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triangle  作者: 田中タロウ
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≪おまけ≫1年後

「いらっしゃい、師匠!」

「おー。悪いな」


案内された部屋の扉を開けると、

いつもの明るい笑顔が俺を迎えてくれた。


2,3ヶ月に一度はこの家に来るのに、

2階に上がるのは久しぶりだな。


・・・マユミと付き合ってた頃以来だ。


「マユミは?」

「デート」


デート、ね。


そう言えば、俺、マユミと別れてからこの家でマユミと会ったことないな。

マユミの奴、今でも俺が親父さんと飲み友達やってること知ってんのかな?


俺は、造りは隣の部屋と同じだけど雰囲気の全く違う寺脇の部屋のソファに腰を下ろした。


女の部屋って、なんか落ち着かない。

特にここはいかにも「女の子の部屋!」って感じだから余計だ。


「マユミがデートって・・・トラ男と?」

「トラ男って誰?今日は確か、青信号さんとデートよ」


青信号・・・?

あいつ、ほんと、人の名前に興味ないよな。

きっと俺の本名もいまだに知らないんだろう。


まあ、俺は今の「家」に入る時に、

名前と過去は捨てたけどさ。


「って、『今日は』ってなんだよ。明日は違う奴とデートなのか?」

「うん」


うん、って・・・。


「マユミ、今は高校の時のクラスメイトと、劇団の青信号さんって人の2人と付き合ってるみたい」

「・・・」


あの悪女め。


多分マユミは、

「悪女なんかじゃないもん!」とか「付き合ってる訳じゃないもん!」とか思ってるんだろうけど、

俺に言わせりゃ、男をとっかえひっかえしてるような女はただ悪女ぶってるだけで、

マユミみたいに素で男を振り回す女こそ、本物の悪女だ。


俺達はお互い冗談半分で付き合い始めたけど、マユミは俺を好きになっていった。

が、俺も本気になったとたん、マユミはあっさり乗り換えやがった。

あれを悪女と言わずして何と言う。

きっと今頃「元クラスメイト」と「青信号」も振り回されまくってることだろう。


それにしても・・・正直、マユミに振られたのは痛かった。


俺はいつか本物の「家の人間」になるのだからと、いつも本気の恋愛はしないようにしてた。

確かに、堀西の初等部に入った頃からずっと神楽坂萌加のことは好きだったし、

向こうも俺を好いてくれてたから、

「俺はいずれ神楽坂と付き合って、もしかしたら結婚するのかも」なんて子供心に思ってた。

でも「家」に入った時「ニィちゃん」から、

「俺の母親はいざこざに巻き込まれて命を落とした」と聞いて、

神楽坂とだけは絶対結婚しないと心に決めた。


そういう意味では、マユミは最初俺の中では結婚対象だった。

金持ちだし、いなくなってもそんなにダメージを受けずに済むくらいの惚れ具合だったし。

でも次第に神楽坂と同じように結婚対象外、というか、結婚すべきじゃない奴になっていった。


そしていつの間にか・・・


そんなことを考えるのも面倒なくらい、一緒にいたい奴になっていた。


どうしてかなんか、自分でも分からない。

マユミの何が良かったのかも分からない。


馬鹿だしワガママだし浮気性だし、

そのくせ、図太いかと思いきや案外傷つきやすくて面倒臭いし。


だけど好きだった。

ただ、はまったとしか言いようがない。


別れる時、「心の浮気は許せる」なんて言ったのは一生の恥だ。

心の浮気なんて許せるはずないだろ?

てゆーか、心が他の男の所へ行ったのなら、もう別れるしかないじゃないか。

まだ身体の浮気の方が許せる。


それでも俺があんな赤っ恥の台詞を口にしたのは、

「許せない」と言った時点で俺達は終わると思ったから・・・

なんとかしてマユミを繋ぎとめておきたかったからだ。


そんなの、もう無理だって分かってたのに。


・・・ああ・・・今思い出しても顔から火が出そうだ。



「パパ、まだ帰ってないよね?今のうちに説明しちゃうわ」


俺が片手で顔を覆って赤面していると、

寺脇は机の引き出しから薄い透明のファイルを取り出した。

表紙に「どんぐり保育園 入園のしおり」と書いてある。


とたんに心が明るくなった。


「おお、サンキュ。助かるぜ」

「ううん。私はアルバイトだから、もし入園するなら受け入れは他の先生がすることになるけど。

多分、飯島雛子いいじまひなこ先生になると思う。雛子先生って呼んでね。

うちはみんな、名前で呼び合ってるから」

「わかった。雛子先生な。美人?」

「うーん」


・・・正直だな、寺脇。


俺はパラパラとファイルの中を読み進めた。


「ふーん。よさ気なとこだな。何より、保育時間が長いのが助かる」

「でしょ?師匠はまだ大学生だから、家にほとんどいないしね。入園するなら、何月から?」

「9月。9月末で1歳なんだ」

「へー。美優みゆうちゃんだっけ?かわいい?」


俺はニヤッとして携帯を取り出した(大学生になって、ようやく買った)。

普段は自分や身内の自慢なんて絶対しないけど、

ここは自慢させてくれ!


