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クローズドテスト  作者: hiko8813
1章
1/62

プロローグ

Q「どうして賞金が出ると告知しなかったのか」

A「本テストの目的はあくまでもゲームのテストであり、注目を集めることが目的ではないからです」


Q「テストプレイのクリアに賞金を出す理由は何か」

A「本気でゲームをプレイしていただきたいからです。この場の皆様が賞金を魅力的に感じて、本気でゲームをプレイしていただけると考えました」


Q「後になって参加費を請求されることはあるのか」

A「一切ありません。賭博を行うわけではありません」


Q「このゲームをクリアできなかった場合、ペナルティはあるのか」

A「ゲーム内で体力がゼロになってしまった場合は、一般的なMMORPGと同様にレベルダウンなどのペナルティーがあります。しかし、当然ながら、いかなる場合でも現実世界においての不利益は一切ありません。安心してお楽しみ下さい」


Q「テスト期間中にログアウトした場合どうなるのか」

A「ログアウトしてテストプレイを中止することは無論可能です。しかし、運営側からの要請無しにログアウトされた場合、いかなる理由があろうとも賞金獲得資格が消滅します。ご注意ください」


Q「賞金を得るプレイヤーは一人だけなのか」

A「賞金を得る方は複数存在する場合があります」


Q「賞金を得るプレイヤーが複数になる具体的な条件は何か」

A「この場では回答いたしかねます。実際のプレイにてご確認下さい」


Q「このゲームはテスト段階だが、致命的なバグが発生してゲームの進行が不可能になった場合はどうなるのか」

A「それは賞金が、という意味でしょうか。はい、万一そのような事態が発生した場合は、バグが発生した時点で所持されているジュエルに応じてお支払いさせていただきます」


Q「本当に賞金を払うつもりがあるのか」

A「ムーンヴィレッジグループの名にかけてお約束いたします。1円玉を置いて1億円です、なんて古典的なオチは使いませんのでご安心を」


 嫌味なほどパリッとしたスーツに身を包んだ男が笑顔になる。彼は質問が途切れたことを確認すると、銀色のアタッシュケースを取り出した。



* * *



 バーチャルリアリティ技術(VR)は飛躍的な進化を遂げていた。

 

 コンピュータと人間をリンクする画期的な方式【パラノリンク】が開発されたのが10年前。当初はボンヤリとしたリンゴの映像を表現する程度だったが、様々な業界からのバックアップを受けて、その技術は飛躍的に進歩していった。


 パラノリンクを利用したVRは従来の目や耳で楽しむそれとは違い、作られた世界に飛び込んだかのような体験ができる。その圧倒的な臨場感を利用した宇宙の果てまでの旅行体験や、擬似タイムトラベルサービスは大ヒットとなり、パラノリンクの名を一気に広めた。

 

 サッカーをフィールドのど真ん中から観戦して選手気分を味わったり、マシンの座席からレースを観戦して事故を体験するなど、今までとは一味違う楽しみ方も可能になり、パラノリンクを利用するユーザー数は増大の一途だ。


 当然というべきか、ゲーム業界はこの技術を積極的に採用した。RPGやFPS、レースゲームやスポーツゲームなど、想像上の世界に飛び込んで遊ぶゲームは熱狂的な支持を受けており、今も市場を拡大している。




 そんな中、【ソウルブラッド・オンライン】というMMORPG(多人数同時参加型オンラインRPG)が8月の半ばから1週間、国内でクローズドβテストを行うと発表して注目を集めた。


 このゲームはヨーロッパ風の世界観にファンタジー要素をプラスしたオーソドックスなMMORPGだ。プレイヤーは【伝説の英傑】である男女各8人から両親を選び、その魂を受け継いだ人物という立場で世界に降り立つ。プレイヤーの目的は、世界を支配している悪竜【タナトス】を倒し、世界を平和に導くこと。ゲームとしてはごくありふれた設定だろう。


 幾多のMMORPGがリリースされている現代において、このゲームが注目された理由は、人工冬眠技術を利用した点にあった。

 

 従来ならば一定時間ごとに訪れる眠気や食欲、排泄などの為にゲームが中断されるのだが、人口冬眠技術を利用した新方式により、長時間連続してパラノリンク状態を維持することが可能だという。


 安全性への懸念など否定的な意見も少なくなかったが、配信元が名の知れた大企業だったこともあり、テストへ応募した者は10万人を超えた。

 

 定員1000人という狭き門だったが、幸運なことに俺――高梨(たかなし)彰斗(あきと)は見事当選した。通知メールで思わず叫んでしまい、隣の部屋から苦情が飛んできたのは良い思い出だ。

 

 実は、俺はMMORPGのプレイ経験がない。

 

 そんな俺がこのテストへの参加を希望した理由は単純で、ただ思い切り遊びたかったからだ。どんな理屈か、このゲームは現実の1時間がゲーム内での1日になる。つまりテスト期間168時間が168日――およそ半年にもなる。


 冬眠状態なのに脳の処理速度が上がるなんて魔法使いの所業だとか、絶対にこのゲームはヤバイとか、テストが終わった時には植物人間になっている、なんてネガティブな噂が流れたものの、俺は辞退しなかった。

 

 貧乏学生らしく夏休みの殆どをバイトに費やす覚悟でいたのだが、このゲームならたったの7日で思い切り遊べる。それは俺にとって素晴らしく魅力的だったのだ。

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