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triangle  作者: 田中タロウ
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第2部 第21話

用意されたドレスを着て、

美容師の資格を持つお手伝いさんに髪のセットとメイクをしてもらって・・・


なんか、地味だな。


私は鏡の中の自分を見てそう思った。


毎年年末に行われているパパ主催のパーティはかなり豪勢なものだ。

パパもママも思い切りドレスアップするし、

私とお姉ちゃんも、この日のために作らせたドレスで参加する。

それも、飛び切り派手なドレスだ。

どうして派手なドレスじゃないとダメかというと、

私とお姉ちゃんは寺脇コンツェルンの娘・・・

つまり、パーティに参加しているどの女の子よりも立場的には上になる。


そんな私達がパッとしない格好をしていると、

他の女の子達(というか、その親)も気を使って、華やかなドレスを用意しづらくなる。

だから私とお姉ちゃんは敢えてド派手な格好をして、

他の参加者達が目一杯お洒落しても、私達より目立つことがないようにしているのだ。


私だってかわいくて派手な格好は嫌いじゃないけど、

これはこれで気を使って疲れる。

普通に自分好みのドレスが着たい。

でも、そういう理由で、ドレスのデザインはいつもデザイナーに一任してるのだ。


が、今年は何故か妙に地味だ。

色は派手な赤だけど、結構シンプルなドレス・・・というか、ワンピースに近い。

寺脇家の娘がこんなんじゃ、他の着飾った参加者が居心地悪いだろうに。


でも、今年のワンピースがこんな風な理由はすぐにわかった。


「マユミ」


仕度を終えたお姉ちゃんが私の部屋に入ってきた。

私はドレッサーの鏡越しにお姉ちゃんを見て・・・


「え。お姉ちゃん、その格好で行くの?」

「うん。変かな?」

「変じゃないけど・・・」


驚いた。

真っ白な膝丈のワンピースに真っ白な靴。

ワンピースは腰の右辺りから二重になってて、

中から凝ったレースが覗いているけど、今日のパーティのことを考えると、

地味過ぎるというか、落ち着きすぎてるというか。


でも、真っ白というのは、ある意味目を惹く。


あ、もしかして?


「今日のパーティでノエル君をみんなに紹介するの」


やっぱり!


「跡取りとしてのお披露目はアメリカから戻ってきてからするから、今日は私の婚約者として、ね」


それで、花嫁を意識した白いワンピースな訳ね?

で、そのお姉ちゃんと並んでもおかしくないように、私もこのドレスな訳だ。


そういうことなら、他の参加者も気を使わなくていいだろう。

服が地味でもなんでも、「花嫁」は最強だもの。


今日の主役は実質ノエルさんとお姉ちゃんだ。


「ノエルさんは何着るの?」

「このワンピースに合わせたスーツを用意してある。タキシードじゃないわよ?

それでもノエル君、渋ってたけど」


お姉ちゃんは「困った人よね」というように苦笑いした。

でも、そこに「本当はウエディングドレスがよかったな」という思いは感じられない。

単純に、ノエルさんのワガママに困っているだけのようだ。


「・・・お姉ちゃん。結婚式、本当にしないの?ウエディングドレスは?」

「うん。どっちももういいの」

「どうして?」

「内緒」

「もしかして。クリスマスイブにノエルさんと海光に行った時、何か言われたの?」


あの日、キャンドルライトの前でノエルさんとお姉ちゃんは何かを話していた。

多分お姉ちゃんは、アメリカに行かずに日本に残ることをノエルさんに告げたのだ。

でも、ノエルさんはお姉ちゃんに何を言ったんだろう?

お姉ちゃんは随分嬉しそうだったけど。


案の定お姉ちゃんの頬は、ピンクのチークが分からなくなるくらい赤くなった。


「だ、だから、内緒よ」

「どうして?」

「ノエル君に、マユミには絶対言うなって言われたから」

「・・・」


さては何か臭いことでも言ったな?

いつか絶対聞きだしてやる!



それにしても・・・

私は鏡の中のお姉ちゃんを見つめた。


お姉ちゃん、綺麗になったな。

細くなったとか肌が綺麗になったとかじゃなくって、

身体の内側から発せられる幸せオーラが、お姉ちゃんを綺麗にしている。


結婚式がなくても、ドレスがなくても、

お姉ちゃんは充分幸せなんだ。



「あ!いけない、忘れてた!」


お姉ちゃんがハッとしたように、

手の中の携帯を見た。


「どうしたの?」

「今、師匠から電話があったの。うちの前の公園に来てるから、

マユミに出てきて欲しいって」

「・・・・・・」

「マユミ?」

「イヤ」


私は鏡の中のお姉ちゃんから目を逸らし、

自分の顔を見た。


不機嫌な顔をしている。

当たり前でしょ?


でも心なしか、私のチークの色も変化しているように見える。


「マユミ。師匠と何があったのか知らないけど、

彼氏に向かって『すっとこどっこい』なんて言っちゃダメよ。

彼氏以外にも言っちゃダメだけど」

「・・・聞こえてたんだ」

「あんな大声で叫んだら、家中に聞こえるわよ」

「・・・」

「早く行ってあげなさい。師匠、寒い中待ってるのよ?」


私は窓の外を見た。

まだ6時だけど、もう日はとっぷり暮れて真っ暗だ。


うちの前の公園って・・・桜公園のことね。


公園っていうか、林みたいなところだけど、

桜の木が何本かあるので春は結構綺麗だ。

でもこの季節は、ひと気もなく寒々しい場所になる。


師匠、あんなところで待ってるんだ・・・



私は無言で椅子から立ち上がり、

そのまま足早に部屋を出た。


後ろでお姉ちゃんがまた苦笑しているのが分かった。




昨日、師匠がクリスマスの夜のことを覚えていないと聞いた私は、

「怒髪天を突く」の意味を身を持って知った。


でも、よくよく考えてみると、

師匠が私にキスしたことに対する怒りを1とするならば、

それを覚えていないことに対する怒りは7くらいだ。


それよりも私を怒らせたのは、

師匠が電話で私のことを「2号」と呼んだことだった。

怒り度合いはマックスの10を軽く超える。

超えすぎて、いっそ悲しくなってきた。


私のこと、これからはマユミって呼ぶって言ったのに・・・


って、何本当の恋人みたいに落ち込んでるのよ。

別に師匠は私の恋人な訳じゃない。

私は師匠を好きな訳じゃない。


師匠が私のことをなんて呼ぼうと、どう思っていようと、どうでもいいじゃない。



だけど・・・


もう1つ悲しいことがある。


私は玄関で靴を履きながら、握り締めている左手を見た。





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