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クローズドテスト  作者: hiko8813
2章
17/62

16話 露店

 今日のレッスンを終えて食事をしていると、珍しく運営からの通知メールが届いた。

 

《【露店開始のお知らせ】

 本日12:00に露店機能を実装いたしました。どなたでもご利用いただけますので、皆様ぜひ一度ご来場ください。利用可能時刻は12:00~18:00です。その他詳しい内容はNPCの店員が説明いたします》

 

 師匠が言っていた新しい施設とは、どうやら露店のことらしい。


 露店とは、所持しているアイテムを他のプレイヤーに売ったり、他プレイヤーが出品しているアイテムを買うことができる施設だ。


 プレイヤー同士でアイテムをトレードする機能は既に実装されているが、トレードする相手を探すことは中々手間のかかる作業だ。その点、露店は売りたいアイテムを出品しておけば多くのプレイヤーの目に留まる上に販売の代行もしてくれる。


 以前、夏秋冬(ハルナ)にトレードと露店の違いについて聞いた時は「魚を自分で釣るか、網を仕掛けてじっと待つかの違いだよ」と説明してくれた。攻略を続けながら買い手を捜せるので、多くのプレイヤーが待ち望んでいた施設だろう。




 助言に従って足を向けてみると、昨日まではガランとしていた中央広場の南側に人だかりがしていた。

 

「定価の2割3割引きは当たり前! どれもお得ですよ!」

「ウチでしか手に入らないアイテムを多数揃えています! ぜひ一度お立ち寄りください!」


 元気のいい声があちこちから聞こえてくる。


 簡素な屋根がついた台車に商品を並べた店や、絨毯を広げてその上に商品を並べただけの店など、様々な形態の露店が並んでいる。各店にはちゃんと店員がついていて正にフリーマーケットのような光景だ。

 

 これら露店はNPCが経営しており、プレイヤーはNPCにアイテムを委託して販売してもらうという形をとる。手数料は販売価格の5%で、販売を依頼する為には【イジーヌ露店商協会】という施設での登録が必要だ。ただし、商品を買うだけなら手続きする必要はない。


「みんなどこで情報を知ったんだろ」


 運営からのメールを読んですぐ来たのに、露店には既に多くの商品が並んでいた。


 体力を200回復する【双葉草】や1000回復する【三葉草】の他、出品者が以前使っていたであろう武器やアクセサリ、携帯用食料や、何に使うかわからないアイテムまで。様々なアイテムが出品されている露店は見るだけでも楽しい。


 同じ店の同じ商品でも出品者が違えば値段が異なるので、買う際には注意が必要だ。それでも大半のアイテムが店売りの値段より安く出品されている。確認さえすればお得なシステムだろう。

 

 例えば双葉草は最安50ジュエルで出品されていた。道具屋だと100ジュエルなので、ちょうど半額で買える計算になる。


 道具屋の買い取り価格は販売価格の10%しかないため、売る側から見れば50ジュエルでも十分得になる。余っているアイテムは積極的に出品した方が良いのかもしれない。


 物は試しということで、俺も露店で買い物をしてみた。


「双葉草をひとつ下さい」

「はいどうも! 55ジュエルになります」


 50ジュエルで販売されていた双葉草は既に売れてしまっていたので、次に安かった55ジュエルのものを選ぶ。ゲームウインドウを開き、頭にターバンを巻いた露天商NPCに親指ほどの宝石を手渡した。


 このゲームでの金銭のやり取りは、貨幣ではなく宝石を使う。財布から取り出したい金額を指定すると、それだけの価値がある大きさの宝石が出現するので、そのまま相手に渡せばいいのだ。


 ちなみに、宝石を受け取った側は【レシーブ】と発話すれば自分の財布に金額が加算される。アイテムと同じなので覚えやすい。


「ありがとうございましたー! また宜しくお願いしまーす!」

「どうも……ん?」


 別の露店も見てみようと周囲を見渡していた俺は、不意に聞こえたソプラノボイスに意識を引っ張られた。




「聞こえなかったか? 双葉草。この店にあるだけ買う」


 全体的に細身の体に、白地に金色の刺繍が施された華やかな衣服。左腕のラウンドシールドと腰に刺さっている片手剣から察するに、おそらく【天使】系のプレイヤーだ。

 

「双葉草は1個60ジュエルから150ジュエルまでございますが」

「構わない。20個全部買う」


 興味を引かれて視線を向けてみると、その人物は素早くゲームメニューを操作して宝石を出現させ、突き出すように店員に渡した。そして自分で手を伸ばして双葉草を全て持っていく。

 

 やや焦っている様にも見えるその人は、後ろで見ていた俺に気づかないで思い切りぶつかってきた。

 

