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triangle  作者: 田中タロウ
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第1部 第3話

「では、月島君は海光でも成績首位なのかね?」

「はい」

「大したものだね。通りでうちの経営に興味がある訳だ」


月島さんは正に完璧だった。

ルックスと学歴だけでなく、表情や話し方も上品で、パパと対等に話をしている。

高校3年生とは思えない。


私はこの場に居なくていいんだけど、月島さんを見ていたくて、

図々しくパパの横を陣取っている。


「寺島建設さんの方で今度おもちゃショーの仕事を請けると聞きました」

「そんなことまで知ってるんだね」


パパは感心しきりだ。


「でも、あれはまだ決定じゃないんだよ。一応コンペがあってね」

「だけど勝算がおありなんでしょう?ビジネス誌にそう載っていました」

「まあね。伴野ばんの建設さえ抑えられれば大丈夫だと思う」


おもちゃショー?

コンペ?

伴野建設?


私がぽかーんとしてると、パパが呆れたように私を見た。


「マユミ。お前は寺脇家の娘だろ。もうちょっと寺島コンツェルンという事業体に興味を持て」

「だってー。寺脇建設なんて、コンツェルンの中にたくさんある会社の一つじゃない。

いちいち知らないよ」

「伴野建設くらいは覚えておけ。寺脇建設のライバルだ」

「ふーん。心配しなくても、私が伴野建設に就職することも嫁ぐこともないから」

「・・・。ちなみに、コンペって知ってるか?」

金平糖こんぺいとう?」


パパが、もう何も言うまいとため息をついて、月島さんとの会話に戻った。

私も私で、さっさとパパは無視して月島さんに視線を送る。

こんな退屈な内容の会話、月島さん鑑賞という目的がなければ、

とてもじゃないけど聞いてられない。


・・・はあ。

本当にかっこいいな、月島さん。

お姉ちゃんが羨ましい。

私も、付き合うならこんな男の人がいいな・・・


パパと月島さんが話している間じゅう、私は頭の中でひたすら同じことをリピートしていた。




「海光学園まで送ってさしあげろ」

「かしこまりました」


白い手袋をした五十がらみの運転手が、後部座席の扉をさっと手で引いて開いた。

月島さんはそれにぶつからないよう、少し離れたところに立っていて、

車に乗る前にパパに向かってお辞儀をした。


「今日は有意義な時間を過ごさせて頂き、ありがとうございました」

「いや、こちらこそ」

「では、失礼します」


月島さんはもう一度お辞儀をして、車に乗った。


「パパ!私、ついて行っていい?」

「ついて行ってどうするんだ?」

「いいじゃない!学校の寮の前までお見送りするのよ。どうせうちの車なんだから、

ここに帰ってくるんだし、私が乗ってても困らないわよね?」


そう言って運転手を見ると、運転手は「もちろんです」と言って頷いた。

一方パパは、困ったように月島さんを見たけど、月島さんも「光栄です」と言ってくれたので、

私は遠慮なく月島さんの横に乗り込んだ。


さっきまでずっとパパと月島さんが話していたので、私は月島さんと全然話せなかった。

ここから、海光までは車で1時間ほど。

すっかりデート気分だ。


ところが。


「あの、運転手さん。すみません」

「はい、なんでしょうか?」

「ここの近くの駅までで結構ですから」


私は思わずシートから身を起こした。


「え?どうして?学校まで送りますよ!」

「こんな豪華な車で学校に戻ったら、何事かって大騒ぎになるから。電車で帰るよ」

「でも・・・」


月島さんは、言葉も話し方も穏やかだけど、明らかに車で学校まで送られるのは迷惑なようだ。

運転手はちゃんとその空気を読み取り、「かしこまりました」と言ってウィンカーを出した。


ここから最寄駅までなんて、5分もかからないじゃない。

せっかく、やっとお話できると思ったのに・・・


私が落ち込んでいると、

月島さんは制服のポケットから薄くて新しい携帯を取り出し、こう言った。


「マユミちゃん。携帯の番号とアドレス、教えてもらっていい?」







私はベッドの上に正座し、登録されたばかりの新しい番号とアドレスを見つめた。

いくら見つめたって何も変わらないのに、

ただそれがそこにある、というのを見ているだけで楽しい。


私、どうしちゃったんだろう?


電源のボタンを軽く押して、画面を待ち受けに戻す。

でもまたすぐに電話帳を開いて「つきしま」と入力する。



月島ノエル



・・・ふふふ。

なんかちょっと運命を感じる。

だって・・・


『変わった名前ですよね』

『クリスマス生まれだから』

『え?クリスマス?12月25日?』

『うん』

『私も!私も12月25日が誕生日なんです!お姉ちゃんから聞いてませんか?』

『聞いてないなあ。そうなんだ、偶然だね』

『はい!』


同じ誕生日。

しかもクリスマス。


普通、彼氏の誕生日が妹と一緒だったら、

「あ、妹と一緒の誕生日なんだ」って言いそうなものだけど、

お姉ちゃんは言わなかったらしい。


それって、お姉ちゃんは敢えて私の話題を出さなかったってことなんだろうか。

マユミは妹だから好みが似てるかもしれない、

彼とはマユミの話題はしない方がいいかもしれない、

マユミにも彼の話はしない方がいいかもしれない、って。

実際、お姉ちゃんに彼氏がいるなんて、知らなかったし。


そんな心配しなくていいのに・・・。


私は、今度は「おねえちゃん」と携帯に打って、

お姉ちゃんのアドレスを引き出し、メールを立ち上げた。


お姉ちゃんに今日のこと報告しとかなきゃ。

「お姉ちゃんが月島さんに修学旅行のこと言わなかったから、月島さん来ちゃったよ!」って。


・・・。

でも、そうしたらお姉ちゃんは時差なんて無視してすぐに月島さんにメール、いや、

海外からでも電話するだろう。

そして、


『ごめんね!』

『全く、ナツミはドジだなー』

『うん・・・本当にごめんね。帰ったらすぐに会いにいくから』

『うん。待ってるよ』


みたいな会話をするんだ、きっと。


当たり前よね。

てゆーか、ほんと、ちゃんと月島さんに謝ってよね。


「・・・」


だけど、私はついにお姉ちゃんにメールをしないまま携帯を閉じた。


と、同時に携帯が鳴り出す。


ビックリした・・・メールだ。

送信者は・・・月島さん!?


急に心臓の打つ音が早くなり、

使い慣れた携帯の感触がまるで別物に感じる。



「今日は色々ありがとう。また会おうね」



それだけのメール。

でも、どんなに長いメールよりも嬉しい。



私は、今度は迷うことなく速攻でメールを返したのだった。






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