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クローズドテスト  作者: hiko8813
1章
3/62

2話 ゲームスタート

《改めまして、ようこそ皆様。ソウルブラッドオンラインの世界へ》


 ほぼ予定時刻に始まったチュートリアルでは、ゲームの基本的な操作方法やプレイについての注意事項などが順に解説されていった。

 

 今のところ特に覚えておくべき点は三つ。


 まず一つ目は、食事と睡眠について。


 このゲームは現実の生活とほぼ同じように食事や睡眠が必要らしい。現実の体は冬眠しているのでおかしな話だが、健康状態を維持する為に必要な行為だという。食事はちゃんと三食とることを推奨された。

 

 ただし、排泄行為は必要ないらしい。面倒なだけなので嬉しいが大丈夫なんだろうか。

 


 次に、ゲームウインドウの開き方について。

 

 時々忘れてしまいそうになるがこれはゲームだ。ゲームを進行する上で便利な機能を利用する為には、ゲームウインドウを操作をする必要がある。

 

《指先を、宙にレ点を描くように動かしてみて下さい》


 言われるままに操作すると、軽やかな音と共にゲームウインドウが出現した。プレイヤーネームやステータス、現在時刻などが示されている。メニューそれぞれの操作方法は、全てヘルプが用意されているらしく省略された。



 最後に、アイテムの管理方法について。


 ゲーム上アイテムとして分類されている物は、手で触れると名前がアナウンスされる。その状態で【レシーブ】と発話すると、個人の【アイテムボックス】に収納できる。ただし、他人のアイテムなど所有権を持たないアイテムは【レシーブ】できない。万引き・窃盗対策はしてあるらしい。


 収納に重量の制限は無いが、アイテム毎に収納個数に制限がある。


 例えば基本的な回復アイテム【双葉草】は99個まで収納できる。99個収納した状態で【レシーブ】しても収納できないので、アイテム個数は把握しておく必要がある。


 【レシーブ】で収納したアイテムを取り出す方法は二つある。一つはゲームウインドウのアイテム一覧から選択する方法。もう一つは【テイク】と発話し、直後にアイテム名を言う方法だ。


《「広がっ【ていく】」のように、会話の中で意図しないままキーワードが入る場合がありますが、文脈や発音を判断材料として、アイテム利用の意思が認められない場合は有効となりません》


 ということらしい。手ぶらでいられるのは単純にありがたい。アイテムボックスの概念は、ゲームだから実現できる便利な機能の代表格だと思う。

 

 


 このようにしてチュートリアルは順調に進んでいく。各自に配布された資料はシンプルでわかりやすく、会場はまるで自由時間のようなリラックスした雰囲気になっていた。


 隣に座る彼女を除いて。


「……ふん」


 棘のある冷たい声が聞こえてくる。

 

 こっそり目を向けると、雪羽は明らかに運営の男を睨んでいた。透き通るような瞳には憎しみが浮かんでいるようにすら感じてしまう。

 

 どうしたんだろう。何か気に障ることでもあったのだろうか。

 

 気になるが、迫力が凄くて非常に声をかけづらい。まごまごしている間にもチュートリアルはどんどん進んでいく。

 

 そして、チュートリアルが終わる予定時刻に近づいた頃。


《さて、それでは最後に報酬の話をいたします》


「――ん?」


 資料に目を落としていた俺は、声が若干低くなった男へと視線を戻した。


「報酬?」


 思わず口から言葉が出る。


 報酬があるなんて聞いていない。このテストはあくまで無給で行うボランティアみたいなものの筈だ。会場までの交通費は既に貰っているし、一体何のことだろう。


 テーブルの上で浮いている男の顔は相変わらず笑みのまま。その笑みが意地悪いものを含んでいるように感じるのは気のせいだろうか。


《このゲームをクリアした方に賞金を差し上げます》


 男がもう一度口に出すと、この場の空気がはっきりと硬くなる。ちらりと見渡せば、今まで説明を聞き流していたプレイヤーまでもが男を注目している。

 

 それはそうだろう。テストプレイのクリアに賞金が用意されるなんて前代未聞だ。

 

 しかも、賞金額は決まっていない(・・・・・・・)という。

 

 このゲームの通貨は【ジュエル】というのだが、ゲームクリア時に所持していたジュエルをそのまま日本円の賞金とするらしい。

 

 1万ジュエル稼げば1万円。100万ジュエルなら100万円が貰えるのだ。

 

《ゲームクリアの条件は、タイムリミットになるまでに、悪竜【タナトス】を撃破してこの世界を平和に導くことです》


 タイムリミットはこのテスト期間が終わる時。つまりゲーム時間で168日目が終わる時だ。

 

 MMORPGにおいてこの期間が長いのか短いのか俺には判らないが、周りのプレイヤーの緊張感溢れる顔からすると短いのかもしれない。それとも如何にしてゲームをクリアするか沈思黙考しているのだろうか。


 説明が進むにつれて会場の緊張感が高まっていく。当初のどこかフワフワした雰囲気は完全に消えうせて、皆が運営の説明に聞き入っていた。

 



 いくつかの質疑応答を経て、パリッとしたスーツに身を包んだ男が笑顔になる。ゲームの世界観をまるで無視している彼は「質問はもうよろしいですか?」と確認すると、手にした銀色のアタッシュケースを広げて見せた。