「っ、すまない。失礼した」

「いえ、こちらこそすみません」


 俯きがちな顔は男性にも女性にも見える。正解がどちらなのかは不明だが、そんなことよりも俺の目は左手にある【爪】に吸い寄せられていた。


「悪いが、先を急ぐので」

「あ、あの。ひとつ質問しても良いですか?」

「……何をだ」

「どうして150ジュエルの双葉草を買ったんですか? その価格なら道具屋で買ったほうが安いですよね?」

「ああ、そのことか」


 俺の質問に表情を柔らかくしたその人は「簡単なこと」と理由を説明してくれた。


「道具屋だと、双葉草を10個までしか買えない。露店ならその縛りが無いから買っただけ。この先は敵が強いから皆不安で――」


 そこまで言ったところで喋り過ぎたと思ったのか、彼(?)は「それでは」と言い残して去っていった。




 今のは中々興味深い話だったと思う。

 

 9日目現在でも、誰かが回復スキルを習得したという話は未だに聞かない。少なくとも体力回復をアイテムに頼る他ないというプレイヤーはまだ多いのだ。

 

 草原のモンスターは攻撃力が低いので大した問題になっていなかったが、次のエリア【青の渓流】でもそうだとは限らない。今の話を聞く限り、渓流に進むプレイヤーが多くなれば回復アイテムの需要がかなり高まる可能性がある。

 

 双葉草や三葉草は道具屋でも販売しているから、大した価格変動は無いかもしれない。しかし、店売りが無いアイテムは暴騰する可能性がある。上手く利用できればプレイヤーの攻略速度を落とすことだって可能かもしれない。

 

「……って、個人じゃ難しいか。今の所持金は6万ジュエル程度だし、市場操作なんてできるレベルじゃないよなぁ」


 良いアイデアが浮かぶかと思ったが、どうやら空振りのようだ。


 とりあえず今後値上がりそうな双葉草を30個と、三つ葉草を5つほど買い込んでおいて、他の露店に行ってみることにした。


 

 

 * * *

 

 

「いらっしゃい兄さん。どんな情報(ネタ)をお探しかな」


 露店エリアの端に設置されていた店には何やら本が並んでいた。


 丸眼鏡の店員に話を聞いてみると、ここはプレイヤーが提供した情報を売っているらしい。


「珍しいモンスターの情報や回復アイテムの採取場所などなど、価値がある情報を持っているなら是非話を聞かせてくれ。需要の高いネタほど高く売れるぞ。勿論売り上げは情報提供主に渡すから安心してくれ」


 ということだが、当然嘘の情報を売ることはできない。情報を提供した時点で内容が審査され、合格したものだけが実際に店に並ぶシステムだそうだ。


 見てみると【双葉草の採取ポイント】(3000ジュエル)や【一人でできるグリーンゴブリンの攻略法】(50ジュエル)など、ストレートなタイトルが並んでいる。当然だが、買うまで中を見てはいけない。立ち読みは厳禁だ。

 

「皆が知るようになった情報は売り物にならなくなっちまうから、その点はよく理解してくれ。逆に独占情報ならかなり儲けが大きいぜ」


 例えばコレ、と見せてくれたのは【草原に棲む巨大モンスターの出現情報】という本。出品者は【絶火帝王(ルビカンテ)】というプレイヤーだった。


「販売価格は5000ジュエルと高額だが、既に20人以上がこの情報を買っている。興味深い内容なら金を惜しまないという人は多いぜ」


 俺の他にもジャイアントブラックを倒したプレイヤーがいる筈だが、その情報は販売されていなかった。


 いま俺がネイムドについての情報を提供すれば大金を入手できるかもしれない。しかし、それは同時にライバルを増やすことにも繋がってしまう。残念だが、ここは見送った方が良さそうだ。


「あと変わったネタと言えば、これかな」

「【突然変異ゴブリン】ですか?」

「あまり売れてないんだけどな」

 

 苦笑いをする店員は、内緒話をするように手を口元に近づけた。


「情報提供者によると、草原でやたら強いゴブリンと遭遇したらしいんだ。【刺突】スキルを使ったらしいんだが……ちょっと信じられないよな」

「ですよねー」


 適当に誤魔化したが、少しだけヒヤリとする。


 珍しいモンスターはそれだけでプレイヤーの標的になる。倒せば大量の経験値や特別なアイテムを手に入れられるかもしれないからだ。

 

 変わったモンスターがいると噂が広まったらゲーム攻略どころじゃなくなるかもしれない。いくら効率が良いとはいえ、プレイヤーを闇雲に襲うことは控えた方が良さそうだ。


 慎重に行動しようと改めて決心して、露店見学を切り上げることにした。

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