スクールラブ反対!
ハロウィンなんてくだらない。学園祭なんてくだらない。
男子生徒の弐蒜田武志はそう口にして憚らなかった。
武志の通う学校では、学園祭兼ハロウィンイベントが行われる。
その準備をしていた教室中の生徒たちから、武志に向けて白い目が向けられた。
一部の女子生徒たちからは、目だけでなく口から文句が飛んできた。
「ちょっと弐蒜田ー!みんながやる気を失くすような事を言わないでよ。」
武志が学校の行事を嫌うのには理由がある。
武志の学校行事に対する考え方はこうだ。
武志が通う学校は共学で、男子生徒と女子生徒がいる。
男と女が近くにいれば、必ず起こるのが恋愛だ。
いや、恋愛は起こるのではなく、起こすのだ。
男子生徒も女子生徒も、いつも恋愛に飢えている。
だから学園祭などの行事では、少しでも自分を異性に良く魅せて、
あわよくば恋愛の切っ掛けにしようとしてるに違いない。
学校は勉強をするために通うところだ。
恋愛が自然に起こるのは仕方がない。それはいい。
しかし、最初から恋愛目的で行動するなど、言語道断。
学生たちは恋愛に飢えているから、何にでも恋愛に結びつける。
それが武志には許せないのだ。
だから武志は、学校の行事に参加するのに消極的だ。
できることなら参加したくない。
しかし、武志の学校では、
学園祭も授業の一環として単位が認定されているので、
武志は嫌々ながらも学園祭兼ハロウィンイベントの手伝いをしてるのだった。
時期は十月。学園祭の季節であり、月末にはハロウィンが控えてる。
武志の通う学校では、
学園祭とハロウィンを合わせた行事を行うことになっていた。
生徒たちは精力的に行事の準備をしていた。
なぜなら、行事はもう明日なのだ。
入口のアーチや校庭の出店の準備は、日が沈む前に終わらせなければならない。
クラスや学年の垣根を越えて、生徒たちは協力して準備をしていた。
するとやはり下心が出るもので、いい男やいい女のところには、
準備の手伝いを名乗り出る生徒たちが集まっていた。
「松木先輩!わたし、手伝います!」
「そうかい?ありがとう。」
松木というのは、サッカー部のエースだ。
女子生徒に人気がある。
「渡辺先輩。女の子に重いものを運ばせるわけにはいきませんよ。」
「俺たちが運びます!」
「そうなの?ありがとう。じゃあこの机を順番に並べてくれる?」
「はい!俺がやります!」
「僕も!」
渡辺というのは、可愛げな容姿をした、学校のアイドルだ。
当然、男子生徒たちは手伝いと称して群がっていく。
それらの光景を一瞥して、武志は、ふんと鼻を鳴らした。
「ほら見ろ。どうせ学園祭なんて言っても、恋愛目的じゃないか。
何が協調性だ。何が団体行動だ。ただの下心じゃないか。」
これは武志が女子生徒に相手にされない妬みではない。
実際、武志は黙っていれば女子生徒にそこそこモテる。
口が災いして、女子生徒に怖がられているのに気が付いていなかった。
学校では学園祭兼ハロウィンの準備が進んでいく。
校庭には生徒お手製の出店が並び、さながら縁日のよう。
校舎の中に入れば、廊下や教室にハロウィンのカボチャなどが飾ってある。
教室にはそれぞれ、生徒たちの普段の学習成果が展示されている。
武志の学校では、有名人を呼んでトークイベントなんてことはやらない。
学校は生徒が主役の場所、という理念の下、全ては生徒で行っていた。
では武志はというと、設営の準備の手伝いの他、
学園祭当日は、理想の学校というテーマの討論会に参加する予定だった。
運動は好きではないし、討論会なら黙って座っていればいいだろうという、
武志らしい消極的な学校行事の参加の仕方だった。
だから当日までは手伝いばかり。
今はあちらこちらの教室に呼ばれて、最後の追い込みの助っ人になっていた。
「えーっと、次は三階の教室か。」
武志が階段に向かうと、階段の踊り場に、女子生徒が一人いた。
小柄なその女子生徒は、自分の身の丈よりも大きい荷物を、
ふらふらよろよろ危なっかしい足取りで運んでいた。
きっと荷物で前もろくに見えていないのだろう。
その小柄な女子生徒は、階段を踏み外した。
「あぶない!」
武志は咄嗟に落ちてくる女子生徒を助けようとした。
ドサドサと大きな箱やら書類が落ちてきて、階段下には埃が舞い上がった。
埃が止むと、辺りは崩れた荷物で散々な有様だった。
しかし、階段から転落した女子生徒は、武志が伸ばした腕の中に収まっていた。
いわゆるお姫様抱っこというやつだ。
「だ、大丈夫か?」
「は、はい。助けていただいて、ありがとうございます。」
「そうか・・・痛っ・・・!」
女子生徒を腕の中から下ろしてから、武志は片膝を突いてうずくまった。
武志の腕や顔、外から見えない服の下にも、荷物がぶつかって痣だらけだった。
