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triangle  作者: 田中タロウ
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第3部 第14話

「じゃーな」

「うん。バイバイ」


いつの間にか、師匠の部活が終わるのを待っているのが私の習慣になった。

そしてその後、師匠はこうやって私を家まで送ってくれる。


「そーだ。明日からは部活ないから」

「え?どうして?」

「どうしてって、学年末テスト前だからだよ。明日から試験終わるまで部活なし」

「やった!じゃあ、遊べるね!」

「・・・」


あれ。どうして黙るの?

私と遊びたくないワケ?


「だから。学年末テストがあるんだって」

「だから?」

「・・・」


師匠は呆れたようにため息をつき、

もう一度「じゃあな」と言った。


「・・・うん。バイバイ」

「何、物足りなさそうな顔してるんだよ」

「そんな顔、してないし」

「あ、これか」


師匠は、まるで忘れ物を思い出したかのように私にキスをした。


「ちょっと!家の前で堂々とそんなことしないでよ!」

「そんなニヤけた顔で怒鳴られても、ぜーんぜん迫力ないし」

「なっ、」

「明日は、ファミレスかどっかで一緒に勉強しようぜ」


私も大概単純な頭をしてるらしい。

師匠の言葉にたちまち上機嫌になり、元気に「うん!」と答えると、

こっちに背を向けたまま手を振る師匠の後姿を見えなくなるまで見送った。






「なんか、物足りなさそうな顔してるわね」

「・・・」


翌日、有紗が私を見て師匠と同じことを言った。

どれだけ惨めな子なんだ、私は。


「お菓子食べる?はい、ダース」

「・・・いらない。お腹すいてる訳じゃないもん」


だけど有紗は構わず未開封のダースの箱を開けると、

中のチョコをポイポイポイと3つ続けて口に放り込んだ。


ダースがあっという間に「ダース」じゃなくなる。


「ダースって安いのに美味しいよね。これはゴディバに勝るよ」

「・・・そうね」

「でも、唯一の欠点は数が少ないってことかな。1箱に12個しか入ってないもんね」


だから「ダース」って名前だと思うんですが。


有紗に意見するには体力がいりそうだ。

私は体力を貯めるべく、有紗を真似てチョコを3つ口に入れた。


これで「半ダース」だ。


その時、急に有紗の後ろからうっとうしい声がした。


「よう!今、いいか?」

「的場君!もちろんよ!」


有紗が素早く「半ダース」を鞄の中に隠し、

机の上を綺麗にする。


的場はこのクラスの生徒じゃないくせに、

当たり前のように教室に入ってきて、

当たり前のように有紗の机の上に小さいけど分厚いカラフルな本を置いた。


「何これ」

「グアムのガイドブック」

「・・・今更?」


グアムなんてガイドブックなんかなくても、

どこに何があるか知ってる。

グアム島を全て制覇しようと思うと骨だけど、

友達と騒ぐだけなら、タモンビーチとメインストリートで充分だし。


だけど的場は「チッチッチ」という感じで右手の人差し指を振った。

どこまでも古い奴だ。


「こん中でやりたいマリンスポーツとか選んどいて。

現地でバラバラと『俺、これやりたい』『私、ここに行きたい』ってやってたら、

時間ばっかかかって、結局大したことできないからさー。

行き当たりバッタリも楽しいけど、ある程度は予定を決めとこうと思って」

「ふーん」


チャラいくせに仕切りたがりらしい。

まあ、こういう奴が1人いると助かるんだけど。


「ねえ、的場くぅん」


有紗が頭のてっぺんから声を出す。

ちゃんと「くん」って言え、「君」て。


「ホテルとかはどうなってるの?」

「日航を予約しといたよ。飛行機は寺脇のとこの自家用ジェット、出してくれるんだろ?」

「うん、それは分かってるけど。日航に泊まるの?」


グアムはもはや日本の延長みたいなものだけど、

ホテルくらい現地のホテルにした方が、

「海外に来た!」って感じがしそうじゃない?

わざわざ日系のホテルに泊まる必要ないじゃない。


ところが、的場はまた「チッチッチ」だ。


「結局日本人には日系のホテルが一番居心地いいんだよ。

リゾートじゃないなら、現地のホテルで現地人気分を味わうのもいいけど、

リゾートを楽しむなら日系のホテルに限る!」

「ほー」

「日系のホテルが儲かれば、日本の景気も少しは良くなるだろうし」

「へー」

「でさ、部屋だけど、寺脇は俺と同室でいい?」


話の内容にギャップがあり過ぎないか。


てゆーか、どうして私が的場なんかと同じ部屋で過ごさなきゃいけないんだ。

いや、的場だけじゃない。

師匠以外の男の人と、同じ部屋で寝泊りするなんて有り得ない。


・・・ううん。

師匠とも有り得ないか。



あのバレンタインの前日の夜以来、

師匠は全く私に手を出さなくなった。

それまで毎日のようにやっていたおふざけも無し。


これこそが「物足りなさそうな顔」の原因だ。


べ、別にしたい訳じゃないわよ?

ただ純粋に「なんで?」って思ってるだけよ?


でも、師匠が私に冷たくなったのかというとそうではなく、

普段はむしろラブラブ度が増した気がする。


今日だって、ほら・・・


「マユミ。彼氏、来てるよ」

「あ、うん。じゃあね有紗。的場も」


私は教室の前の廊下に師匠を見つけると、

急いで鞄を持ち、師匠の方へ歩いていった。


後ろで的場が面白くなさそうに「えー?」と言ってるけど無視無視。


だけど。


――― あれ?あの人って・・・

――― 的場君、知ってるの?

――― 知ってるって言うか、確か・・・


的場と有紗の会話が背中を追ってきた。


「あの人」って師匠のこと?

的場、師匠のこと知ってるの?


振り返ってそう聞きたかったけど、その時にはもう私は師匠の目の前まで来ていた。


まあいいや。

どうせ的場のことだから、くだらない内容なんだろう。


「ちゃんと勉強道具持ってきたか?」

「うん!今回こそ、赤点は取らないから!」

「頼りないなあ」


師匠が苦笑いしながら鞄を肩に担いで歩き始めた。

私も半歩遅れてそれに続く。


「どこで勉強するの?」

「どこでもいいけど。図書室にする?」

「うーん・・・図書室って静かだから勉強に集中できないのよね」

「意味わかんねー」


・・・そうだ。ここは思い切って・・・


私は師匠を見ないようにしてさりげなく言った。


「私の家は?」

「マユミんち?」


敢えて「うん。私の部屋」と付け足す。


だけど師匠は「そうだなー、どうしようか」と言って少し考えた後、

「やっぱり図書室にしよう」と言った。



・・・あれ。

もしかして、「拒否」された?


いやいや、そんな馬鹿な。


私は師匠の彼女よ?

師匠は私の彼氏よ?


1回したんだし、拒否する必要なくない?



だけど結局この日、私達は図書室で勉強したのだった。






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