 

《バーチャル空間では実感が沸かないかもしれませんが、賞金はこの通り用意しております。皆様存分にゲームをお楽しみ下さい》


 男はそう言うと「ご覧下さい」と空を指差す仕草をする。指し示す先には、俺が最初に見た大きな砂時計があった。


 砂時計がぐるんと回転する。細かい砂が重力に引っ張られてサラサラと落ちていく。


《この砂が尽きた時がタイムリミットです。皆様の幸運を願っておりますよ》


 その言葉を最後に男は姿を消した。

 

 そして、ゲームの開始が宣言された。



 * * *



 チュートリアル終了後、995人|(ゲーム開始直後に辞退した人がいるらしい)のプレイヤーは一斉に行動を始めていた。

 

 俺は様々なプレイヤーに手当たり次第に声をかけてみたが、

 

「MMORPG初心者? すまない、今回はガチなんだ」

「ごめんねー、正式オープンしたら遊ぼうね」

「初心者はその辺でザコと戯れてろよ」

「邪魔だ」


 などなど、様々なパターンでフられて完全に落ち込んでいた。


 ……まあ、そうだよな。高額賞金が懸かったゲームで誰が足手まといを仲間にしたがるかって話だ。


 何度も言うようだが俺はMMORPG初心者だ。こういうゲームのプレイ方法なんて解らない。だから経験者っぽいプレイヤーに教えてもらおうと声をかけてみたのだけれど、結果は散々だった。


「あの子は『知り合いを探してくるから待っていてくれないか』とか言ったまま帰ってこないし」


 思わず愚痴とため息が漏れてしまう。1時間ほど待ちぼうけを食らった後、彼女(ユキハ)に体よく逃げられたんだなと悟ったときは、ちょっと辛かった。




 思いっきり息を吸って、肺が空になるまで息を吐く。

 

 それを3回繰り返して頭を空っぽにした。




 ま、しょうがない。元々ノンビリとゲームを楽しむつもりだったのだ。

 

 この分だと単独でプレイするのは確定みたいだが、この世界にはプレイヤーだけではなくNPCも数多く登場している。アイスコーヒーを運んでくれたメイドさんを見る限り、彼らは自然な会話が成り立つくらいに人間ぽい。この168日間を彼らと遊ぶのも良いかもしれない。

 

「……あ、ちょっと泣けてきた」


 暗い気分を明るくしようとしたのにまたヘコみそうだ。

 

 こんな時はとりあえず行動するに限る。まずはこの町【イジーヌ】を歩き回ってみよう。

 

 右手の指で宙にレの字を描く。軽やかな音と共に現れた画面をタッチして地図を表示させた。

 

 地図によると、チュートリアルが行われたこの円形の広場は【中央広場】というらしい。中央広場は町の中心に位置しており、ここから東西と南北をつなぐメインストリートが十字に走っている。メインストリートはそれぞれ町の端にある門にまで繋がっていて、そこから外に出られるようになっている。

 

 メインストリート付近には、ゲームプレイに必要なアイテムや武器を売る店のほか、飲食店や宿泊施設も用意されていた。




 地図から目を離して町並みに目を向ける。イジーヌ内の建物はレンガを積み上げて造られていて壁にはガラス窓が並んでいるという、ヨーロッパのような雰囲気だ。


「道具屋は中央広場の近くなのか。どんな店なんだろ」


 体力を回復するアイテムを売っている道具屋は主要施設の一つだ。ゲームプレイする上で避けて通れない施設のはずなので、一度は見てみたい。ファンタジー映画で見るような怪しげな薬とかも置いてあるんだろうか。カエルとかに変身したら面白いかもしれない。自分がなるのはイヤだけど。


 地図を確認しながらキョロキョロと目を向ける。白壁と赤い屋根の建物はみんな外見がよく似ているので、どれがどの店なのかちょっと解りにくい。


「あ、見つけた……けど、入るのは後回しだな」


 3分ほど探して発見した道具屋は、とんでもなく殺伐としていた。


「ちょっと! 私が先に並んでたんだけど!」

「うるさい! 早い者勝ちだろうが!」

「おいジジイ、早くしろ! ボサボサしてるんじゃねえ!」

「つーかアイテム高えよ! もっと安くしろよ!」

「値切るような貧乏人はさっさと退きなさいよ!」

「あんだと!?」


 殺気を撒き散らしたプレイヤーが我先にとアイテムを求めている。こんな中に突っ込んでいったら問答無用で殺されそうだ。


 この分だと他の主要施設も似たようなものだろう。なので、メインストリートから一本奥へと入ってみることにした。




 裏道は幅3メートルほどの広さだった。建物の影になっていて少し薄暗いが、大通りとは違って落ち着いた雰囲気だ。道の片隅では人型NPCに混じってコリー犬っぽい生き物が寝そべっていて、目だけをこっちに向けている。石畳の道には小さな石が落ちていて、つま先で軽く蹴ってみると軽い音を立てて転がっていった。


「作りが丁寧だな……あれ、このドアも開くんだ」


 何気なく建物に触れてみて知ったのだが、どうやら地図に名称表示がない建物にも入れるらしい。

 

 時間はたっぷりある。面白そうだし、いろんな場所を探索してみよう。

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