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クローズドテスト  作者: hiko8813
2章
16/62

15話 パリイ

 プレイヤー撃破の恩恵は予想以上に大きかった。


 まず、相手の所持金(一部?)を貰えるらしく、一気に1万ジュエル余りを手に入れた。さらにゴブリン10体分ほどの経験値が貰えた上に、スキル熟練度もかなり伸びている。草原のモンスターとは比べ物にならない報酬だった。


 思ったとおり、ただのゴブリンだと思って油断してくれる事はかなり大きい。この調子でもう一戦チャレンジしようか――


「――あ、しまった」


 気付けば現在時刻は8:50。レッスンの時間はもう目の前だ。


 無断で欠席したらどれだけ怒られるか想像もできない。周囲を慎重に確認してから人間に戻った俺は、急いで師匠の下へと向かった。



 * * *



「今日は珍しく遅かったな」

「すみません」


 仁王立ちで俺を出迎えた師匠に頭を下げる。ゴブリンになっていましたと正直に報告したらどんな顔をするだろう。さすがの師匠も驚くだろうか……と思っていたら。

 

「ゴブリンになって遊ぶのがそんなに楽しかったか?」

「どうして知ってるんですか!?」


 何なんだこの人。憑依スキルは夏秋冬(ハルナ)と雪羽しか知らない筈なのに。


「お前のことは何でもお見通しだ」


 説明が雑すぎて困る。何でもお見通しって、実はこの世界の神様だとか言い出さないだろうな。

 

 ……言わないよな?


「それで、珍しいスキルを覚えて浮かれたボウズは一人でも戦えるってか? せっかくの誘いを断って単独行動を選ぶなんて生意気なことしやがって」

「どうしてそんな事まで知ってるんですか……」


 驚きすぎて脱力してしまう。いくらなんでも変だよこの人。いや、変なのは知ってるが、誰も知らない筈の情報をどうやって知ったんだ。

 

「宿屋のオヤジとは知り合いでな」

「ああ、なるほど……って、どーいう事ですかそれ!?」


 あまりにも自然に言われて一瞬だけ納得してしまった。いくら宿屋のオヤジだからって部屋の中の出来事まで知るワケが無いだろう。

 

「なんでも、部屋のベッドの下で静かにしていたら偶然声が聞こえたらしいぞ」

「それ犯罪ですよ! 不法侵入ですよ!!」

「やかましい。いかがわしい事が起きていないかチェックする為だ」

「そんなコトしませんってば!!」


 ……まさか、初日にソファーで寝ていた俺が翌朝ベッドへ移動していたのは、宿屋のオヤジの仕業だったんじゃないだろうな。


 真相は闇の中だが、あのオヤジ一体どうなってるんだ。頑張って抗議文も送ったのに平気な顔していたし……運営はちゃんと仕事してほしい。


「んで、どうして単独行動を選んだんだ?」


 師匠は面白がっているような笑みを浮かべている。


 不法侵入が真実なら抗議せざるを得ないが、ここで師匠を問い詰めてもどうせ無駄なんだろう。俺は諦めて質問に答えた。


「今までのやり方では、他の誰かに先を越されてしまうと思ったからです」


 当然と言えば当然だが、草原のネイムドモンスター【ジャイアントブラック】を倒したのは俺達が最初ではなかった。


「ほう、お前が見たそいつは5日目で既に一つ爪(シングル)だったと?」

「はい。大きな剣を背負っていたので【大剣豪】系の人だと思います。その時は爪の意味なんて知らなかったから驚きませんでしたが……あれは間違いなく竜の爪でした」


 俺が見たのはその人だけだが、きっと他にもクリアしていた人はいるだろう。公に発表してもメリットが無いから黙っているだけだ。


「自分はかなり早い方だと思っていたんですが、やっぱり凄い人はいます。普通のやり方では太刀打ちできないと思ったんです」

「……ふん、なるほどな」


 頷いた師匠はまだ何か言いたそうだったが、結局この話はそのまま終了した。

 


 * * *

 


「今日は【パリイ】を教えてやる」

「はい。よろしくお願いします」


 武器を使って相手の物理攻撃を受け流す【パリイ】は、盾を使えない俺にとって待望のスキルだ。是非ともモノにしたい。


「ところで、どうして師匠はそんなに大量の石を持っているんですか?」

「レッスンに使うからに決まってるだろう」

「用途が全くわからないから聞いているんですけど」

 

 嫌な予感が募るなか、師匠は俺から20メートルほど離れた位置に立った。


「ちょっと練習するからその場から動くなよ」

「え? え?」


 クエスチョンマークが消えない俺を放置して師匠が振りかぶる。高く掲げた左足で床を踏み、滑らかに腰を捻って腕を振り切る。


 背後でミサイルが着弾したような音がした。


「……冗談ですよね?」

「本気に決まってるだろ。肩が温まればもうちょいイケるかもな」


 ぐるぐる肩を回しながら、壁に大穴を開けた犯人が笑う。


「冗談ですよね?」

「しつこいなお前」


 いやいや、現実なら殺人未遂容疑で逮捕されても不思議じゃないレベルなんですけど。

 

「おし、これからお前に石を投げてやる。それを武器で打ち落とせ」

「も、もう少しだけ遠くから投げてもらえません?」

「馬鹿を言うな。ここでも遠すぎるくらいだ」


 師匠は問答無用で構えを見せる。俺は慌てて銅のナイフを取り出して、凄まじい速度で襲い来る石を打ち落とそうとして――見事に失敗した。


「バカタレ、失敗したらちゃんと当たれ!」

「イヤですよ! 避けるくらい良いでしょう!?」

「そのビビリ根性を叩き直してやろうってレッスンなんだぜ? 相手の攻撃にビビってるようじゃ一生無理だからな?」

「ぐ……わかりました」


 改めて武器を構える。一直線に飛んできた剛速球をにらみ付けてから目を閉じる。

 

 心眼結界ならゆっくり見え――あれ?

