「悲劇の始まり」
かおむは見た目の割には素早かった。
かおむは警官をうまくまいて、
近くのスーパーの中に逃げ込んだ。
「おおー、何で、悪いこともしていないのに、
逃げるんだすかなあ」
かおむはまたぶつぶつ言いながら、
ハンカチで汗を拭っていた。
「あのー、これ落としませんでしたか?」
大きな瞳の優しそうな美少女が、
かおむがハンカチを取り出す際、
ポケットから落としたボールペンを差し出した。
「ありがとうだす。僕のだすよ」
その美少女はかおむの変な言葉がおかしいのか、
口を押さえて笑いを我慢していた。
「ああ、この言葉だすかあ?だす語だすよ」
「だす語?」
「そうだす。だす語!だす。なーんてだすなあ」
その美少女は楽しそうに笑ったかと思うと、
「久しぶりかな、こんなに笑ったの。でも...」と、
今度は暗い顔になった。
「何かイヤなことでもあるんだすか」
かおむはそう訊いて、その美少女の顔を見た。
「ううん。いいの?
だす語さんでいいかなあ?」
美少女は変なことを言う。
「だす語でもなんでもいいだすよ」
「だす語さん、また、ここで会えるかなあ?」
「ああー、僕はだすなあ。たまたまだすなあ」
「じゃあ、どこに行ったら会えるの?」
「うーん、そうだすなあ。
カミサン病院はよく行くだすよ!」
「えー、偶然!
あたし、そこに入院してるの!」
「どっか悪いんだすかあ」
かおむの問いに少女は黙り込んだ。
「悪いこと訊いただすなあ」
「いいの。私、もとえ!
覚えておいてね。じゃあね」
美少女はそれだけ言うと、その場を去ってしまった。
「もとえちゃんだすかあ。
美しい人だすなあ。
彼女なんかより」
かおむの本当の悲劇はここから始まった。