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生徒会、ないしょの欠員3  作者: キュー山はちお
1章 のぞみ かなえたまえ
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1章の1 副会長のマヤさんを解任します!

 12月の風。黄緑色のバイクは市内を駆け抜ける。

 甲高い音をさせ、6速から3速へとシフトダウン。低速コーナーの頂点をかすめ、ぐっと再加速。人車一体のライディングを見せるのは、スシくんだ。

 4月に泥縄第二高校に転校してきた2年生で、10月から生徒会長をしている。彼の学校は、経営側から「来年4月に隣の県の兄弟校への統合」を提示された。高額な通学費の問題などがないがしろにされ、生徒は上や下への大騒ぎになっている。

 統合を免れることができたとしても、泥縄第二の校舎は耐震基準を満たさず、新築する必要がある。現在の敷地は地盤が弱く、適地ではない。そのため生徒総会では「泥縄第一への統合に反対、独立維持及び近場への校舎新築移転を求めていく」という目標が決議された。校長からは「要望について検討はするが、ほとんど無理筋むりすじ」と言われている。

 事態の打開には、スシたちが自力で校舎の移転先を見つけて、学校経営側に示すほかない。スシはここのところ連日、午後の授業を抜けては市内や近郊の土地を見つくろっている。日本初かもしれない「校舎移転の適地探しをさせられている生徒会長」なのだ。


 スシはこの日3か所目の現地調査の土地に着いた。泥縄第二がある市の、隣にある町だ。バイクを駐立させてヘルメットを取っていると、先乗りしていた不動産業者の人が声をかけてきた。

「どうも、スシさんですね。ここまでご足労いただきまして、ありがとうございます」

「いえいえ、あのう、さっそくですが、どんなかんじでしょう?」

 スシはフェンスの内側へと案内された。

「ここは工場の跡地ですけど、この面積でグラウンドを確保して、それ以外の場所で泥縄第二さんの現状の学級数の教室と特別教室を入れるとなると、校舎は11階建てくらいになりそうですね」

「11階ですか。いやー、エレベーターを付けても、教室移動の人数におっつかない。乗り切れない、かなりの人数が階段に回るから、11階だときびしいな」

「グラウンドを、こことは別の場所に確保するというなら、もっと低い建物でもいけると思いますよ。プールの場所も取れる」

「泥縄第一の生徒がここに合流することはないので、そこまで大きな校舎はいらないんです。グラウンドをほかに確保とかいう、さらにめんどくさいことは、できれば勘弁していただきたい。プールは、全国の高校での授業実施率が今は3割くらいなので、なくてもよさそうです」

「ほかにも困った点はありまして」

「はあ」

「一部、以前の建物が残っていまして。とても学校用途に活用できない代物しろものなので、解体費用がかかるんです」

「いかほど?」

 不動産業者の人は、スシに耳打ちした。

「ええ?」

「昨今、人手不足で解体の費用が高騰こうとうしているんです」

「それで、総額だといかほど?」

「ごにょごにょ」

「ええ!」

「うちの会社は、スシさんに学校経営側に働きかけてもらって、この場所に決めてもらえれば仲介料を頂けます。うちに価格交渉権はありませんが、個人的には、スシさんがもうすこし押せば、もう少しなんとかなると思っています」

「でも、もう少し、ですよね? 校舎の建設費もあるし、今の泥縄第二の敷地を移転後に売却する見込み額から考えて、この土地の値段が払えなさそうです。ぐっと下げてもらえるなら、いいんですけど」

「うーん、こちらも頑張れる余地もあまりないので、何とも言えませんが、1か月くらい『優先交渉中』にして、その間はほかの買い手に売らせないようにしましょうか?」

「いえ、その必要はありません。優先交渉中にしてもらうにはお金がかかるでしょ? そのお金が出せないし。無駄足を踏ませてしまって申し訳ありません」

「お気になさらず。私の娘も泥縄第二を出ました。残念ながらこの土地で解決はしませんでしたが、泥縄第二生徒会さんのことをずっと応援しています」

「あ、ありがとうございます・・・うう」

 スシは涙をぬぐって、バイクでその場をあとにした。


 スシが泥縄第二高校へ戻ると、マヤが出迎えた。

「おかえりなさい。スシくん」

「ただいまです」

 マヤはスシからヘルメットを受け取り、一緒にバイク駐輪場から歩いて、生徒玄関に入った。

 マヤは生徒会副会長。泥縄第二の生徒会長は、ほかの役員を選任する権限があるが、生徒の間には「生徒会長が異性の副会長を任用した場合、それは会長が副会長に告白して、副会長が受け入れたと見なされる」という、慣わしのようなものがある。スシがマヤに生徒会長選挙より前に告白して、ОKの返事は選挙の決着前にもらっているのだが、ちまたでは「マヤは生徒会執行部の円滑なスタートのために、好きでもない男とカップルにさせられた」という観測が根強い。

 スシとマヤを正副会長にしようと画策したのは2人の女子役員。もちろんスシとマヤの心情に沿って、きちんと手順を踏んでのことだ。

「スシくん、きょうのイベントなんですけど」

「はい?」

「実は・・・」

「?」

「その、」

「あー、はいはい。わかりました。きょう生徒会室に、泥縄第一のクモルさんが来るから、」

「いいえ、そんな理由ではありません」

(マヤさんはそう言うけど、オレがクモルさんから3か月早いバレンタインチョコをもらったとき、えらくヒートアップしてたからな)

