影の訪れと選択の時
新たなる光に包まれた世界を歩き始めてから数日が経った。草原を越え、森を抜け、小川を渡るたびに、リアナと私は互いに支え合いながら旅を続けた。しかし、どんなに明るい光の中でも、影は必ず存在することを私たちはまだ知らなかった。
ある晩、キャンプを張った森の奥で、不意に風が止まった。焚き火の炎だけが静かに揺れる中、異質な冷気が辺りを包む。木々の間から、人影のようなものがゆっくりと現れた。
「誰……?」リアナが小さく息を呑む。
「落ち着いて……まずは様子を見よう」私は彼女の肩に手を置き、足を止めた。
影の存在は、私たちに近づきながら、静かに言葉を放った。
「久しぶりだな……迷宮の勇者たちよ」
その声に覚えがあった。迷宮の試練の最中、わずかに感じた不吉な気配。あの時、私たちは完全には理解できなかったが、今ならわかる。これは新たなる試練の前触れだったのだ。
「あなたは……」私が問いかけると、影はにやりと笑い、姿をはっきりと現した。人間の形をしているが、その目は深い闇に覆われ、力の気配が私たちのものとは明らかに違った。
「私は影の使者。この世界の均衡を保つ者だ。しかし、君たちの覚醒は、均衡を脅かす可能性を秘めている」
リアナが一歩前に出る。
「均衡を守る?でも私たちは迷宮を越えて、ただ前に進もうとしているだけ……!」
「それは君たちの都合だ。だが、世界には決して避けられない選択がある」
影は手をかざすと、森の奥にひとつの幻影を映し出した。そこには、これまで歩んできた道、出会った人々、助けた者たち、そして失ったものが映し出されている。しかし、同時に選ばなければならない未来も見える――光か、闇か。私たちの行く先が二つに分かれていた。
「ど、どういうこと……?」リアナが震えながら聞く。
「この世界には、覚醒の力を正しく使う者と、力に溺れる者がいる。君たちはその試練を選ばなければならない」
その言葉に、私たちは互いに目を合わせた。迷宮で得た勇気と絆は、まだ試されるのか――。しかし、立ち止まるわけにはいかない。
「僕たちは……光の道を選ぶ!」私は力強く答えた。
「でも、何を失うことになるかわからない……」リアナはつぶやくように言ったが、その手を私の手で握り返した。
影の使者はゆっくりと頷く。
「よかろう……では選択の時が来た」
森の闇が揺れ、風が再び動き始める。光と影が交錯する中、私たちは進むべき道を自分たちの意思で決める。迷いも恐れもあった。しかし、迷宮を越えた経験が私たちに教えてくれた――恐怖や困難の前で立ち止まる必要はない。
「覚悟はできた?」リアナがそっと尋ねる。
「うん。君と一緒なら、どんな影も越えられる」私は答えた。
二人の手が強く握り合わされる。森の奥で光が強まり、影の輪郭が揺れる。その中で、私たちは選択の一歩を踏み出す――光の未来を信じて。
夜空には、無数の星が瞬いていた。闇はまだ残っている。しかし、私たちの決意はその闇に負けない。迷宮を越え、力を覚醒させた私たちの物語は、ここから新たな章へと進むのだ。
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