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triangle  作者: 田中タロウ
32/95

第2部 第18話

「もう。マユミったら、いつの間に師匠とそういうことになってたのよ」


いつの間でしょう。

私もよくわかりません。


「パパが師匠のこと随分気に入ってたわね。

また来て欲しがってたから、うちに招待しといてね」


お姉ちゃんがすれば?


「・・・マユミ?何怒ってるの?」


階段の一段下からお姉ちゃんが振り返り、私の顔を覗き込む。


「怒ってないわよ」

「そう?不機嫌そうだけど」

「ノエルさんが来てるからよ」

「・・・。でも、ここ数日、ずっと不機嫌じゃない」

「そう?」



なが~い、なが~い私の誕生日から数日経った年の瀬の今日、

ようやく風邪から回復したノエルさんがうちにやって来た。

で、なんの用だか知らないけど、私も同席するように、と呼ばれたので、

こうしてお姉ちゃんと一緒にリビングへ向かっている。


だから私が不機嫌・・・という訳ではない。

まあ、ノエルさんと会うのにニコニコする必要はないけど。


私の不機嫌の原因はもちろん、

師匠がいきなり私にキスしたこと・・・でもないんだな、これが。


そ、そりゃ、怒ってるわよ?

ファーストキスだったんだから。

うん。怒ってる。

ぷんぷん。


でも、

ちょっと素敵な男の子にいきなりキスされる、って少女漫画っぽくって憧れない?

で、キスされた女の子は、最初は「ひどい!」って怒るけど、

段々とその男の子に惹かれていって・・・てのが王道だ。


だから取り合えず怒っておこう、

という訳で、一応不機嫌な振りをしてみた。

だけど私の「不機嫌」は次第に本物へと変化した。


だって!

師匠、全然連絡して来ないんだもん!

学校が休みだから会えないし、もちろん家に会いにも来ないし!

キスしといてそれはなくない!?


で、思い切って昨日の夜、お姉ちゃんの部屋へ突撃した。


「お姉ちゃん!師匠の携帯教えて!」

「師匠は携帯持ってないよ?マユミ、彼女なのにそんなことも知らないの?」

「・・・」


こうして私のイライラはマックスに達したのだった。






「悪いな、2号。寝てるところ」


リビングに入ると、ノエルさんが聞きたくもない「2号」という言葉で私を出迎えた。


「起きてたわよ!もう11時よ!」

「寝癖ついてるぞ」


私は口を尖らせて髪の毛を撫で付けた。


「そんなんじゃいつまでたっても彼氏ができないぞ」

「大きなお世話よ!」

「ノエル君。マユミ、彼氏ができたの」

「えっ。凄い趣味の持ち主だな」


ほっといて!


「私のクラスメイトでね、師匠って言うの」

「師匠か・・・変わった名前だな」

「『ノエル』さんに言われたくないと思うけど?」


私がそう言うと、今度はノエルさんが口を尖らせた。


「うるさい」

「あれ。ノエルって名前、好きじゃないの?」

「・・・目立つだろ」

「で、でも、ノエル君!アメリカに行ったら、目立たないんじゃない?

何とか太郎とか、何とか次郎だったら、いかにも日本人って感じで、逆に目立つかも・・・」


お姉ちゃんのフォローにノエルさんが「それもそうか」と少し機嫌を直す。

が、遅れてリビングに入ってきたパパがそれをぶち壊した。


「『ノエル』というのはフランス語だが、

クリスマスとか万歳とかいう意味だから、アメリカでも目立つんじゃないか?

アメリカ人はフランス語を知ってる品」

「・・・」


いいぞ、パパ!言ってやれ、言ってやれ!

でも、これ以上言われてたまるかと、ノエルさんがさっさと話題を変える。


「おはようございます。この前は突然休んで申し訳ありませんでした。

病気なんて滅多にしないんですけど・・・」

「いや、日本で受験しないとは言え、海光で勉強しながら渡米準備するのは大変だろう。

2泊1日でアメリカにも行ったしな。身体が疲れるのも無理ないさ」

「はい、すみません。それで今日は、本当は25日にお話しようと思っていたことがあって、

うかがいました」

「話?俺にか?」

「はい。後、お義母様と2号、じゃなかった、マユミさんにも」


私にも?

なんだろう??



ママがリビングにやってきて、全員が揃った。

ノエルさんは隣に座っているお姉ちゃんと目を合わせてから口を開こうとしたけど、

お姉ちゃんがそれを制する。


「私が話すわ」

「でも・・・」

「私のことだから」


もしや早くも妊娠したとか!?


だけどお姉ちゃんは私達の方へ向き直り、真剣な顔をしてこう言った。


「パパ、ママ、マユミ。私、アメリカには行かないわ」

「え?」


ノエルさん以外の全員がお姉ちゃんの言葉にキョトンする。

でもパパが「ああ、そういうことか」と言って頷いた。


「そうだな。まあ、高校を卒業してから行けばいいさ」

「違うの、パパ。高校を卒業してもアメリカには行かない」


今度は全員が息を飲んだ。


「お姉ちゃん・・・それって、ノエルさんと結婚しないってこと?」


だけどお姉ちゃんは笑顔で首を振る。


「結婚はするけど、私は日本でノエル君が帰ってくるのを待つわ。

堀西短大に進みたいの」

「短大?」


パパの眉間に皺が寄る。


高校はともかく、堀西短大なんて別に行く必要はない。

花嫁修業のための短大みたいなものだから。

堀西短大に行くくらいなら、アメリカへ行ってノエルさんを支えてあげた方が絶対にいい。


でも、私は以前お姉ちゃんの部屋で見たパンフレットを思い出した。

結婚関係のパンフレットの一番下にあった、薄っぺらいパンフレット。

あれは、堀西短大のパンフレットだった。

そして、お姉ちゃんが読み込んでいたページは・・・



「私、堀西短大で保育士の資格を取りたいの」





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