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triangle  作者: 田中タロウ
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第2部 第10話

「おはようございます、お嬢様。お手紙が届いております」


クリスマスイブの朝。

いつも通り家族4人でご飯を食べていると、お手伝いさんが私の所へ白い大判の封筒を持ってきた。


「ありがとう。なんだろう?」


私はコップを置くと、早速封筒を開けた。


「・・・ああ」

「なんだったの?マユミ」


お姉ちゃんが興味深そうに私の手元を覗き込む。

私は封筒から出したばかりの紙をすぐに戻し、

封筒ごとギュッと握り潰した。


「ただのダイレクトメール。捨てといて」


持ってきてもらったばかりで悪いけど、私は同じお手伝いさんに潰した封筒を返した。


「それよりお姉ちゃん、今日はノエルさんとデートだっけ?」

「うん!」


お姉ちゃんの興味が一瞬で封筒から逸れる。


「今日はノエル君の誕生日なの。

だからノエル君は、毎年クリスマスイブは家族で食事するらしいんだけど、

今年は私もお呼ばれしてるの」

「ふーん。で、そのお礼に明日の私の誕生日会にノエルさんを呼ぶ訳ね?」

「そうそう」

「別に来てもらわなくていいのに」

「マユミ!ノエル君はマユミのお義兄さんになるのよ。仲良くしなさい」


やなこった。


ちなみに私の誕生日会と言っても、小さい頃は友達とか呼んで結構豪勢にやってたけど、

今は月島家と同じく家族で食事をするだけだ。

その代わり、場所はちょっとしたレストラン。


・・・そうだ。もしお姉ちゃんが来年の4月からノエルさんと一緒にアメリカへ行くなら、

私の誕生日を一緒に祝うのも今年が最後になるかもしれない。



ママが食事を終え、紅茶を飲みながらお姉ちゃんに聞いた。


「じゃあ今日はナツミは遅くなるのね?」

「うん。10時くらいには帰るけど」

「出るのは何時?」

「海光の終業式の後すぐ、ノエル君がうちに迎えに来てくれるの。

なんか、食事の前に行きたいところがあるんだって。

それからそのまま食事に行くわ」


海光も今日終業式なんだ。

堀西と一緒だ。


という訳で、私とお姉ちゃんは急いでサラダを頬張ると、

鞄を掴んで立ち上がった。

そしてそのまますぐ2人でダイニングを出たけど、

私はふと足を止め、顔だけ扉からダイニングの中へ戻した。


「パパ。明日のレストランって何時の予約?」

「7時だ。何か用事でもあるのか?時間は変えられるぞ?」

「ううん、いいの。じゃ、いってきます!」








「メリクリ!師匠!」


学校の廊下でお姉ちゃんの尊敬する「師匠」とばったり会ったので、

大きな声でそう言うと、師匠は顔をしかめた。


「メリクリって、久々に聞いたな」

「師匠って独り者?」

「また話が飛ぶ。ああ、彼女はいない。今は」


今は、って。

何もったいぶってんの。


「本当に『今は』なんだよ。一昨日別れたばっかりだから」

「え。師匠、本当に彼女いたんだ。仲間だと思ってたのに、裏切らないで下さいよ」

「じゃあ、俺と付き合ってみる?」

「私、博愛主義者じゃないんで」

「・・・」


ちゃんと調べたんだから!

てゆーか、酷くない?


「どうして別れたんですか?せっかくのクリスマスなのに」

「クリスマスだから、だよ」

「は?」

「だって、クリスマスに彼女なんかいたら面倒臭いじゃん。

どっか連れてけとか、何かくれとか。クリスマスなんてイベントは1人で過ごすに限る」

「最低ですね」


私の冷ややかな視線なんてなんのその。

師匠は「人の勝手だろ」とか言ってかっこつけてる。


でも、そんな風に女を自由に扱えるなんて。

さては師匠、結構モテるな?

置いてけぼりにしないでよ。


「寺脇2号も彼氏いないのか」

「2号ってやめて下さい。せめて弐号機って呼んでください」

「ふざけんな。惣流・アスカ・ラングレーに失礼だ」


この人、どっかの誰かに似てない?


「姉貴を見習って、さっさと男作れよ」

「見習ったら、とんでもない彼氏ができそうだから嫌です」

「なんだよ、寺脇の彼氏ってそんなとんでもない奴なのか?」

「はい!」


偽者とは別の意味でとんでもない奴です!


「しかもお姉ちゃん、そのとんでもない奴と結婚するんです」

「ふーん。・・・は?結婚?寺脇が?」

「はい」

「へえ。さすがは大金持ちのお嬢様だな」


師匠は、関心したように・・・というか、

呆れたように首を振った。


「それにしても同じ姉妹でも、片や婚約済み、片やクリスマスなのに彼氏なし、か」

「加えて、明日は私の誕生日です」


思いっきりVサインを作って見せる。


「・・・とことん寂しい奴だな・・・よし。明日は俺が付き合ってやるよ」


は?


「何言ってるんですか」

「二号もたまには男に言い寄られてみたいだろ?」


師匠はヘラヘラするでもなく、真面目な笑顔(?)でそう言う。


「クリスマスは1人で過ごすに限るんじゃないんですか?」

「犬の散歩くらいはしないとな」


犬って・・・


でもまあ確かに、お姉ちゃんはノエルさんとラブラブだというのに、

私だけ1人なんてちょっと寂しいじゃない?


私は、諦めて肩をすくめた。


「はあ。仕方ない。付き合ってもいいか」

「付き合ってやるのは俺の方だ。どっか行きたいところあるか?ドッグランとか?」


あのね。


「・・・そうだ。ちょっと行きたい所が、」

「なんだ、あるんじゃん」

「いえ!行きたいっていうか、行きたくないっていうか、行ってやってもいいっていうか」

「は?」



私は急いで携帯を取り出すと、家に電話をした。





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