屋の中心に敷かれた布団の上では、少女の父親が仰向けになって眠っていた。
布団の縁に立つ少女はそっと屈み込むと、ハの字に広げられた父親の両手を彼の胸の上に置いた。寝息さえ聞こえて居なければ、誰もが死んでいると信じて疑わなかっただろう。其れほどまでに彼は深い眠りについていた。
少女はそんな彼の両手に、包丁刀の柄の部分を握らせた。そして彼のその両手を包むように、自分の手を被せる。
少女は彼の身体と垂直になるように包丁刀を立てた。そして、自分の腹部が丁度包丁刀に当たるように父親に覆い被さる。
軽いとは言え少女の全体重がかかっている。包丁刀の鋭い刃が一瞬で肉に食い込んだ。
震える身体を父親から引き離した少女は酷い眠気に襲われた。まるで強い睡眠薬を3粒一気に飲み込んだような――いや、それよりもずっと強い眠気だ。起き上がることも抗うことも出来ず、少女は身体を横たえた。
真っ赤に濡れた指先を、少女は床に滑らせる。
少女は書かれた者を確認することなく、真っ暗闇に身を包んだ。
『――少女は父親の寝室で包丁を腹部に突き刺され、ほぼ即死だったと見られています。事件の翌朝、遺体の第一発見者である少女の母親が警察に通報しました。警視庁は、殺人容疑で少女の父親を逮捕しました。調べに対し父親は、容疑を認めているということです。なお床には“ケイコク”というカタカナ4文字が残されており、少女が死の直前に書いたものとし父親との関連性を調べています』
以上ニュースでした、というアナウンサーの声と同時に女はテレビの電源を切った。
涙を流す女の腕には、腹部に穴のあいた日本人形が抱えられていた。
少女の自殺が哀しき“復讐”劇だったのか、少女の死を意味する父親からのメッセージへの“服従”行動だったのか、もはや知る由もない。
何故なら少女は“殺された”のだから。
閲覧ありがとうございました。
作者の文章力不足とボキャブラリーの貧困さ故、皆様に混乱を招いてしまったかもしれません。申し訳ありませんでした。お手数ですが、指摘して下さるとありがたいです。
それから、不快に思われた方、本当にすいませんでした。
今後とも、こんなレベルの低い作者ではありますがどうぞよろしくお願いします。