番が来るのが分かっていて土俵に上がる義理はない
とある漫画があった。
竜人が治める国。そこに主人公が現れて、いきなりその国の王に番だと言われて求婚される。まあ、テンプレと言えばテンプレだけど、問題はその王にはすでに王妃がいて、王妃が主人公に様々な嫌がらせをして、最後に罰せられるという設定。
番と言うのはもっとも尊ばれるものとあったけど、現実で考えてみたら不倫でしょ。不倫相手に嫌がらせもしたくなるし、夫を責めたくなるのは普通でしょう。
と王妃に同情したけど。まさか。
「その王妃に転生するとは思わなかったわね……」
幸か不幸かまだ王妃になっていない。ただの公爵令嬢だ。………公爵令嬢にただのは使わないか。
ともかく、まだそんな悪役を押し付けられていないのだ。それならばさっさとフェードアウトできる。
「――お父さま。正気ですか?」
王太子――のちのヒロインを番と言い出す元凶――の婚約者の話が持ち上がった時に呆れたように父である公爵に向かって告げる。
「わたくしが殿下の番ならともかく、番ではないのに殿下の婚約者になって、王太子教育を受けるなどと……わたくしを国のための犠牲になれと」
「な、何を言うっ⁉ 確かに番ではないが、番が見つかるのはごくわずかな可能性で……」
「そのごくわずかな可能性に生涯を費やしている王族が多いではないですか。それで無理やり王太子妃になったというだけで冷たい対応をされて精神を病んだ王妃も歴史上多くいますのに」
精神を病まなかったのは番ではないが互いに尊重し合っていた間柄だけだ。
「お父さまは娘が冷遇されても自分の権力を強めるためならいくらでも犠牲になれとおっしゃるのですね」
「…………そうね。王族に嫁げば幸せ。ではないのね」
「マリアンヌ!!」
わたくしの発言に、今まで夫の味方だったわたくしの母が夫を睨みながらわたくしに賛同するように口を開く。
国のためとか、王族に嫁げば娘のためだとか思っていた母もわたくしの言葉で現実が見えたのだろう。
「セチアが殿下に一目ぼれしているから願いを叶えたいと旦那さまが告げたからそれならばと思ったけど……」
なるほど、漫画では触れられていなかったけど、王妃の一目ぼれでの結婚だったのか。
「セチアが不幸になるのが分かった今。わたくしもこの婚約は反対です!!」
「マ……マリアンヌ」
愛する妻――ちなみにわたくしには王族に比べると薄いが竜の血が流れていて、番を求める気質はしっかりある。つまり、母は感じないが父曰く番だとか。
そんな自分は番と結婚出来たのに娘には政略結婚をさせる時点でおかしい……まあ、父からすれば権力者の妻は幸せだという感じなんだろうけど、自分を振り返って考えてもらうとそれが当てはまらないのは想像できるのに。
母という強力な味方を手に入れたことでわたくしは無事王太子の婚約者の座を逃れることが出来た。
さて、破滅フラグを叩き折ったことでわたくしは晴れて自由の身として、やりたいことをしようと意気込んでいた。
竜人が治める国。いや、竜人だけではなく獣人も暮らしている世界で前世にはなかった魔法がある。
魔力の適性と言うのがあるようだが、わたくしにも魔力があって、魔法が使える。ならば、使いたいというのは人の心理だろう。
父に強請って、魔法の講師を雇ってもらい、魔法をたくさん使えるようになった。
初歩的な魔法を覚えると今度は新しい魔法を覚えたい。と様々な便利な魔法を覚えていく。
「セチアは研究熱心ね」
母は貴族令嬢らしくないと窘めることなく、わたくしの魔法を楽しく見学していて、逆に父が止めさせたいと思っているようだが、王太子の婚約者にしようとした負い目もあって、口出せない中。わたくしは新しい魔法を作り上げていた。
どうやら、漫画の世界で王妃になれたという時点で知識とかが優れていたのだろう。努力して身に付く才能があったおかげですいすいといろんなことを覚えていける。
前世の私にこのスペックがあればよかったのにと思ったけど、まあ、それはともかく。
そんな研究をしているうちにわたくしの研究に興味を持ってくれた人と親しくなって、気が付いたら婚約の話が出ていた。
「セチアの考えた魔法だけど、補助の魔道具を開発してみたよ」
「すごい。これなら魔力が少ない人でも手軽にできるわっ!!」
婚約者になったターコイズは魔道具を作る研究に目覚めて、ターコイズのおかげで、電卓や電話もどきが開発できた。
それで生活が少し便利になっていく。なんてすばらしい婚約者だろうと何度も惚れ直していく。何度も惚れ直して、バカップルと言われるほどになって、当然結婚式も来客に辛い物が欲しいと言われるほど甘いものになった。
そんな順風満帆な日々なのだが、一向に王太子が番に出会ったという話は聞かない。漫画の時期ならそろそろ会っていてもおかしくないのだが。
「あっ、そういえば」
「どうしたの。セチア」
「ううん。なんでもない」
心配そうなターコイズに首を横に振る。
(あの漫画の流れでは王妃が宝石を購入しようとしてそこの商会にヒロインが勤めていたんだっけ)
それなら会うきっかけはないな。確か王太子はそういう無駄な買い物を嫌う人だと有名で漫画の世界では王妃が無理やり連れだしたとか。
それに今その商会は……。
「宝石よりも魔石メインになっているような……」
魔石を遠方よりも取りよせてくれて貴重な魔石もくれる取引相手だ。ヒロインがそこに勤めているかも怪しい。
もしかして、出会う機会を無くさせた気がしたけど、まあ一概にそうとも言えないと忘れることにする。
「セチア?」
「掃除が手軽な魔道具とか冷めた料理を温められる魔法がないかなと思ったんだよね」
「っ!! すぐに考えるよっ!!」
わたくしをずっと抱きしめていた夫が張り切ってくれる。そんな夫を見て幸せを噛み締めたのだった。
蝶々が頑張ってしまってヒロインと王太子(のちの王)は会えずに終わってしまう。