 

「ぐあっ!?」

「ビビリ根性を叩き直してやるって言っただろ。ちゃんと目を開けていろ」


 強制的に後方宙返りをさせられた俺に向けて、師匠が呆れたような声を出した。


「お前なら見える速度で投げてやってるんだ。手の届く位置まで引き付けてチョンと武器を当ててやれば良いだけだろうが」


 相変わらず簡単に言ってくれる。


 クラクラする頭に活を入れて立ち上がると、師匠はいつもの台詞で俺を挑発してきた。


「イヤなら止めても良いんだぜ?」

「止めませんよ」


 今回もかなり難しそうなレッスンだが、この先に進むなら【パリイ】スキルの習得は必須だ。相手の攻撃を避けているだけでは永遠に勝てないのだから。


 計画を進める為にも、今回も必ず成功させてやる。せっかくの誘いを断って一人になったのだ。半端なまま失敗したら彼女たちに合わせる顔が無い。


「もう一度お願いします」

「ったく、お前はいちいち面倒なヤツだな。最初からそうやって本気になれ――よっ」


 向かってくる石ころを睨み付ける。投げてから俺に当たるまでの猶予はおよそ0.3秒。瞬目(まばたき)をしている間に半分が終わってしまう速さだ。


 考えている時間は無い。ほぼ直感のみを頼りにして、石の通り道になるであろう位置に武器を置いた。

 

 ガツンと強烈な手応えを感じる。ナイフの腹に当たった石が軌道を変えて上へと浮き上がる。俺の額に向かって突き進んでくる。

 

「うがっ!?」


 見事に頭を撃ち抜かれて、俺はまたも強制的に後方宙返りをさせられた。


「ちゃんと受け流す方向を考えろよ」

「うぐっ、そんな余裕はありませんよ!」

「だったら余裕ができるまで練習だ。デタラメに振り回してもスキルは発動しないぜ」


 相手の攻撃がどんな動きなのかを正しく知覚すること。その上で攻撃の軌道を正しく変化させること。自力で【パリイ】を使う場合は、この2点が正しくできた時にのみスキルが発動するらしい。


 【パリイ】もスキルの一つなので、習得さえすればムーブアシストによって自動的に相手の攻撃を防いでくれる。しかし、アシストに頼った場合は彼我のステータス差によって成功確率が変わってしまう。格上相手には殆ど使い物にならないスキルなのだ。

 

 ただし、アシストなしの状態なら練習次第で成功確率を上げられる。


「お前これから無茶なコトするつもりなんだろ? レベルが10や20も上のモンスターを相手にするなら、自力でのパリイが必須だってコトは解ってるよな?」


 この人はどこまでお見通しなんだろう。あまりに正確に言い当てられて何だか怖い。


 まさか本当に神様だなんて言い出さないだろうなと思いながら、俺はひたすら石ころに挑み続けた。

 

 

 * * *

 

 

「よし、今日はこんなところか。逃げ癖を矯正できたのは進歩と言っても良いだろう」

「ありがとう、ございました」


 師匠に礼をしたと同時にスキル【パリイ】の習得を通知するアナウンスが聞こえる。成功確率はまだ低いけれど……これも練習あるのみだ。


「……俺の顔、どうなってます?」


 レッスンの成果を恐る恐る確認する。被弾した回数は10や20どころではないので鏡を見るのが怖ろしい。違う人になっていたらどうしよう。


「心配するな。可愛い弟子を痛めつける訳ないだろう」

「だったら何故そんなにニヤニヤしてるんですか」

「さあな?」

 

 思い切ってゲームウインドウをミラーモードに切り替える。俺を覗き込む俺は少し泣きそうな顔をしていたが、幸いなことに顔が腫れたりはしていなかった。


「そうそう、今日から新しい施設が利用できるみたいだぜ? 色々有益なモンが見れるだろうから一度は見ておけよ」


 師匠はそう言うと、手をヒラヒラさせながら部屋の奥へと行ってしまう――と思ったら突然刃物を投げつけてきた。


「……チッ」


 なにその舌打ち。


 反射的に掴んだのは全長40センチメートル程の直剣。柄に大きなガードがついているという少々変わった形をしていた。


「そいつは【マンゴーシュ】って武器だ。パリイ初心者にお似合いだからくれてやる。本来は利き手とは逆の手で使うモノだが……ま、気にするな」

「え、師匠がわざわざ用意してくれたんですか?」

「いつかのレッスンをクリアした時の褒美だ。お前に渡すのを忘れていただけだから勘違いするなよ」


 ちょっと感動していたのに台無しだよ。


 立ち尽くす俺を尻目に、師匠は今度こそ部屋の奥へと行ってしまった。

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