「大変!弐蒜田先輩!早く保健室へ!」
「あ?ああ・・・そんなの大丈夫・・・痛たたたた。」
「駄目ですよ、早く保健室に行きましょう。」
武志は自分より二回りは小さな女子生徒に肩を貸されて、
保健室へ連れられていった。
保健室へ連れられた武志は、早速全身を調べられた。
上着を脱いでズボンを脱ぐ時に、件の女子生徒は、
顔を赤くして横を向いていた。
保健の女性教諭に身体を触られて、武志は身体をむずむずさせていた。
「・・・骨に異常はなさそうだし、ただの打撲ね。
湿布を貼っておけばいいでしょう。」
「じゃあ、弐蒜田先輩は明日の学園祭に・・・」
「出られるわよ。ただしなるべく安静にね。」
「よかったぁ。
あたしのせいで弐蒜田先輩に迷惑かけちゃうところだった。」
そんな女子生徒の善意とは逆に、学園祭を欠席する口実を得られず、
武志は内心、舌打ちをしていた。
「はい、じゃあ湿布を貼っていきましょう。
数が多いから、あなたも手伝ってくれる?
えーっと・・・。」
「あ、小枝です。小枝花美。一年二組です。」
「そう。小枝さんね。
じゃあ、弐蒜田くんの頭から打撲痕に湿布を貼っていってくれる?
私は足元の方から貼っていくから。」
「わかりました。」
こうして上と下から女たちに身体をいじられて、
武志は余計に身体をむずむずとさせていた。
なんだか王様にでもなったような気分だった。
「痛っ!」
「あっ、ごめんなさい!」
「男が打撲ぐらいで悲鳴をあげない。」
「いってえ!」
保健の先生に足のコブを叩かれて、武志は二度目の悲鳴を上げた。
そんな事を繰り返して、なんとか湿布張りは終わった。
四肢の全てが、胴体に至るまで湿布だらけで格好が悪かった。
「先生、こんな湿布だらけで人前に出るのは嫌ですよ。
格好が悪いし、すぐ剥がれるでしょう。」
「それもそうね・・・そうだ!
明日は学園祭兼ハロウィンイベント。いい方法があるわね。
小枝さん。手伝って。」
保健の先生は、戸棚から何だか大荷物を持ってこようとしてる。
「な、何をする気ですか?」
「何も。ちょっと包帯を巻くだけ。」
「ぜ、全身にですか!?」
「ほらほら、動かないの。」
それから保健の先生と小枝は、武志の身体に包帯を巻いていった。
しばらくすると、武志は全身包帯だらけの姿になっていた。
武志は包帯の隙間から辛うじて声を上げた。
「これじゃミイラ男ですよ。いくらなんでもこれは。」
「あら、全身湿布姿じゃ嫌だって言ったのは弐蒜田くんよ?」
「それに明日はハロウィンイベント。ミイラ男にぴったりですよ?先輩。」
困惑する武志を、保健の先生と小枝はくすくすと笑っていた。
翌日。学園祭兼ハロウィンイベント当日。
朝からたくさんの人たちが学校にやってきた。
生徒の家族から、近隣の住人、他校の生徒や関係者。
学校は普段見かけない人たちでいっぱいになった。
その中を、歩いているだけで歓声が上がる人がいた。
武志である。
武志は昨日の治療で全身が包帯でぐるぐる巻き。
それを皆はミイラ男のコスプレだと勘違いして、
その完成度の高さに、嬉しそうに歓声を上げていた。
本物の治療痕なのだから、ミイラ男の完成度は高くて当然。
当の武志は包帯の下で顔を赤くしていた。
「くそっ、なんでこんな目立つ格好をしなきゃいけないんだ。
それでも、ハロウィンイベントじゃなければ大騒ぎだけど。
それよりはましか。」
平日ならば、全身包帯を巻いた姿など、驚かれるだけだっただろう。
確かに保健の先生や小枝に言われた通り、
武志の全身包帯姿は、ハロウィンイベントだからこそ見栄えがした。
武志はそれから校庭の舞台で予定されていた討論会に出席した。
テーマは、理想の学校。
武志は開始早々、即挙手をして発言した。
「理想の学校というのがテーマですが、今のうちの学校は、
その理想とはほど遠い状況にあると考えます。
何故かと言うと、授業も行事も全てが・・・」
学校の全てが恋愛に繋がっている。
そう言いたかったのだが、武志には出来なかった。
真面目な討論会で、集まった制服姿の生徒たちの中で、
一人だけミイラ男がいて、しかも真面目に討論をしていれば、
それはもうじっとしているだけでもコントにしか見えなかった。
「わはははははははは!」
「あはははははははは!」
討論会を見ていた人たちからは笑い声が上がり、
武志が言いたかった事は歓声にかき消されてしまった。
しかたがなく、武志は発言を止める他無かった。
「くそっ、この包帯のせいで!」
いっそ取ってしまおうかと考えたが、
全身湿布姿でも結果は似たようなものだろう。
武志は口を封じられ、討論会でむっつり座っているのだった。
討論会が終わって、武志は自由を取り戻した・・・はずだった。
しかし、逃げようとするところを、首根っこを掴まれてしまった。
「ちょっと待った!