「ああもう、どう言ったらいいのか」

「?」

「ええい、単刀直入に言いますね。わたしと『化身交換』してください」

「え? これから他校生徒会とイベントですよ? 泥縄第三の正副会長も来る。その人たちは『化身』のことを知らないから、一般生徒の前でやるときと同じにしないといけませんよ? そうするとマヤさんはオレの声色こわいろが使えないから、話せなくなりますよ?」

「かまいません。スシくんのセリフはスシくんが自分で話して、スシ会長(中の人はマヤ)が話しているように見せかけてください。マヤのセリフはわたしもスシくんも話せるけれど、発言がカブるといけないので、スシくんが話すに統一しましょう。わたしが話したいことがあるときは、スシくんの背中に指文字を書いて通信しますから、そのとおりに話してください」

「わかりました。生徒会室の中の秘密化身室を使うと、化身の途中で泥縄第三の人が来ると面倒だから『表向きは音楽準備室の秘密化身室』に行きましょう」

 スシとマヤは音楽準備室に急いだ。


 ここで、泥縄第二生徒会執行部のお家芸、「化身」について簡単に説明する。

 この話でいう化身とは、いない人の代わりに、ほかの人が本人の制服を着て、本人と同じ髪型をして、メガネなどかけて、本人の声を出して、本人がいかにも言いそうなことを言う、高等技術である。

 4月に泥縄第二執行部は、必要に迫られて、生徒会長を泥縄第一に秘密裏ひみつりに出向させた。1人足りない状態を、ほかの役員が化身でフォローしたことで、なんとか半年間乗り切ったのだ。

 人手が足りなくて、男子が女子に、女子が男子に化身することは、必然だった。スシはもともと女子のような声が出せるのが特技。実績のある化身レパートリーは8キャラクター(本人役、役員のマヤ・クロハ・カニ・オロネ、教師のキクハ、泥縄第一役員のクモヤ、クモル)と、泥縄第二役員の中で最多だ。

 キラを除く役員全員が身長169センチほど。左右の眼球間距離、顔の輪郭りんかく、左右の耳の位置と形状、前歯の歯並びなども大差なく、バレにくい化身をするのに役立った。

 一般生徒でただ一人、生徒会役員の化身に気づいていたのがキラ。スシが10月に会長になったとき書記長就任を要請して、仲間になってもらえたので、泥縄第二役員の秘密は保たれた。


 スシは、「表向きは音楽室準備室の秘密化身室」で、マヤの髪の長さのウィッグを手にしながら、本音をもらした。

「オレは、変装の凄腕すごうでの人に憧れますね」

「片手でラバーマスクをはがすだけで、元に戻りますものね」

「この『生徒会、ないしょの欠員』シリーズの化身も、『3』からそうしてもらえないですかね」

「無理ですね。そんなこと言ってるスシくんに、アメちゃんあげます」


 化身交換を終え、スシ会長マヤとマヤ副会長スシは生徒会室に移動した。ほかの役員は全員そろっていた。きょう集まる3校生徒会の全メンバーのうち、男子は泥縄第二のスシとカニ、泥縄第三のスエだけで、あとの8人は女子だ。

「遅いよ、スシくん」

「ごめん、クロハさん」

 スシ会長マヤのセリフは、マヤ副会長スシが担当した。

「一日3か所の現地視察は、ちょっと多すぎじゃない?」

「うん・・・」

 無理めの日程を組んでも、適地探しの成果は挙げられていない。マヤ副会長スシはうつむいた。クロハは「そこはスシくんがうつむくとこでしょ、マヤ副会長スシじゃないでしょ」という視線をマヤ副会長スシに送った。

「まもなく泥縄第一と泥縄第三の役員の皆さんが見えます。きょうのイベントは泥縄第二の『一日生徒会長』。『一日署長』や『一日駅長』みたいなものです」

「マヤ副会長スシですけど、駅長は、よく猫がやってますよね? 貴志川きしかわ線の『たま駅長』とか」

「ペンギンが一日署長をやったこともあるそうだけど、今回は人間よ人間。泥縄第一のクモヤさんたちが言い出しっぺだから、自分らでやるでしょうね。現役アイドルだし。泥縄第二の内輪から一日生徒会長を出すのも変・・・」

 とクロハが言い終わらないうちに、しびれを切らせた泥縄第一と泥縄第三の役員ら計5人が、生徒会室になだれ込んできた。クロハを押しのけて議事進行席についたのは、おさげメガネのキロ。

「泥縄第三の副会長、キロです。こんにちは。本日、一日生徒会長を務めさせていただきます。よろしくお願いします」

「泥縄第二の書記長のキラです。泥縄第一の人が発案したのに、泥縄第三の人がやるんですか?」

「事情があって、ここにいる5人のうち、役員であって生徒会長でない人は、わたしだけになってしまったんです。少数与党の泥縄第三でしたが、連立組み替えと閣外協力の結果、女性初の一日生徒会長に」

 泥縄第二の役員全員が「え~?」という顔をした。

「泥縄第二の非正規役員、オロネです。一日生徒会長じたい、うちの学校では初めて。それなのに『女性初』というような言い方には、違和感がありますが」

「わたしは新時代の一日生徒会長を目指します。手始めに、いままでの一日生徒会長が誰もできなかったことをしたい」

「で、何をするんですか?」

「泥縄第二副会長のマヤさんを解任します!」

「えー!!」

 泥縄第二の全員が一斉に立ち上がった。


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