「どうだ!」

「うわあ!すごい美少女!将来有望ね」

「だろ?」

「師匠とそっくり!」


そこはちょっと議論を要するのだが・・・

まあ、聞き流すとしよう。


携帯の画面を自分の方に向ける。

もうすっかり見慣れた笑顔のはずなのに、

何度見ても顔がほころぶ。


はあ~、かわいい・・・


おう。親バカとでもなんとでも言ってくれ。

かわいいもんはかわいいんだ。


「まさか師匠が18歳にしてパパになるとはねー。

でも、師匠らしいと言えば師匠らしいかも」

「まーな。寺脇んとこは?結婚3年目だろ?子供、まだ作らねーの?」

「うん。うちは旦那が海外だから月末婚どころの騒ぎじゃないもん。

作ったとしても、一人で日本で育てなきゃいけないし」

「そっか。結婚してるのにちゃんと避妊しないといけないなんて面倒だな」

「そうだけど、そこはちゃんとしとかないと。

旦那は早く子供欲しいって言ってるんだけどね。師匠、二人目は?」

「それはまだ先だなー」


身も蓋もあったもんじゃない。

人間、結婚すれば所詮こんなもんだ。


「そういや、寺脇の旦那って見たことないな。写真とかねーの?」

「え。あ、あるけど・・・」


恥ずかしいから見せたくないわ、という雰囲気をかもし出しながらも、

寺脇の手はちゃんと携帯のボタンを押している。

見せびらかしたくて仕方ないらしい。


「この人!」

「・・・。へぇ、イケメンじゃん」


お世辞じゃない。インテリ風のかなりのイケメンだ。

が、俺が一瞬コメントに困ったのは、その写真がどう見ても隠し撮りだったからだ。

電車の中なのか、

吊革を持って外を見ているインテリ君が右下の角度から撮られている。


自分の旦那なんだから、堂々と撮ればいいのに・・・


旦那が恥ずかしがり屋なのか、寺脇がかわいいのか。

よくわからん。


いつか寺脇の旦那と会うことはあるんだろうか。

ちょっと興味ある。

でも、しばらくアメリカにいるっていうから、無理かな。


しかしこの時俺は、

約1年後、寺脇の旦那・・・の姉貴と意外な形で知り合うことになろうとは、

夢にも思っていなかった。



「あ。マユミだ」


寺脇が窓の外を指差す。

見ると、門のところでマユミが男と2人で何やら楽しげに話をしている。

ここでキスの一つでもしたら面白いな。


・・・ちょっと嫌かな。


そんなことを考えていると、一台の車が外からやってきて、

マユミたちの前で止まった。

中からマユミの親父さんが顔を出す。


マユミは笑顔のままだけど、男の方は一瞬凍りついた。


そりゃそうだろう。


だけどマユミはそんなことはお構い無しに男に手を振り、車に乗り込んだ。

2人を乗せた車はそのまま門の中へ入り、家の方に向かってくる。


全く、相変わらずな奴だぜ。


「パパも帰ってきた!師匠、今からパパと飲むんでしょ?リビングに行く?」

「ああ」


俺は、寺脇に貰ったファイルを小脇に抱え、部屋を出た。


親父さんと飲むのは俺の楽しみの一つだが、

今日ばかりは少し早めに帰ろう。

アイツに早くこのファイルを見せてやりたい。


自分がマユミのことを好きになったのも、かなり意外だったけど、

アイツを好きになったのはまさに天変地異とでも言うべき出来事だった。

でも「俺がモタモタしてたせいでマユミと上手くいかなかった」という教訓のお陰で、

今の俺とアイツと美優がある。


マユミを好きだった頃のことが、今でもたまに頭をよぎるけど、

今では良い思い出だ。



「おかえりー、マユミ」

「ただいま、師匠・・・ん?ええ!?」

「ああ、師匠君。お待たせ。すぐに準備させるから」

「いつもすみません」

「いやいや。師匠君がいると、心置きなく飲めて嬉しいよ。

マユミ、いい加減師匠君と寄りを戻しなさい」

「えええ?どうして師匠がいるの!?どうしてパパは驚かないの!?」

「師匠君、まだ籍は入れてないんだろ?マユミを貰ってくれんか?」

「ありがとうございます。でも、遠慮させて頂きます」

「あはは。残念だな、マユミ」

「パパ!師匠!」



俺と親父さんは、目を白黒させているマユミを残し、

笑いながらリビングへ入って行った。





師匠に何があったか気になる方は「SECOND LOVE」をご覧下さい。

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