あんた、その格好で討論会だけ参加するつもり?
次こそがあんたの出番でしょ!」
討論会の後に予定されていたのは、ハロウィンファッションショーだった。
生徒たちがハロウィンのコスプレをして、ファッションショーのように、
舞台上を歩いて観客たちに見せていくのである。
全身包帯姿の武志は、逃げようとしたが打撲の痛みで動けず、
無理やりこのハロウィンファッションショーに参加させられることになった。
舞台では魔女のコスプレをした女子生徒や、
カボチャ男のスーツの男子生徒がモデルのように歩いていて、
観客たちは惚れ惚れするように壇上を見ていた。
実際に惚れた腫れたの話もあるようだ。
舞台には度々、花の代わりにお菓子が投げ込まれた。
そこに現れたのが、武志である。
全身包帯姿、しかも怪我のせいでゆっくりとしか歩けない。
足を引きずるその姿はまさしくミイラ男であった。
「よっ!いいぞ、ミイラ男!」
「こっちに目線くださーい!」
カメラまで向けられてしまう始末っだった。
武志は仕方がなく、外から見えない包帯の下で恐ろしい形相をしながら、
ファンサービスまでしてやってのけたのだった。
太陽が夕日になり、学園祭兼ハロウィンイベントは終わりに近付いていく。
すると、物陰と言わず、あちこちの人目に触れるところで、
男女生徒たちが一対一になっている姿が多数見られた。
学園祭恒例の、告白タイムである。
学園祭と言えば男女が入り乱れる恋愛に相応しいイベント。
その終わりを飾るのは、愛の告白たちだった。
それを目にして、武志は内心、怒りすら覚えていた。
それもそのはず。
武志は当初、討論会でこのようなことを学校行事の目的にするのを、
批判する持論を展開するつもりだった。
それなのに、全身包帯姿のミイラ男の姿のせいで、
自分の意見を聞いてもらえず、挙句、参加したくもない学園祭や、
ハロウィンイベントに参加させられたのだ。
「こいつら、学校をなんだと思ってるんだ。」
とはいうものの、武志も気を利かせて、誰にも聞こえない小声で文句を言った。
すると、そんな武志の前に人影が小さく伸びていた。
小枝だった。
武志が昨日助けて、ミイラ男になる切っ掛けになった小枝花美が、
武志の方へ自分の影を踏みながら近付いてきた。
そして。
「弐蒜田先輩、昨日は助けてもらってありがとうございました。
あたし、先輩のことが好きです!
付き合ってください!」
まごうことなき、愛の告白であった。
武志は学園祭の最後の最後で、最も嫌う出来事に出くわしてしまった。
抱きついてくる小枝の小さな頭を撫でながら、武志は空に向かってぼやいた。
「やっぱり学校は何でも恋愛になるんじゃないか。」
でも武志にも悪い気はしなかった。
武志と小枝の恋が、
武志が思うような、学業に悪影響を与えるものにならずに済むのか、
全ては当人たちにかかっている。
終わり。
十月は学園祭と、最近はハロウィンの季節になりました。
ハロウィンはともかく、学園祭は恋の花が咲く畑。
それは良い事なのかどうか、考えてみました。
作中では、武志の学校恋愛反対の持論は展開されず、
逆に自分が恋の対象にされてしまいました。
それを受け入れたということは、武志の持論に変化があったのかも?
すべては当人たち次第です。
お読み頂きありがとうございました。




